施工の神様 powered by 施工管理求人ナビ
  • 施工の神様とは?
  • 記事掲載・取材をご希望の方へ
  • キャリアを考える
  • インタビュー
  • 失敗を生かす
  • 技術を知る
  • エトセトラ
  • 資格を取る
  • 建設用語

南海トラフ地震に備えるためには、東北の被災地の”今の姿”を見るべき

  • インタビュー
  • 技術を知る
公開日:2021.11.04 / 最終更新日:2022.08.16
  • シェア
  • Tweet
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • 1 コメント
  • メールで共有

復興まちづくりの本質がブレている

――復興まちづくりとは言え、以前のまちからガラッと変えるのは、住民の合意が得られにくいのでしょうか?

原さん どの水準までの復興まちづくりを目指すのかがカギになると思っています。例えば、防災に特化して被害ゼロを目指すのであれば、かなり大掛かりな復興まちづくりとなり、痛みも伴います。住民との合意形成のハードルも高くなります。

その一方で、減災ということで、必要最低限経済活動を営むことを目標とした復興まちづくりも考えられます。津波の影響があるにせよ、漁業をなりわいがある自治体では、こういう考えを取り入れることも必要かもしれません。

復興まちづくりを実行した後、例えば、庁舎施設を移転した跡地を考えることもあり得ます。

これらの水準は、住民との要求水準、合意形成のいかんによって決まってきます。水準を下げれば下げるほど、住民との合意形成は得やすくなりますが、その分、災害抑制の効果も低下します。新たなまちづくりがなかなか進まない現在の東北の被災地と同じ道を辿ることになります。

そういう意味で、復興まちづくりは非常に難しいです。つまるところ、「まちの復興というものをどう見据えるか」が本質なんです。復興まちづくりがうまくいっていない自治体は、この本質がブレているように見えます。どこかで「地震が来ても、ウチは大丈夫だろう」と思っているのではないかと。

ブレないためには、地震を現実的な問題として真剣に捉えて、行政と住民双方が冷静沈着に議論することが不可欠だと考えています。まちの将来像を今から真剣に考え、創造力を働かせなければ質の高い復興には発展しません。

長期浸水への備えは、まさにドボクのチカラが試される領域

――高知市内では、海沿いの広い範囲で長期浸水すると予想されていますが、この場合の復興まちづくりについて、どうお考えですか。

原さん 長期浸水の対応は、東日本大震災直後から有識者会議を開いて、高知県、高知市が連携しながら対応策を進めています。次期南海トラフ地震では、高知市内では、東日本大震災にはなかった揺れと津波、液状化、火災などが複合的に生じることで甚大な被害が生じるリスクが高いと考えています。高知市は県の人口の半分程度(30数万人)が一極集中している自治体で、産業も集積しています。そういうまちが長期間浸水するということは、日本の近代災害史ではほとんど例がありません。

実際にどういう被害が生じるのか、想像できないところがあります。高知市の復興まちづくりを進めるためには、複合災害対策という知見に乏しい状況から答えを模索しなければなりません。ただ、浸水が想定されるエリアでは、すでに生活や経済が根付いているので、まちの機能をすべて移設するような対策は取れません。

さきほど申し上げた復興の水準で言えば、津波による浸水規模が大きいことを念頭に「浸水をなるべく軽減する」水準に設定するのが現実的だと考えています。水に浸かることを前提とした復興まちづくりをつくらざるを得ないということです。被害ゼロはもちろん、被害を減らすという水準ですら、現実的には難しいからです。ハード的には、堤防整備や液状化対策により浸水を食い止める、止水対策が要です。本来は、浸かった後どうするかについてもあらかじめ議論しておくべきですが、ハード施設が整備途上の現状では、議論が煮詰まっていません。

復興まちづくりに甚大な影響を及ぼすのは浸水だけでなく、浸水の長期化というリスクです。浸水の長期化を避けるには、技術的に可能な手法を考えるほかありません。例えば、排水機場を有効活用するための耐震化や排水ポンプ車の適正な配置であったり、万が一、防潮堤が破堤した場合に備えた土木資材の備蓄などです。長期浸水への備えは、事前対策を含めてまさにドボクの力が試される領域だと考えています。

ソフト面では、耐震化の徹底と津波の浸水に備えて命の保護には発災直後から迅速に避難する、最善を尽くして「逃げる」を徹底するしか手はありません。ただし、「逃げる」の徹底は簡単なことではありません。東日本大震災では、避難が思うようにいかず、多くの尊い命が失われています。ソフト対策は、ハード対策に比べ住民の意識による部分が多いので、過度な期待は禁物です。防災啓発を行ったり、発災直後から行政が呼びかけても、行動に移さない住民は必ずいますから。

長期浸水に対しては、ハード、ソフトの両面でドボクの力が試されています。被災を最小化するうえでは、ドボク的な対策を着実に講じて、物理的に浸水範囲を最小化しなければなりません。

「釜石の奇跡」を美化してはいけない

――長期浸水するエリアは、液状化のリスクもかなり高いんじゃないでしょうか。

原さん そうです。私は、行政の方々に「時間軸で物事を整理してください」と口を酸っぱくして言ってきています。例えば、揺れや液状化のリスクは、地震発生直後から生じる現象です。揺れに起因した被害は事前対策があって防げるものです。この部分をおろそかにしてはなりません。津波は僅かでも対処する時間があります。

世間的には「釜石の奇跡」と言われていますが、あれは奇跡と読んだり美化してはいけないと思います。事前の教育や訓練をしっかりやっていたから、逃げることができたんです。住民は当たり前のことをしたまでです。

陸前高田市、気仙沼市、亘理町などでは液状化が発生し、住民の避難が円滑にできなかったと聞いています。液状化が起きると、逃げることすらままならなくなるのですが、このような命に直結した被災要因にもかかわらず、地盤対策にはなかなか目が向きません。地盤は非常に地味で当たり前の存在だからです。

液状化のリスクと対策については、もっと議論が必要だと思っていますが、地震後数年すると止まってしまっています。津波を防ぐ防潮堤などの海岸対策ができたら、それで津波避難が万全と思っているフシがあります。実際はそう簡単なものではありません。

最初は「木を使うなんて信じられない」と言われた

丸太による液状化対策工事(高知県高知市新庁舎建設工事) ※画像:原教授提供

丸太による液状化対策工事(高知県高知市新庁舎建設工事) ※画像:原教授提供

――「丸太打設液状化対策工法(LP-LiC工法)」による地盤対策を研究されているそうですが、どのようなものですか?

原さん 丸太打設による地盤対策は、われわれが10年以上年前に始めた研究です。研究を始めた最初のころは、研究者仲間に「木を使うなんて今時信じられない。どうしてそんな時代遅れなことをやるのか」と言われました。

研究を巡る状況が大きく変化したのは、2010年の東日本大震災でした。千葉県浦安市などの埋立地でも液状化の被害が出ました。浦安市さんより、液状化対策を検討する仮定において、丸太打設が防災にも環境にも良いんじゃないかということになったんです。その理由は、使用する丸太が純国産の木材であること、振動騒音の少ない工法であること、丸太にストックされた二酸化炭素が貯蔵できて環境によいことでした。丸太打設は、縄文時代からある古い技術ですが、われわれの研究を通じて、技術的なエビデンスが蓄積され、技術が見直されていたこともあります。

東日本大震災以降、模型実験や室内試験などの基礎的な研究に加えて、浦安市他いくつかの地点で丸太打設の実証実験を行いました。高知市仁井田の埋め立て地では、林野庁の支援を受けて試験施工を行いました。その結果、「これでいける」という技術的なエビデンスが蓄積されて、実施工に採用されました。試験施工を見に来られた行政の方から、効果も高いし、県産の木材活用は林業の活性化にもつながる。カーボンを溜め込んだ木材を地中に埋めるため環境にも優しいので、「これは非常に良い」というお話を多数いただきました。

その結果、2017年に、高知市役所新庁舎の地盤対策として、丸太打設が採用されました。この工事では、高知県産のスギの木約1万5,700本を地中に打設しました。LP-LiC工法としては世界最大規模です。鉛筆状に加工した直径16cm、長さ約4mの丸太杭を敷地内に0.5m〜1m間隔で打ち込みました。

この工法をテレビで知った青森県からオファーを受け、八戸港舘鼻岸壁の耐震対策に丸太打設工法が採用されました。民間企業が行っていた浦安市の宅地造成の採用実績もあります。液状化対策には、いろいろな方法がありますが、丸太打設の良さが徐々に周知されつつあるなと感じているところです。

次のページ3つの弱点

«123»
  • この記事をシェアする64
  • この記事をツイートする3
この記事のコメントを見る1
こちらも合わせてどうぞ!
「公共投資=無駄遣い」か?公共投資の必要性と、リスクから身を守る術
「公共投資=無駄遣い」か?公共投資の必要性と、リスクから身を守る術
高まる公共投資へのニーズ 国土技術研究センターは7月下旬、社会資本に関するインターネット調査 2021にて、インフラに関する国民の意識調査の結果を発表した。 「今後、公共事業の予算を増やすべきか」を聞いたところ、増加を希...
南海トラフ地震への備えは?四国の建設力は? 国土交通省・四国地方整備局に聞いてきた
南海トラフ地震への備えは?四国の建設力は? 国土交通省・四国地方整備局に聞いてきた
国土交通省四国地方整備局にインタビュー 国土交通省四国地方整備局(本局:高松市)は、徳島県、香川県、愛媛県、高知県の四国4県を所管する国の出先機関で、四国各地に20の事務所、35の出張所などを配置し、河川、道路、港湾など...
BIMを活用したいけれど、どうすればいい? アウトソーシングや人材派遣で解決しよう
BIMを活用したいけれど、どうすればいい? アウトソーシングや人材派遣で解決しよう
※本記事は『建設ITワールド』の許諾を得て掲載しています。 「BIMを活用したいけれど、人材が見つからない」「どう始めたらいいの?」—そんな悩みを解決するのが、ウィルオブ・コンストラクション(本社:東京都新宿区)が提供す...

この記事を書いた人

四国の犬
この著者の他の記事を見る
基本的には従順ですが、たまに噛みつきます。
南海トラフ地震に備えるためには、東北の被災地の”今の姿”を見るべき 南海トラフ地震に備えるためには、東北の被災地の”今の姿”を見るべき

施工の神様をフォローして
最新情報をチェック!

  • フォローする5388

現場で使える最新情報をお届けします。

  • 施工の神様
  • インタビュー
  • 南海トラフ地震に備えるためには、東北の被災地の”今の姿”を見るべき
  • 施工の神様
  • 技術を知る
  • 南海トラフ地震に備えるためには、東北の被災地の”今の姿”を見るべき

コメント(1)

コメントフォームへ
  • - 2021/12/03 22:52

    CLTは調べてもメリットの話しか出てこないから信用していない。木と樹脂なんだからデメリットが無いわけが無い。デメリットが示されないと在来工法と比較ができないから、ほとんどが公共事業の土木で普及するのは難しいと思う。

    返信する 通報する

コメントする コメントをキャンセル


コメントガイドラインをお読みになった上で投稿してください。

email confirm*

post date*

あなたも施工の神様に記事を投稿してみませんか?
おすすめ記事
  • 【髙松建設】「古来の技術と新たな発想を融合する」世界最古の企業”金剛組”再生でベスト・プロデュース賞を受賞

    【髙松建設】「古来の技術と新たな発想を融合する」世界最古の企業”金剛組”再生でベスト・プロデュース賞を受賞

  • 点数稼ぎに走るのは「なんか違う」

    点数稼ぎに走るのは「なんか違う」

  • 「暗闇の先の光見て」コロナ禍の”希望のトンネル貫通写真”が心に響く

    「暗闇の先の光見て」コロナ禍の”希望のトンネル貫通写真”が心に響く

  • 「地元の人間の意地。ただ、それだけ」 家族を失ってもなお、愛する石巻の復興に命を懸けた現場監督

    「地元の人間の意地。ただ、それだけ」 家族を失ってもなお、愛する石巻の復興に命を懸けた現場監督

  • 建設業界をイヤになった主任技術者は”造園”へ急げ!

    建設業界をイヤになった主任技術者は”造園”へ急げ!

  • 人と機械はどう補完? これからの橋梁点検

    人と機械はどう補完? これからの橋梁点検

注目のコメント
  • 権力を振りかざす世間知らずの勘違い野郎どもは本当に消えていただきたいです。

    「○んでくれ」「くせーんだよ」 発注者からの脅迫・暴言集【実録】
  • 公務員なんて、甘ったれのわがまま人間の巣窟。特に、バブル世代にパワハラとかするのが多い気がする。

    「○んでくれ」「くせーんだよ」 発注者からの脅迫・暴言集【実録】
  • 34℃で湿度がどれくらいか判断出来ないが今日びの38℃超え猛暑に比べればまだまし。 皆が言う体調管理なんかで対応出来る範囲を超えている。 朝一番から警戒レベルMAXが普...

    最高気温36℃の”猛暑日”。舗装工事は中止すべきか?【熱中症対策】
  • 勝手に喫煙休憩するな→即飛び蹴り シュールなコントみたいだな

    「暴力も必要かも」大手ゼネコンの若手現場監督に、飛び蹴りした鳶職人
  • 辞めていいんじゃねーか? 下請けの奴隷ならともかく、大手ゼネコンの現場監督ならやりたい奴いくらでもいるだろw

    「暴力も必要かも」大手ゼネコンの若手現場監督に、飛び蹴りした鳶職人
  • 若くても無能なら要らない

    「暴力も必要かも」大手ゼネコンの若手現場監督に、飛び蹴りした鳶職人
  • そんな無能はやめた方が現場のためだよ

    「暴力も必要かも」大手ゼネコンの若手現場監督に、飛び蹴りした鳶職人
  • 飛び蹴りは普通に罪にならないか?

    「暴力も必要かも」大手ゼネコンの若手現場監督に、飛び蹴りした鳶職人
  • 休憩するなら水分取るだけで充分なのにねwタバコまで吸いに行き注意されると即飛び蹴りとはヤニ中毒は危険だな

    「暴力も必要かも」大手ゼネコンの若手現場監督に、飛び蹴りした鳶職人
  • 結局本人の申告によるものでしかないので、無理がありますよ。 すべての作業員さんにカメラつけて録画でもするならば別ですが。 公共工事にしろ民間工事にしろ、昔からすれ...

    「チェックシートで熱中症を防ごう!」 それができたら誰も苦労しない
  • 熱中症チェックシートは本当に不毛。 挙句の果てに、それを書いていても熱中症が発生したら「管理が甘かったからだ!」といってチェック項目を増やしたり、記入内容の真偽を...

    「チェックシートで熱中症を防ごう!」 それができたら誰も苦労しない
  • 建設業界のパワハラと言うよりは特定の会社の特定の上司のパワハラ。

    元自衛官が建設業界に転職したら、”パワハラの巣窟”でした
  • 返信した人の日本語もわかりません。 やり直し

    元自衛官が建設業界に転職したら、”パワハラの巣窟”でした
  • 建設業界って 何処に業界のパワハラをかいてるの? やり直し

    元自衛官が建設業界に転職したら、”パワハラの巣窟”でした
  • 所長が部下の人間性を否定するような現場がうまく回るはずがない。 現場は信頼関係で成り立っている。 現場の雰囲気は主に所長がつくりあげあてしまう。そのような管理職が...

    65歳以上と外国人は、全員”安全弱者”のヘルメットバンドをつけろ!? 納得できない話
  • この著者は神様とは思えないです まず、職人は工程を縮めたいんじゃなく無駄が嫌いなんです。それは管理者もだと思いますよ。 無駄=損害ですからね。

    「不仲説」 現場監督と職人
  • スーパーゼネコンの監督とは仲良くなれないな。

    「不仲説」 現場監督と職人
  • まったく現場の事を理解していない! もっと色んな事を経験して、勉強して下さい。

    「不仲説」 現場監督と職人
  • 不仲は横柄で生意気ななゼネコンのセコカンが原因だと思いますけどね。 舐められない様な教育受けているので仕方ない所もありますが。 職人さんも見栄えよりも工数へらして...

    「不仲説」 現場監督と職人
  •  不仲なら発注しない、請負わない。 お互い仕事できなくなればいい。

    「不仲説」 現場監督と職人
  • キャリアを考える
  • インタビュー
  • 失敗を生かす
  • 技術を知る
  • エトセトラ
  • 資格を取る
  • 建設
    用語
【PR】施工管理技士の転職に特化した求人サイト
施工の神様ロゴ
  • 施工の神様とは?
  • 原稿募集
  • 取材ライター募集
  • 運営会社
  • PR・プレスリリース
  • プライバシーポリシー
  • 広告掲載について
  • お問い合わせ
Copyright © 2025 WILLOF CONSTRUCTION, Inc. All Rights Reserved  リンクフリー
施工の神様