コグリと呼ばれる独特の用水施設
熊本県天草市の棚底地区に、石垣の集落がある。天草最高峰の倉岳と棚底港の間の扇状地に位置する。ここは、石積みの棚田と家々を取り囲む石づくりの防風壁が特徴的な集落である。また、棚田にはコグリと呼ばれる独特の用水施設がつくられている。コグリとは、横穴式の井戸のようなもので、伏流水を田んぼに届けるための施設である。
この地は、かつて活火山であった倉岳から流れ出た大量の安山岩を含む土石流で覆われている。土石流によってできた層は水を通しやすく、地表面で水を確保するのが難しく、伏流水を地表面で使用するために考えられたものである。この地域の平均勾配は6/100と急傾斜であるために、この横に掘って伏流水を使うという方法が考え出されたと思われる。
また、このコグリは露天掘りした後に埋め戻してつくられたものであるという。水路は石積みで、天井部には平らな石が乗せてあるそうだ。石が豊富にあったということも、この方式を可能にした条件の1つである。
石垣の防風壁のある集落
もう1つの特徴である石づくりの防風壁も倉岳が関係している。材料となる石もそうだが、倉岳から吹く「倉岳おろし」という強風を避けるためにつくられているそうである。
このように、この地の風景は地質や地形条件と、その中での暮らしがつくりあげたものであると言えよう。しかしながら近年、揚水技術の発達によりコグリは減少傾向にある。風景をその「生成原理」ごと残すのは難しいのだ。
真田純子 文/写真
参考文献:岩切謙介、田中尚人、井口直「天草棚底地区の文化的景観に対する災害の位置づけに関する一考察」土木史研究講演集31、2011年
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