復興まちづくりの本質がブレている
――復興まちづくりとは言え、以前のまちからガラッと変えるのは、住民の合意が得られにくいのでしょうか?
原さん どの水準までの復興まちづくりを目指すのかがカギになると思っています。例えば、防災に特化して被害ゼロを目指すのであれば、かなり大掛かりな復興まちづくりとなり、痛みも伴います。住民との合意形成のハードルも高くなります。
その一方で、減災ということで、必要最低限経済活動を営むことを目標とした復興まちづくりも考えられます。津波の影響があるにせよ、漁業をなりわいがある自治体では、こういう考えを取り入れることも必要かもしれません。
復興まちづくりを実行した後、例えば、庁舎施設を移転した跡地を考えることもあり得ます。
これらの水準は、住民との要求水準、合意形成のいかんによって決まってきます。水準を下げれば下げるほど、住民との合意形成は得やすくなりますが、その分、災害抑制の効果も低下します。新たなまちづくりがなかなか進まない現在の東北の被災地と同じ道を辿ることになります。
そういう意味で、復興まちづくりは非常に難しいです。つまるところ、「まちの復興というものをどう見据えるか」が本質なんです。復興まちづくりがうまくいっていない自治体は、この本質がブレているように見えます。どこかで「地震が来ても、ウチは大丈夫だろう」と思っているのではないかと。
ブレないためには、地震を現実的な問題として真剣に捉えて、行政と住民双方が冷静沈着に議論することが不可欠だと考えています。まちの将来像を今から真剣に考え、創造力を働かせなければ質の高い復興には発展しません。
長期浸水への備えは、まさにドボクのチカラが試される領域
――高知市内では、海沿いの広い範囲で長期浸水すると予想されていますが、この場合の復興まちづくりについて、どうお考えですか。
原さん 長期浸水の対応は、東日本大震災直後から有識者会議を開いて、高知県、高知市が連携しながら対応策を進めています。次期南海トラフ地震では、高知市内では、東日本大震災にはなかった揺れと津波、液状化、火災などが複合的に生じることで甚大な被害が生じるリスクが高いと考えています。高知市は県の人口の半分程度(30数万人)が一極集中している自治体で、産業も集積しています。そういうまちが長期間浸水するということは、日本の近代災害史ではほとんど例がありません。
実際にどういう被害が生じるのか、想像できないところがあります。高知市の復興まちづくりを進めるためには、複合災害対策という知見に乏しい状況から答えを模索しなければなりません。ただ、浸水が想定されるエリアでは、すでに生活や経済が根付いているので、まちの機能をすべて移設するような対策は取れません。
さきほど申し上げた復興の水準で言えば、津波による浸水規模が大きいことを念頭に「浸水をなるべく軽減する」水準に設定するのが現実的だと考えています。水に浸かることを前提とした復興まちづくりをつくらざるを得ないということです。被害ゼロはもちろん、被害を減らすという水準ですら、現実的には難しいからです。ハード的には、堤防整備や液状化対策により浸水を食い止める、止水対策が要です。本来は、浸かった後どうするかについてもあらかじめ議論しておくべきですが、ハード施設が整備途上の現状では、議論が煮詰まっていません。
復興まちづくりに甚大な影響を及ぼすのは浸水だけでなく、浸水の長期化というリスクです。浸水の長期化を避けるには、技術的に可能な手法を考えるほかありません。例えば、排水機場を有効活用するための耐震化や排水ポンプ車の適正な配置であったり、万が一、防潮堤が破堤した場合に備えた土木資材の備蓄などです。長期浸水への備えは、事前対策を含めてまさにドボクの力が試される領域だと考えています。
ソフト面では、耐震化の徹底と津波の浸水に備えて命の保護には発災直後から迅速に避難する、最善を尽くして「逃げる」を徹底するしか手はありません。ただし、「逃げる」の徹底は簡単なことではありません。東日本大震災では、避難が思うようにいかず、多くの尊い命が失われています。ソフト対策は、ハード対策に比べ住民の意識による部分が多いので、過度な期待は禁物です。防災啓発を行ったり、発災直後から行政が呼びかけても、行動に移さない住民は必ずいますから。
長期浸水に対しては、ハード、ソフトの両面でドボクの力が試されています。被災を最小化するうえでは、ドボク的な対策を着実に講じて、物理的に浸水範囲を最小化しなければなりません。
「釜石の奇跡」を美化してはいけない
――長期浸水するエリアは、液状化のリスクもかなり高いんじゃないでしょうか。
原さん そうです。私は、行政の方々に「時間軸で物事を整理してください」と口を酸っぱくして言ってきています。例えば、揺れや液状化のリスクは、地震発生直後から生じる現象です。揺れに起因した被害は事前対策があって防げるものです。この部分をおろそかにしてはなりません。津波は僅かでも対処する時間があります。
世間的には「釜石の奇跡」と言われていますが、あれは奇跡と読んだり美化してはいけないと思います。事前の教育や訓練をしっかりやっていたから、逃げることができたんです。住民は当たり前のことをしたまでです。
陸前高田市、気仙沼市、亘理町などでは液状化が発生し、住民の避難が円滑にできなかったと聞いています。液状化が起きると、逃げることすらままならなくなるのですが、このような命に直結した被災要因にもかかわらず、地盤対策にはなかなか目が向きません。地盤は非常に地味で当たり前の存在だからです。
液状化のリスクと対策については、もっと議論が必要だと思っていますが、地震後数年すると止まってしまっています。津波を防ぐ防潮堤などの海岸対策ができたら、それで津波避難が万全と思っているフシがあります。実際はそう簡単なものではありません。
最初は「木を使うなんて信じられない」と言われた

丸太による液状化対策工事(高知県高知市新庁舎建設工事) ※画像:原教授提供
――「丸太打設液状化対策工法(LP-LiC工法)」による地盤対策を研究されているそうですが、どのようなものですか?
原さん 丸太打設による地盤対策は、われわれが10年以上年前に始めた研究です。研究を始めた最初のころは、研究者仲間に「木を使うなんて今時信じられない。どうしてそんな時代遅れなことをやるのか」と言われました。
研究を巡る状況が大きく変化したのは、2010年の東日本大震災でした。千葉県浦安市などの埋立地でも液状化の被害が出ました。浦安市さんより、液状化対策を検討する仮定において、丸太打設が防災にも環境にも良いんじゃないかということになったんです。その理由は、使用する丸太が純国産の木材であること、振動騒音の少ない工法であること、丸太にストックされた二酸化炭素が貯蔵できて環境によいことでした。丸太打設は、縄文時代からある古い技術ですが、われわれの研究を通じて、技術的なエビデンスが蓄積され、技術が見直されていたこともあります。
東日本大震災以降、模型実験や室内試験などの基礎的な研究に加えて、浦安市他いくつかの地点で丸太打設の実証実験を行いました。高知市仁井田の埋め立て地では、林野庁の支援を受けて試験施工を行いました。その結果、「これでいける」という技術的なエビデンスが蓄積されて、実施工に採用されました。試験施工を見に来られた行政の方から、効果も高いし、県産の木材活用は林業の活性化にもつながる。カーボンを溜め込んだ木材を地中に埋めるため環境にも優しいので、「これは非常に良い」というお話を多数いただきました。
その結果、2017年に、高知市役所新庁舎の地盤対策として、丸太打設が採用されました。この工事では、高知県産のスギの木約1万5,700本を地中に打設しました。LP-LiC工法としては世界最大規模です。鉛筆状に加工した直径16cm、長さ約4mの丸太杭を敷地内に0.5m〜1m間隔で打ち込みました。
この工法をテレビで知った青森県からオファーを受け、八戸港舘鼻岸壁の耐震対策に丸太打設工法が採用されました。民間企業が行っていた浦安市の宅地造成の採用実績もあります。液状化対策には、いろいろな方法がありますが、丸太打設の良さが徐々に周知されつつあるなと感じているところです。
CLTは調べてもメリットの話しか出てこないから信用していない。木と樹脂なんだからデメリットが無いわけが無い。デメリットが示されないと在来工法と比較ができないから、ほとんどが公共事業の土木で普及するのは難しいと思う。