氷点下の世界で、道路を造る
――どういうメンバーで構成されているんですか?
橋本さん 一回目の48次隊は66人で構成されていましたが、いろいろな分野のスペシャリストが集っていました。その中で設営部門の建築・土木担当は5人で、ゼネコンからの参加は私だけでした。ほかにも気象庁や大学からの研究者が派遣され、医者や調理人は皆さんにも知られていると思いますが、電気関係では関電工さんやヤンマーさん、設備関係では日立さん、車両関係ではいすゞ自動車さんや大原鉄工さんから社員が派遣されていましたね。皆さん、それぞれ研究分野がありますが、現場での施工自体は彼らの協力のもと進めました。
――南極では、どのような仕事をされていた?
橋本さん 昭和基地のインフラ整備の計画の中でメインは、道路整備でした。アスファルトプラントがないため、山を削って平らに敷き均し、7m幅の道路を造りました。轍ができないようにテラセル構造にし、敷き詰めたテラセルの上に土を敷きならし転圧をかけ完成です。これまでの昭和基地内の道路は凸凹で、車のスピードも20km/hを出すのが精いっぱいだったんですが、今は100km/h以上出しても大丈夫になりました(笑)。

道路の施工の様子
また、ヘリポートを造りましたね。すべて人力で27m×25m四方の広さの場所にアルミ製のプレートを敷き詰めました。マイナスの気温の中での作業でしたが、太陽が近くて体感温度が高いので、半袖で作業する人もいたり、3~4日経つと強烈な紫外線で日焼けしちゃいましたね。その結果、肌にシミも残ったりして。

ヘリポートの施工の様子
――体調管理は難しい?
橋本さん 基地内には病院もあるのですが、過去データをみると年間300人ほ60どの患者数が病院を訪れています。隊員は人程度で構成されているので、数字上はひとり平均5回ほど病院のお世話になっていることになります。ちなみに私は一度も病院のお世話になっていません。
私が参加した夏隊に限って言えば、設営が中心の夏季であるため、外科関係で病院のお世話になることが多いですね。どうしても現場作業が多いため、擦り傷が絶えないなど、国内の建設現場と同様です。施工は素人の方々で行うことになるので、安全管理は特に厳しくしていますが、現場監督の立場の人間は自分一人しかいないため、全てに目を行き届かせることはとても難しいことです。
医者や料理人が生コンを練る?
――ちなみに、どんな訓練されるんですか?
橋本さん 隊員候補に決まった時点で、国立極地研究所へ挨拶に行ったらすぐに健康診断の案内を受け受診します。そして出発する年の2月初旬に、蓼科高原にて冬山に立てこもりテントで一夜を過ごし、直に雪の上に寝たりしながら寒さを体感する訓練やスキーを習得します。また、遭難等を想定した滑落体験や滑落した人を救助するレスキュー訓練などを実施します。

滑落脱出訓練の様子
その訓練が終わったら、南極観測隊ならではの心構え等を学ぶ集合教育が始まります。その後、健康診断の結果が出て健康診断結果にによっては候補者から外れる人、それを補充する新たな候補者が選定され、6月に正式に隊員として発表されます。
隊員決定後は、菅平高原で夏訓練があり、とにかくひたすら山を走らされた思いがあります。中には走行ルートを間違えてロストポジションする人も。ほかにも、消防訓練や救護訓練、そして南極に関する知識を学ぶなど1週間滞在し、最後にはソフトボール大会にて隊員同士のコミュニケーションを図りました。7月1日からは飛島建設を辞める形を取り、文部科学省の職員として国立極地研究所にお世話になります。
――配属後には何をされた?
橋本さん まずは、防衛省とのスケジュール調整ですね。五社連(文部科学省・極地研・防衛省・しらせ・観測隊)会議に参画し、南極でのオペレーションスケジュールに合わせた自衛隊の方々の支援要請等を行います。
また、南極観測隊員に対し、立てた教育計画に基づき人選を行った後、重機関連の免許を取得していただきます。私も建機教習所に通い、数種類の免許を取得させていただきました。
――橋本さん自身が教えたことも多い?
橋本さん そうですね。全体感で言うと、南極で実施する夏季オペレーションの計画に関する説明、それぞれの作業に潜む危険に対する安全対策等を講義します。
また、南極で実施する作業に関するポイントを教えるのですが、例えばコンクリート打設については、医者と調理人にコンクリートを実際練ってもらい、コンクリートの性状を理解してもらいます。南極観測隊でのコンクリート担当は昔から医者と調理人と決まっている伝統です。おそらく、医者は薬の調合の知識があり、調理人は食材を混ぜたりするのが上手だという理由からではないかと。
何より、南極の夏期間は、医者が割と暇(?)なんですよね。医者が忙しかったら大変ですけどね(笑)。すごく楽しそうにコンクリートを造っていましたよ。
観測隊に選ばれる人たちはやっぱり頭が良くて、ひとつ教えるとすぐに理解し行動に起こせる能力に長けているので、そういう意味で南極では国内より作業指示が簡単に済みましたね(笑)。
感動と憧れ