機械的にもブラストの「正解」はなかなか見えない
――ブラスト機械メーカーとして、ブラストの品質について、どうお考えですか?
吉原さん 造船のブラストの場合、基本的には、コンプレッサーや電気などを含め、機械的な条件が整った環境で施工しているので、ある程度均一な仕上がりが期待できるところがあります。
ですが、橋梁の場合は、まったく同じ条件で施工できるということは基本的にないと思います。ブラストしたい橋梁に対して、施工業者さんが施工条件に合ったブラストの機械をその都度セットアップする必要がありますし、様々あるコンプレッサーや発電機なども、そこに合ったものを選ぶ必要があります。深澤さんがおっしゃったように、ブラスト施工は「なにが正解かなかなか見えない」部分があります。
われわれがブラスト機械を製造するに際しては、お客様から施工条件などについてヒアリングして、施工条件に合った機械をご提案しています。機械が完成したら、機械の試運転まで立ち会います。お客様によっては、「これはダメだよ」と言われることもあります。お客様のご要望を踏まえ、適宜マイナーチェンジしながら、日々製品開発を行っているところです。
――機械のスペックによって、ブラストの品質がある程度左右されると言えますか?
吉原さん それはあります。ある程度のブラストの機械であれば、一定のグレードの品質は出せると思います。ただ、短納期や施工量が多い場合は、それに応じたスペックの機械を選ぶ必要があります。そのほかにも、エアホース、ブラストホース、ノズル口径、回収ホースのサイズや研削材も適切に選ぶ必要があります。
研削材の使い分けをしたいが、なかなか難しい
――ブラストの品質管理を考える上で、研削材の果たす役割は大きいと思いますが。
河原さん ブラストを行う際、実際に橋に当たるのは研削材なので、われわれの責任は重いと感じており、きめ細かく見てみているつもりではいますが、今のところ、研削材としてまだまだベストではないと考えています。
われわれとしても、オーダーメイド的に砂を使い分けることを本当はやりたいのですが、対象物の劣化状況、残存する塗膜厚など現場によって違います。また、ブラストに適した砂の大きさがだいたい決まっているので、いろいろ使い分けるということがなかなか難しいところがあります。研削材の粒が粗いと、表面がボコボコになるし細かいと塗膜がとれない。そこのバランスをどうとるかが非常に難しいんです。研削材については、自社で開発研究したり、お客さんからのフィードバックを取り入れたり、常に改善に向けて取り組んでいるところですが、なかなか答えが導き出せないでいます。
研究会としてアウトプットを出していかなければならない
――皆さんのお話を聞いて、会長としてどう感じましたか?
小寺さん 私を含め、研究会のメンバーですら、ブラストに関する知識がまだまだ足りていないと感じています。防食や塗装などの様々な参考書ですら、「何故そうなるか?」ということの記載がなかったり、「どうしてこの項目が必要だ」という記載がなかったりします。現場で疑問に思っていることなども、どこにも記載がないことが多いので、われわれでも対応の仕方がわからないことがあったりします。
ISO8051の本もそうですが、「どの様に見て、どの様に評価して、どの様に運用するか?」をわかっていない人たちが、施工を管理していたり、品質を評価していたりしている。しっかりとエビデンスを取って、それをしっかりと伝えていく。ブラストというか、素地調整自体をどれだけ真剣に考えているかが問題だと思っています。
エビデンスがとれていない、根拠のない話が書かれていたりするからです。本に書かれていることをどう見るかということが、われわれにもわかっていないんです。そもそも、なぜ本を見るのかということについて、どれだけ真剣に考えるかが問題だと考えています。
研削材で言っても、なぜ金属系と非鉄系があるのかについて、誰もちゃんと考えていません。構造物の種類、被膜の種類、サビ方などによって、研削材の種類も変わるはずです。粒度でも変わるはずですし、アルミナで言えば、硬度でも変わってきます。本当は、ここまで切り込んで、使い分けを考えなければいけないと思っています。
ところが、弊社も含め、ブラストを行う際は、だいたい同じ研削材を使っています。だいたいどこの会社も「ウチはこうだ」と言っているんですが、「使いやすいから」使っている程度で、ちゃんとした根拠がないんです。経験知だけの話で、まったく学術的ではありません。
私が冒頭に「エビデンスが必要だ」とお話ししましたが、研削材で言えば、適材適所で研削材を使い分けるためには、ちゃんとした根拠、エビデンスが必要だということなんです。それは、機械も同じ状況だと思っています。
マニュアルもそうです。ブラストに関するマニュアルはチョコチョコ出ていますが、「この塗装にはこの研削材を使うのが適切だ」というような記載は一切ありません。マニュアルである以上、そこの記載がないのは本当はおかしいんです。
だから、われわれは、ブラストに関する様々な根拠を示していかなければならない、そのためには学問的な裏付けが必要だと言っているんです。「ブラストが良い」のはわかっているけども、「なぜ良いのか」「どう良いのか」について、ちゃんと根拠を持って胸を張って言えるようにならないといけない。そうしないと通用しない時代がくる。われわれの研究会からそういうアウトプットを出していかなければならない。私はそう思っています。
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