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“地球の最果て”に道を造る「南極観測隊」として働く技術者の矜持【飛島建設】

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公開日:2021.02.24 / 最終更新日:2021.03.02
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気温マイナスの状況下でコンクリート打設

――施工で特殊だったことは?

橋本さん 日本ではマイナス4℃以下でのコンクリート打設では寒中コンクリートとしての打設ルールがあります。例えば、材料を温めたり、コンクリートの種類を変更したり、コンクリート温度が決められていたり、養生にも気を使います。

しかし、南極では、マイナス10℃であろうが20℃であろうがコンクリートを打設しなくてはいけないので、発熱作用が大きく強度発現の早い、アルミ粉が入った特殊なセメントを国内で調達し、南極に持ち込んで施工しました。打設後も養生することなく、打ちっぱなしの吹き更紙のままだったのですが、3~4時間ほどで人間が乗れる状態になりましたね。そんなコンクリートですが、数十年後に強度試験を行っても強度が劣化することはありません。不思議ですね。

――施工で難しかったことや大変だったことは?

橋本さん やっぱり、決められた期間で計画したオペレーションを終了させなければいけないということですね。南極滞在期間約60日間の行程のうち、国内であれば日曜日は休みですが、現地では悪天候などでいつ休みになるかわからないわけですよ。

でも約2か月という限られた期間で、素人の方を指導しながら、夏季で実施すべきオペレーションを全て完結させなければいけないんです。ブリザードが来れば1~2日間は休暇を取らざるを得なくなるため、その工程を短縮するために昼夜で働くこともしばしば。ちょっとハードな労働になってしまったのは皆さんに対して申し訳なかったと思っています。

あと専門外の方々からしたら、ゼネコンから派遣されてきたんだから建設機械の運転含めなんでもできると思われてるんですよね。でも、ゼネコン職員の役割は、安全・工程・原価の管理で、現場では安全指示がメインなので、皆さんに理解してもらうのに最初は苦労しましたね。でも、自分含め、南極ではみんなで一緒に作り上げていく間に連帯感が生まれ、信頼も得られるようになった気がします。

他にも、コンクリートを造るための砕石を現地で調達することに苦労しました。砂取り場は過去の隊員たちが砕石を取り切ってしまったため、岩をブレーカーで砕くのですが、実は南極大陸は昔インドやオーストラリアなどと繋がっていたため、思ったよりも硬い地層だったんですね。なので、ブレーカーのノミがすぐに丸くなり、歯が立たなくなり交換やノミをとがらせたりという作業も生じたり、作業効率が悪くなりました。

1度目の南極派遣の時にはそれがわからないまま現地入りしてしまい大変苦労しましたが、2回目にはそれを理解したうえでノミも多く調達し、交換作業もうまくいきました。こんな些細なことが大切で、この経験をきちんと次の隊に引き継がなければいけないなと感じました。

砕石場にて

砕石場にて

――生活環境は?

橋本さん 一番印象に残っているのは節水を徹底していたということですね。食事の際も、使った食器をそのまま洗うのではなく、一度紙で汚れを拭き取ってから洗うことで洗剤もなるべく使用しないような努力をしました。また、洗濯も二層式の洗濯機で貯め濯ぎをしたり、生活面で少し不自由はありました。でもルールはしっかりみんなで守っていましたよ。ほかにも、夏隊は部屋も4人で共有し、プライベートの時間を確保するのが難しく大変でしたね。

あとは、当時毎日日記をつけていたんですけど、今読み返すと死にそうになっていたことを思い出します(笑)。それが、船酔いです。往復の船上で、船酔いで気持ち悪くご飯がなかなか食べることができなくて。酔い止めの薬や手首に10円玉を当てたりのおまじないも効かず。毎日の朝礼が終わったら、部屋に戻りベッドで横になっていました。横たわっていると不思議と落ち着くんですよ。

食事も船が揺れているときは食堂にも行けず、ほとんどが欠食札で、梅干しとみそ汁程度で済ませていましたね。そんな船上生活が続き体重も激減し、最終的に帰国したときには20kgほど痩せていました。ある人はこれを「南極ダイエット」と命名していたな(笑)。

これが不思議と、船を降りて地面を踏みしめた瞬間に元気を取り戻すんです。ですから、昭和基地に着いた時には安心からかすぐに活動出来ました。

南極観測船「しらせ」の上で。いつも船酔いをしていた橋本さん

南極観測船「しらせ」の上で。いつも船酔いをしていた橋本さん

南極は「人生観が変わる現場」

――南極へ行ってから、何か変わったことはありますか?

橋本さん 人生観は変わりましたよね。普段、都会でせせこましい生活をしているので、南極へ行ったら本当に心が洗われる感じです。星空もきれいですし、まだ名前のついていない星を見つけたり。動物たちも自由きままですからね。ペンギンたちが近づいてきたりもしますから。

施工現場に近づいてきたアデリーペンギン

施工現場に近づいてきたアデリーペンギン

――業務で活かされたことは?

橋本さん 現地での知見は、北海道などの寒冷地における施工の面で役立っていると思います。ただ、やはり国内で働いているときとは違う人間関係のもとで働くので、人とのコミュニケーションの取り方については非常に勉強になりました。

何より、いろんな人と知り合えましたから、いろいろな分野のスペシャリストと。今でも当時のメンバーに、知らないこと、わからないことがあれば気軽に連絡を取っています。たとえば、気象庁から派遣されていた元隊員に電話し『今、どこどこに居るんだけれど、雨何時ごろから降ってくる?』なんて聞くことも。快くすぐ調べて答えてくれますし、的中率も高い。濃い時間を一緒に過ごした仲間だからできることですね。

基地内のバーにて

基地内のバーにて

だから、いざ任期終了が近づき、南極をあとにしなくてはいけないと思うと、ホントに帰りたくなくなってくるんですよ(笑)。南極観測隊員候補になり、訓練から始まって、1年近くかけて培われた関係性があるので、いよいよ昭和基地で越冬隊員と2月には別れなきゃならないとなると、今生の別れみたいな感じになっちゃって。もう帰るときには号泣ですよ。号泣しながら男同士で抱き合ってます(笑)。

こうした新たな人間関係ができたことも含めて、南極観測隊に参加したことで役に立たないことは何一つなかったかなと思いますね。

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  • - 2022/01/15 19:46

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