PCの診断、補修設計ができる人間は非常に限られている
――PC橋梁の専門家として、キャリアを積んできたわけですね。
下大迫さん そうですね。PC橋梁の設計は当然コンサルが行ってきたことになっているわけですが、基本的に机上の仕事なので、実際にコンクリートに触ることはありません。本当の意味でPCの設計ができる人間は非常に限られているのが実態です。
実質的には、PC橋梁メーカーが設計にも大きく関与してきた経緯があります。とくにPC橋梁の維持補修を行う場合には、PCに関するノウハウが不可欠です。例えば、PC橋梁に損傷がある場合、その原因はなんなのか推定するための知識がなければ、適切な補修を行うことはできませんので。
――橋梁の点検を請け負うコンサルには、ノウハウがないんですか?
下大迫さん まったくノウハウがないわけではありませんが、実際の点検や損傷図の作成などメインの仕事はわれわれのような会社が実施しているわけです。われわれには、多くの現場での経験とノウハウがあるので、適切なアドバイスができます。コンサルさんとは良い協力関係を築けていると考えています。
――PC橋梁点検、診断のノウハウはある程度マニュアル化できるのですか。
下大迫さん 現場によって橋の環境が大きく違ってくるので、簡単にはいかないと思います。これまでは、現場での経験や報告書の作成は、基本的にすべて「個人の財産」になっているところがありますが、その財産を本人以外の社員を含めた「共通の財産」にしていかなければいけないという思いはあります。
若い社員と一緒に現場に行って、直接指導するのが一番ですが、すべてでそれを行うのはなかなか難しい面があります。現場では「オレの知っていることは全て教えてやる」と伝えています。ノウハウを共有する上で、クラウド上で様々なノウハウをデータとして管理することで、いつでも確認できるようにするのは、1つの有効な方法だと考えています。
点検報告をウノミにする道路管理者
――道路管理者には橋梁点検のノウハウがないところもあるという話を聞きます。
下大迫さん 国土交通省が作成した橋梁の点検調査に関するマニュアルがあり、橋梁の健全度を4段階で評価することになっています。ところが、私自身、過去に「健全度Ⅲ」、早期になにかしら補修する必要があると評価された橋梁に実際に行ってみると、まだ大丈夫だったということがありました。
逆に、「健全度Ⅱ」、まだ橋の機能に支障が生じていない橋梁に行くと、これは道路を止めたほうが良い、せめて荷重制限はかけるべきという状態だったこともあります。点検を担当した業者によって、評価がマチマチです。道路管理者は、業者から上がってきた点検報告を鵜呑みにして、「健全度Ⅲ」と書かれていれば、現場を確認することもなく、「Ⅲ」と評価するわけです。このようなことは多々見受けられます。限られた時間の中では仕方のないことかも知れません。
インフラ長寿命化を国が大々的に謳っているにもかかわらず、結局すべてを業者に発注する形態は変わらないのが現状
そのような状況で、役所の担当者のスキルが上がるわけはないだろうし、修繕を含めた計画など立案できないだろう。
現実は本当に厳しいです。