実証実験を通じて、点検機能を鉄道版にアジャスト
――実証実験はどうでしたか。
山田さん(伊豆急行) 実証実験では、インフラドクターの車両をそのまま台車に載せて行いましたが、これには最初ビックリしました(笑)。3日間かけてすべての3次元点群データを取ってもらい、そのデータを見せてもらいましたが、まるで動画のような精密な出来栄えで、感心しました。トンネル断面の切り取りや距離測定などの作業も、現場に行かなくても、システム上でかなり正確にできることもわかりました。インフラドクターは、技術的に非常に高度なシステムだと感じました。
――車両ごと台車に載せるのは永田さんのアイデアですか。
永田さん(首都高技術) インフラドクターは車両自体が一つのシステムなので、車両ごと台車に載せました。
――実証実験での工夫や苦労話はありますか。
田沢さん(首都高速道路) とりあえず「やってみよう」ということで実験を始めましたが、どういう結果になるかわからないので不安でした。台車に車を載せるのも不安でした。車両をどうやって固定するかなど苦労もしました。
実験は電車が走らない夜間に行ったのですが、道路と比べ、鉄道はとにかく暗いんです。首都高速道路は40m間隔で照明が設置されていますが、伊豆急行は山に入ると、真っ暗けで何も見えません。しかもトンネルだらけなわけです。そこで、「点検するにはライトを点けなきゃいけない」と気づきました。暗いと、インフラドクターのカメラ撮影ができないからです。車両に8台のLED照明を付けて、実験を続けました。
実際に鉄道インフラを計測してみると、車両と鉄道車両とは、揺れや振動が微妙に異なり、これによりレーザーセンサの照射角度に変化が生じた結果、計測精度に影響を与えることがわかりました。その違いを補正するキャリブレーション機器を取り付け、対策しました。また、レーザー照射には、最も精度が出る適正な角度というものがあるのもわかりました。
――東急として実証実験をどう評価しましたか。
岩瀬さん(東急) 伊豆急行の実証実験の点群データの中には、駅舎や柱などがキレイに再現できなかったなど、いくつかの課題が明らかになりましたが、これらに対ししっかりした対処を行っていただいたことにより、その後に実施した東急田園都市線での実証実験では見事に課題がクリアされていました。
インフラドクターは実用に耐える確度の高い技術
――伊豆急行は6月中旬から鉄道版インフラドクターの実用化を行うことにしていますね。
山田さん(伊豆急行) 6月18日から3日間、正式に鉄道版インフラドクターによる点検を実施する予定です。細かい技術的な課題はまだありますが、確度の高い画像処理技術は十分に実用化に耐えるということで、踏み切りました。
――首都高グループとして、実用化に向けてなにか準備していることはありますか。
永田さん(首都高技術) 伊豆急行では、すでに実証実験を通じて経験し、改善すべき点はもうわかっているので、淡々と準備を進めているところです。とくに緊張感はないですね(笑)。
田沢さん(首都高速道路) 私も永田さんがいるので安心しています(笑)。
――東急では伊豆急行での実用化をどう受け止めていますか。
森さん(東急) 東急グループにとっても、伊豆急行は重要な路線の1つです。インフラドクターの実用化によって、メンテナンス費用が大きく削減できることは、伊豆急行にとっても東急にとっても、非常に大きな意義があると考えています。従来に比べ、40%程度のコストカットが実現します。
鉄道版インフラドクターは、伊豆急行にとって必ず役に立つと確信しています。鉄道版インフラドクターについては、すでにいくつかの会社からお問い合わせをいただいています。伊豆急行での実績ができることによって、同じような課題を抱えている他社への導入も進んでいきやすくなると期待しています。
首都高さんのキーパトが線路の上を走ってる?映像見てびっくりです。
専門家と思っている人間が陥りがちな視野狭窄症。
頑張らなければと思いました。