東急と首都高の4名は「運命共同体」
――「鉄道版インフラドクター」の普及促進はどういうカタチで展開しているのですか。
森さん(東急) 基本的には、首都高速道路さんと首都高技術さん、それとわれわれ東急の3者が中心になって進めていくことになると考えています。
――道路、鉄道以外の他のインフラへの支援はどうなっていますか。
田沢さん(首都高速道路) 富士山静岡空港で、すでに「空港版インフラドクター」の実用化に向けた取り組みを行っています。道路と空港は、舗装という部分が同じなんです。道路を大きくしたのが滑走路なので、実際に試してみたところ、道路の舗装点検のノウハウがほぼそのまま使えることがわかりました。空港の滑走路の管理基準は、道路よりもかなり厳しく、高い精度が求められますが、われわれは「インフラドクターは空港でもいける」という手応えを感じています。
日本国内には100箇所程度の空港がありますが、そのほとんどは自治体が管理する地方空港で、「ヒト・モノ・カネ」が不十分で、いかにコストを下げるかが課題になっている空港が多いんです。インフラドクターによって、安全確保とコストカットを両立し、空港のお困りごとを解決できると考えています。
われわれは、東南アジア、アフリカなどの発展途上国でのインフラドクターの展開も視野に入れています。首都高速道路はバンコクに駐在員事務所をもっているので、それを足がかりにする考えです。首都高グループでは、道路、鉄道、空港の点検に関するインフラドクター普及実証業務のJICA案件に応募することにしています。
――永田さんは海外にもよく出かけていますね。
永田さん(首都高技術) 私は常々、「インフラを守りたい」という信念を持っています。日本だけでなく、海外のインフラも守りたいと思っているわけです。インフラドクターは少人数で短時間でインフラの点検ができるシステムです。今、新型コロナウイルスが世界を席巻していますが、そういうタイミングだからこそ、私は、インフラドクターを普及させ、効率的に点検できる「CHANCE(好機)」であり、そのために「CHANGE(変える)」していくべきだと考えています。
インフラドクターを普及拡大していくうえで、東急さんというパートナーに出会えたことが非常に大きなチャンスだと考えています。東急さんを通じて、道路以外の鉄道分野に入っていったのがチェンジなんです。森さん、岩瀬さんという素晴らしいお二人がいらっしゃらなかったら、一緒にお仕事をしていなかったかもしれません。
森さん(東急) 最大級のお褒めのお言葉をいただきました。もしお互いにお金の話ばかりしていたら、今のような面白い仕事はできなかったと思います。志とか夢、人間に興味があるからこそ、生まれてくるものがあると考えています。例えば、田沢さん、永田さんとお話していると、世の中にある課題をすべて解決できるんじゃないかと思えてくるんです。
われわれは事業者の課題やニーズを踏まえ、このようにしたいといった想いはありますが、自分達だけで技術開発することはできないので、そこを一緒に考え実現してくれるお二人には感謝しかないです。このメンバーで数々の課題を解決してきていますので、このままいけば、われわれは、世の中のインフラに関する課題をすべて解決できる。本当にそう思っています。
岩瀬さん(東急) 私も、田沢さんと永田さんのお二人には本当に感謝しています。インフラドクターの仕事は、今まで仕事をしてきた中で、一番楽しいです。できれば、ずっとこの仕事をしていきたいと思っています。
森さん(東急) たとえ、それぞれの会社の立場が変わったとしても、この4人の関係は変わりません。すでに運命共同体なんです(笑)。
一同 (笑)。
永田さん(首都高技術) 「この人と一緒に仕事をしたい」という人とつながることが一番大事です。それが良いものが生まれる基本だと思います。
点検だけでなく、補修も行う「本当のドクターになりたい」
――インフラドクターを鉄道、空港以外のインフラにも普及していくお考えですか。
田沢さん(首都高速道路) そういう考えでいます。私の個人的な思いですが、次にやりたいのはダムです。日本のダムは違いますが、海外のダムは構造が弱いのが多いので、決壊するダムが少なくありません。ダムは、決壊する前に微妙に動くんです。事前にダムの点群データをとっておけば、その微妙な動きを検知することで、決壊を予測できるのではないかと考えています。
ダムが決壊すると、数千人、数万人の命が危険にさらされます。事前に予測して、避難させることができれば、それだけの命が助かるんです。ダムは大きな構造物ですが、点群のレーザーは200mまでは届くので、データはとれると思っています。ダメだったら、ドローンを飛ばしても良いんです。いずれにせよ、ダムの3次元点群データをとることは容易だと考えています。
同じように、インフラドクターを導入すれば、河川の堤防決壊も予想できると考えています。決壊リスクのある箇所を点群データでリアルモニタリングしておけば、水位の上昇を検知して、即座にアラートを飛ばすことができます。正確な情報をもとにアラートを出すので、「逃げなくても良かった避難」をなくすこともできます。
港湾での導入も考えています。港湾にはタワークレーンがありますが、台風などによって倒壊することがあります。クレーンの傾きの点群データをとっておくことで、微妙な傾きを検知し、倒壊を予測することができると考えています。石油プラントへの導入も可能です。石油プラントには設計図がありませんが、点群データをとっておけば、プラントのメンテナンスに役立つはずです。あるプラントメーカーでは海外でプラントを建設する際に、点群データを活用していると聞いています。プラントへの点群データ導入について、国内需要はあると思っています。
――文化財などの建築物にも活動できそうですね。
永田さん(首都高技術) できます。例えば、熊本城などの重要な建造物の3次元点群データをあらかじめとっておけば、瓦一枚一枚がどう並んでいるかまでデータとして残すことができるので、現状復旧するスピードが格段に向上します。
妙な話をするようですが、私は、自分自身が「インフラのドクターになりたい」と考えています。本当のお医者さん(ドクター)は考えることをやめない存在なんです。私も同じように考えることをやめません。インフラドクターによって、構造物の損傷を発見したとしても、そこで終わりではなく、補修する必要があります。
補修する材料がなければ、新たな材料をつくれば良いのです。お医者さんは、風邪だと診断したら、薬を処方しますよね。それと同じで、インフラを診断したら、補修の方法も提案(処方)するのが本当のインフラドクターなんです。私はそういう存在になりたい。だからずっと考え続けているんです。
山田さん(伊豆急行) われわれ鉄道事業者は、インフラのドクターからしてみれば、患者に当たるわけですが、患者としては、重症化する前にしっかりと検査を受け、適切に治療したいと思っています。
一同 (拍手)。
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首都高さんのキーパトが線路の上を走ってる?映像見てびっくりです。
専門家と思っている人間が陥りがちな視野狭窄症。
頑張らなければと思いました。