“マッチング重視のインターン”を展開
――コロナ禍の学生の動向は?
田尻忠義氏 学生も就職難であることを分かっているので、動きが速いですね。早めの内定を目指して、インターンから動いていく流れになっています。ただ、私自身は学生にとってのインターンは就職活動ではなく、業界研究の情報取得の場でいいと思っていますが。
――今、オンラインインターンも行っているが。
田尻忠義氏 当社ではオンラインとリアルのインターンの双方を実施しています。月に1~2回程度、 1回のインターンで30~40人を受け入れています。 オンライン開催により、例年の3倍以上の学生が参加しています。
オンラインを活用した「業界研究セミナー」では、「住宅業界はこういう業界」「就職活動する時はこういう視点で見ないと、後でミスマッチが起こる」「業種業界を問わず、そもそも働くこととはこういう意味がある」といったことを伝えています。
これは、学生が「自身のやりたいことなのか」「成長は見込めるのか」などを様々な視点から考え、住宅業界自体に入りたいかどうかをふるいにかけてもらうためです。まずは住宅業界を知ってもらうことを目的としているので、オンラインで十分なんです。それで設計や施工も体験したいというのであれば、リアルでのインターンも実施しています。
――県外からの応募も多いとか。
田尻忠義氏 今年に限らず、もともと県外からの応募が多いですね。一番遠かった社員は熊本出身です。学生も大学に進学するときに県外に出ることが多いので、地域性はあまり関係ないんですよ。地元に残りたいという願望がなければ、県外企業も選択肢になるんです。
市場が縮小しても、採用活動は継続する
――これから戸建住宅市場は減少する見込みだが、それでも積極的に新卒採用を進める背景は。
田尻忠義氏 住宅業界は斜陽と言われていますが、工務店が手掛けることはお家づくりだけではないと思っています。当社では、注文住宅以外にも、不動産やリフォーム、保育園、民泊、エステサロンなどの事業も手掛けています。
これから工務店がどういう価値を提供できるかは、私や役員だけで考えるのではなく、若い人たちの秘めた可能性に懸けることも大事です。私自身も若い頃は何も知らず、できませんでしたが、裏を返せば、若い人の可能性は無限大。その可能性をカタチにできれば、会社は永続していくと考えています。
それに、新卒採用をストップするということは、働く社員たちにとっては後輩が入ってこないことを意味します。後輩を指導することは成長の早道ですし、そして何よりも将来にわたってお客様に安心していただける会社を目指そうとすれば新卒採用を辞めることは考えられません。
――住宅業界は離職率が高いですが、御社の定着率は驚きの9割です。この秘訣は。
田尻忠義氏 選考の場で「私たちは、こういうことに挑戦しています」と、会社としてどの方向に向かっているか、その理想や理念を伝えています。
会社を船とするならば、その船に学生が乗るかどうかの動機付けが大事です。中小企業は一人ひとりの持っているパフォーマンスを最大限発揮しなければ長持ちしません。ですから、楓工務店号に乗ってしんどいことがあっても、一緒に船を漕ぎ続けることができるかを、入社前から会社と学生の双方で合意が取れていることが大事です。船がどこを向いているか分からない、船員も別の方向を向いていたら、正しい方向に進んでいくわけがありません。
そのためには、選考段階から良いこともしんどいこともちゃんと知ってもらうことも大事です。ぶらさがり思考で与えられるままの考え方で社会人に入ると、学生時代よりもはるかにつらい立場になりますから。
社会人として働くということは、自分にできることを誰かに提供する対価として、お金や役割を与えてもらうことです。私もそうでしたが、学生は与えられていることに慣れているので、社会人はそうではないということを伝えてあげないといけません。