ブラストはまだまだ手探りの技術
――ブラストに関して、発注者や施工業者がちゃんと理解していないという指摘があります。
池田社長 業界内に「ちゃんと通訳できる人」がいないんだと思います。おかしなルールがまかり通っているのも、悪意があるからではなく、単純にわからないからです。わからない事をお互い理解するまでディスカッションする文化ではないので、忖度して施工しちゃうんです。ちゃんと通訳できる人が出てきて、わからない部分を紐解いていけば、ブラストに関する無知、誤解はなくなると思っています。
ブラストという技術は、1870年ごろにアメリカのティルマンという技術者が開発した技術ですが、砂を空気に乗せて構造物にぶつけるという技術そのものは、当時から何も変わっていません。どうしてそうなるかは判明していませんが、ブラストをするとペンキが長持ちするということで、ずっと使われ続けてきた技術なんです。
――理由はわかっていないんですか?
池田社長 そうなんです。なぜブラストを使うと塗膜が長持ちするか、その原理は、厳密に言うと解明されていません。ブラストは、150年前からある技術ですが、まだまだ手探りの技術なんです。そういう状況だからこそ、「ウチのブラストこそが正しい」と言い張るいろいろな会社が乱立しちゃって、なにが正しいのかわからなくなっていると思います。
インフラの面では、日本より30年早く老化を迎えているアメリカでは、ブラストして塗装し期待耐久年数が50年にもかかわらず、10~20年しかもたないという事例が多発して、「50年もつんじゃなかったのか」ということで、今大問題になっているんです。ブラストを巡る問題は、根が深いんですよ。
米国でも日本でも、鉄のサビの原因は、結局は塩分だという話になりつつあります。鉄に付着した塩をどういう技術を使って除去するかが重要になってくると思っています。そこにプラスの技術としてブラストが加わるというイメージですね。今のルールでやるとしても、塩を除去しなければ、ブラストの力は発揮されないという考え方が必要になってきています。
日本には「日本の技術が一番」と考えている人が多いですが、他国がどのように施工しているかを気にしている人は非常に少ないです。ブラストの歴史や海外の事例などについての知見なしに「ウチのブラストが一番だ」という業者も多いです。私も以前はそうでした。ところが実際は、ブラストに関する教育システムがないし、資格制度もありません。また機材の性能評価の基準もありません。機材さえあれば、誰でもできるのが今のブラストなんです。「こんなことで良いの?」というのが正直な思いです。
忙しすぎて、幻覚を見た広告業時代
――池田社長は家業を継ぐ前は、どのようなお仕事を?
池田社長 私は函館高専を出てから、東京の大手広告業の会社で働いていました。某有名旅行雑誌とか中古車雑誌などの仕事をしていました。当初は家業を継ぐつもりはありませんでしたが、父親が体調を崩したので、7年ほど働いて広告業を辞めて、帰ってきました。
――広告業に未練はなかったですか。
池田社長 それはありましたね。仕事は楽しかったので。ただ、当時は「24時間働けますか」という時代だったので、今振り返れば、仕事は激務でした。
――激務と言いますと?
池田社長 1日4時間睡眠で、休みは3ヶ月に1日間だけとかザラでしたから。お金は稼げるんですけど、使うヒマがありませんでしたよ(笑)。忙しすぎて、幻覚を見ました。周りには過労で入院する人も多かったです。
――やっぱりそういう会社だったんですねえ。
池田社長 入社したその日に、有名な創業者さんから声を掛けられ、開口一番「君、稼いだの?」と聞かれたんです。「いえ、稼いでいません」と答えると、「じゃあ、扶養家族だな。いつ稼ぐんだ」と言われたんです。入社初日ですよ(笑)。そのあと、一部の上司ですが、完全に体育会系の人で、怒ったときに言う言葉が「貴様、それでも日本人か!」でしたからね。最近パワハラが問題になっていますけど、当時の某広告業と比べれば、はっきり言って比較になりません(笑)。
――(笑)。池田工業ではどのようなお仕事を?
池田社長 池田工業に来て、なにもわからないまま過ごしていたら、父親の知り合いのあるゼネコンに2年間半ほど出向しました。ゼネコンでは、現場代理人としてコンクリートの補修ばかりやっていました。再び池田工業に戻ったわけですが、塗装に関しては依然、なにもわからないままだったんですよ(笑)。コンクリートの補修ばかりやってきたので。どうなるかなと思っていたんですが、そのまま塗装の現場代理人をやりました。
――現場仕事は大変ではなかったですか。
池田社長 広告業時代に比べれば、良い部分が多いですね。毎日家に帰れますし、5時間以上寝れますし。
――(笑)。
仕事上、数量計算に素地調整ということを何気なく記載していたことに反省
現場がどのような作業をしているのかをもっと知らなければならないですね。
また、ブラストの品質管理等の規格が不明確であることは意外でした。