東急建設株式会社(東京都渋谷区)はこのほど、建築物のライフサイクルを通じたエネルギーマネジメントやCO2削減に向けた取組みとして、BIMを活用したエネルギーシミュレーションツール「TC-BES(Tokyu Construction-Building Energy Simulator)」を開発、2022年度より試験導入した。設計初期段階で、エネルギー消費量を低減するシミュレーションを行い、短時間で最適なZEB提案をする。
同ツールは、BIMから生成したエネルギーモデルと、同社が過去に携わったZEB案件のデータベースを利用し、「Open Studio」(エネルギー消費性能計算プログラム)で解析を行う一連のフローを自動化。これにより、短時間で簡易に最適なZEB提案が実現し、設計初期段階における一次エネルギー消費量など、各種ケーススタディーを、複数案比較・改善することができる。
ツール開発は、同社の長期経営計画で「3つの提供価値」として「脱炭素」、「競争優位の源泉」では「デジタル技術」を掲げており、その両領域を加速させるための取組みの一環。今回、オンライン記者説明会で東急建設の建築事業本部技術統括部の林征弥デジタルエンジニアリング部長、建築事業本部設備統括部設備部設備技術グループの中川政一グループリーダー、価値創造推進室デジタルイノベーション部の橋口達也氏が出席して解説を行った。
最適なZEB・ZEH提案を目指し、ツール開発に動く
東急建設のBIMでの取組みは、以前、施工の神様でも掲載しており、今回はその続編になる。5月に行ったオンライン記者説明会では、網羅的な解説について、橋口達也氏が担当した。
東急建設は、2030年に向けた企業ビジョン「VISION2030」達成に向け、10か年の「長期経営計画 “To zero, from zero.”」を策定している。SDGs を事業機会と捉えた上で、3つの提供価値である「脱炭素」「廃棄物ゼロ」「防災・減災」を戦略の軸におく。人材とデジタル技術を競争優位の源泉と定め、同時に理念・ビジョンの浸透、共感の醸成により、従業員エンゲージメントを高めることで、企業価値を創造していくサステナビリティ戦略として位置付けている。今回の開発に関しては、このうち「脱炭素」と「競争優位の源泉であるデジタル技術」に即したものとして、顧客のニーズである最適なZEB・ZEH提案を実現すると自信を深めている。

東急建設の長期経営計画での同ツールの意義
6月15日に閉幕した第208回通常国会では、「改正建築物省エネ法」も成立、「省エネ基準」への適合を2025年度以降、原則すべての新建築物に義務付けるなど、脱炭素社会に向けた取組みが推進される中、建設業が取り組むCO2削減対策の一つとしてZEB普及が挙げられる。
今回、開発した「TC-BES」はシミュレーションツールにとどまらず、顧客とのコミュニケーションを円滑に進める効果もあるという。設計の初期段階、もしくはそれより早い段階からエネルギーマネジメントを形成し、顧客と円滑な合意形成をするために開発したツールと言える。
ツールは、BIMからエネルギーモデルを生成、エネルギーモデルを「gbXML」という形式に変換、あわせて過去案件の建築・設備の仕様のデータベースからインプット情報を得て、解析ソフト「OpenStudio」を使い、アウトプットとして一次エネルギー消費量、BEI値、コストやCO2排出量の評価・分析・比較を同時に行う。

同ツールの概要や目的
顧客に対して早急に数値を提出、フローの改善に期待も
これまでのエネルギーマネジメントではまず提案を作成し、エネルギー解析を行うために、面積や仕様などの情報を集め、検索を行う。情報入力にあたってはエクセルで転記を行い、建築物のエネルギー消費性能計算プログラム「WEBPRO」で計算をし、確認や判断を行うフローとなっていた。この確認や判断時で目標数値に達成していなければ、提案を修正する。また、顧客の意思に沿わなかった場合、2~3の修正案を提案し、案の修正の要望にも応え、次のフェーズに入っていた。

ツール導入前のワークフローでは一部、ヒューマンエラーもあり、次のフェーズまで時間もかかっていた
解析プロセスも削減し、顧客への付加価値創出
今回、「TC-BES」を導入することでフローの改善に期待がかかっている。特に、情報拾いやエクセルへの転記というヒューマンエラーが起こりやすい部分に関して、自動化を行い、解析プロセスの削減を行った。また、同ツールは社内の業務効率化ではなく、顧客へのニーズ対応を目的としているため、提案修正や修正要望を顧客対応の付加価値の創出につなげる効果もある。
この付加価値では、提案修正を実施して、判断から再計算を行うプロセスは従来2~3件であったが、プロセスを早く回せるようになったため、これまでより多くの提案を作成・解析することが可能になった。
また、解析自体のプロセスがかなり削減できた効果もあり、顧客からの要望にそぐわない部分があれば提案中で修正することが可能になる。そこで従来は数案件に留まっていたが、提案数を増やし、次回の定例までに判断を伸ばしていたことも、顧客が修正要望を出した定例会の時点で判断できる点も大きい。
顧客視点では、「TC-BES」の導入のメリットとして、エネルギー、CO2排出量、コストを横並びにしてのスピーディーな提案、ZEBやZEH導入と社会課題解決の支援の2点であり、今後、ツールの発展形として建設後のエネルギーマネジメントとデータ利活用を計画している。
今回、「TC-BES」により解析した設計での案件は、施工を経て運用段階に入り、運用時におけるエネルギーシミュレーションと実数のデータ収集を行うことで、これらの情報を設計や改修でのフィードバックができると考えている。さらに設計の初期段階でありつつも、精度の高いシミュレーションが実現することも期待している。

「TC-BES」の導入により、顧客への付加価値が創出されることに期待がかかる
BIMをプラットフォームとした建築事業のデジタルシフトを展開
ちなみに、東急建設では、BIMをプラットフォームとした建築事業のデジタルシフトを展開している。すでに「積算の自動化」、「維持管理によるBIMの活用」、「プレキャスト製作の自動化」、ロボティクスに関しては、「建設 RXコンソーシアムの参画」、MR関係では、「IoTとの連携」、施工現場では、「統合BIMモデルを着工前の全建築作業所に投入」などの取組みを継続的に実施している。
また、この記者説明会後、東急建設では、BIM を適用した「仮設計画ツール」に関するリリースも発表したのであわせて追記する。
BIM を適用した「仮設計画ツール」の機能を拡充し、4月から「足場ツール(更新版)」と「山留めツール(新規)」を社内の建築部門で運用をスタートしている。「仮設計画ツール」はBIM 設計モデルから数クリックで施工計画モデルを生成することができるもので、地上足場部材を配置する「足場ツール」と地下掘削形状・山留め部材を配置する「山留ツール」を備え、施工計画業務を効率化する。
これまでの「足場ツール」は単種類の足場のみに対応していたが、約9 割の作業所に対応できるよう足場の種類を増やし、新たに「山留ツール」を開発したことから全社的に運用した。
これからも東急建設は、BIMをプラットフォームとした建築事業のデジタルシフトを確実に実行し、継続的に進める方針だ。説明後、質疑応答が行われた。

足場ツールと山留めツールのイメージ
顧客はコストに対する関心は高いため、並行して提案も
――こちらは業界内で競合するツールがありますか。
橋口達也氏(以下、橋口氏) ニュースリリースレベルの情報ですが、各社とも同様のツールを開発されていることは確認しています。他社との差別化に関しては顧客とのコミュニケーションツールとしても大きな役割を果たしている点にあります。設計の初期段階で、数値を提案している点については他社も保有しているものの、それをスピーディーに、そしてBEI値、コストなどの数値について、打ち合わせの最中に細部に並行して提案する点に付加価値があると思います。
――顧客はどの点に関心がありますか。
橋口氏 顧客が一番気にする点は、エネルギーの削減効果に加えて、コストがどれだけかかるかに関心があります。そのため、提供する情報や数値についてはエネルギーのみとせず、コストやCO₂など横断して提供することを心がけています。
――2022年度より試験導入ということですがどのような物件になりますか。
橋口氏 まずは事務所物件で導入できないかと想定しています。また現段階では試験導入ですから物件を絞って、いくつかテスト導入して、進めていきます。
――こちらはツールの導入は新築限定なのでしょうか。
橋口氏 現在では新築のみの対応ですが、今後は改修も増えていきますのでロードマップでは検討していきたいと思います。
2025年度には新築物件のZEB化は50%へ検討
――ZEBやZEHの目標については。
中川政一氏 東急建設では2030年までに広義の意味で50%以上、ZEBやZEHを達成することを現段階では掲げています。一方、ZEBについては2025年度に前倒しにしていることを検討しています。当社も他社と同様に、ZEBプランナーという設計のプランナー制度に登録しており、その公募先から「2025年度に自社が受注した建築物のうち、ZEBが占める割合を50%以上とすることを事業目標」とすることを求められております。
BIMプラットフォームは、デジタルツインというフェーズに
――BIMプラットフォームは未完だと考えますが、完了するのはいつごろでしょうか。
林 征弥氏(以下、林部長) このプラットフォームは2020年に作成したもので、逆に増やしていく必要があり、共通データをどれだけ活用するかにより、今後の動向も相当変わっていくと思います。今後はデジタルツインというフェーズに入り、デジタルがより複合化し、連携していく方向に進みます。
さらには、自社単独の排出だけでなく、事業活動に関係するあらゆる排出を合計した排出量であるサプライチェーン排出量という考え方にも注目が集まっています。特に近年では、事業者の活動に関連する他社の温室効果ガスの排出量「Scope3」までを目標数値と設定する事業者も増えておりますので、顧客に深く関心を持たれるプラットフォームづくりにまい進したい。

BIMをプラットフォームとした建築事業のデジタルシフト
――BIMについて木造への導入で何か動きはありますでしょうか。
林部長 東急建設は木造建築に関するリリースを強化しているところです。BIMはRC造やS造のみならず、どのような用途でも対応可能ですので、これからプレカットなどの世界にもBIMは入り込めるのではないでしょうか。木質建築ブランド「モクタス」は、東急建設でも強い分野でありますので、今後ともご期待いただければ幸いです。
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