改正建築物省エネ法・改正建築基準法のポイント
新築やリフォーム工事両面において、国土交通省は建築物の省エネ化に向けて本腰を入れた。
国交省は今年6月、「脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律」を公布。この中で「改正建築物省エネ法」は、公布から3年以内に施行され、「省エネ基準」への適合を原則すべての新築物に義務付けるという思い切った動きがあった。また、「改正建築基準法」では、木材利用の促進のための建築基準の合理化方策が示され、3,000m2超の大規模建築物等の木造化を促進することになった。
SDGs(持続可能な開発目標)や、政府が目指している「2050年カーボンニュートラル」の実現を今後とも適切に実行していくためには、建築業界も省エネ化に重要な視点を持って臨む必要がある、今回、法改正の担当者である国土交通省住宅局建築指導課の恵﨑孝之企画専門官と同参事官(建築企画担当)付の池田亘課長補佐の両者が一連の法改正や背景などについて解説した。
「建築物省エネ法」はなぜ改正されたのか
まず「改正建築物省エネ法」の背景から説明していく。現行の「建築物省エネ法」は、建築物分野でのエネルギー消費量が著しく増加していることに鑑み、「建築物のエネルギー消費性能の向上」を図ることを目的としている。
政府は、2050年カーボンニュートラルや2030年度温室効果ガス46%削減(2013年度比)の実現に向け、2021年10月には地球温暖化対策などの削減目標強化の方針を示した。そこでエネルギー消費の約3割を占める建築物分野での省エネ対策を加速するとともに、木材需要の約4割を占める建築物分野での木材利用の促進が重要な施策として浮上した。
2021年10月22日では、「エネルギー基本計画」が閣議決定された。その内容は、2050年に住宅・建築物のストック平均でZEH・ZEB基準の水準の省エネ性能が確保されていることを目指す。また、「建築物省エネ法」を改正し、省エネ基準適合義務の対象外である住宅及び小規模建築物の省エネ基準への適合を2025年度までに義務化するとともに、2030年度以降には新築される住宅・建築物はZEH・ZEB基準の水準の省エネ性能の確保を目指し、整合的な誘導基準・住宅トップランナー基準を引上げ、省エネ基準の段階的な水準の引上げを遅くとも2030年度までに実施することを定めた。
また、2021年6月18日には「成長戦略フォローアップ」を閣議決定しているが、建築基準法令について、木材利用の推進、既存建築物の有効活用に向け、2021年中に基準の合理化などを検討し、2022年から所要の制度的措置を講ずることを定めている。
そして、目標効果としては、建築物分野の省エネ対策の徹底、吸収源対策としての木材利用拡大などを通じ、脱炭素社会の実現に寄与し、2030年度には住宅・建築物に係るエネ消費量を約889万kLの削減を目指すことになった。
すべての新築住宅・非住宅に省エネ基準適合を義務化へ
こうした背景の中で、「改正建築物省エネ法」は国会で成立した。
主な改正点の目的は、省エネ性能の底上げなどにある。これまでは大規模(2,000m2以上)や中規模(300㎡以上)の非住宅のみに省エネ基準適合を義務付けてきたが、改正法ではすべての新築住宅・非住宅に省エネ基準適合に拡大することになった。中小工務店や審査側の体制整備などに配慮して十分な準備期間を設け、建築確認の中で、構造安全規制などの適合性審査と一体的に実施・確保しつつ、3年後の2025年度までに施行する。
「円滑な施行に向けて現在、本格的な周知活動に取組んでいます。”脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネ消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律”に関する説明動画(第1弾)を7月22日より配信するとともに、全国4都市で会場での説明会を開催しました」(恵﨑孝之国土交通省住宅局建築指導課企画専門官)
改正建築物省エネ法及び改正建築基準法等に関する説明動画(第1弾) / YouTube(国土交通省住宅局建築指導課)
「住宅の省エネ基準適合率は全体で約8割(小規模(300m2未満)に限定した場合、9割)まで向上しており、昨年度開催された社会資本整備審議会では住宅関係団体にも入っていただいて、本件について議論いただきました。過去の審議のように適合義務化に対する強い反対意見はなく、カーボンニュートラルの時代でもありますから、この取組みを推進していかなければなりませんとご理解をいただきました。一方、国交省としては残りの2割の部分の住宅などを、省エネ基準に適合するためにしっかりとケアしていく必要があります」(池田亘国土交通省住宅局参事官(建築企画担当)付課長補佐)
住宅トップランナー制度を拡充し、分譲マンションも追加に
また、住宅トップランナー制度も拡充する。これは、構造・設備に関する規格に基づき住宅を建築し、分譲することを業として行う施主、そして構造・設備に関する規格に基づき住宅を建設する工事を業として請負う者(特定建設工事業者)に対して、その供給する分譲戸建住宅・注文戸建住宅・賃貸アパートの省エネ性能の向上の目標(トップランナー基準)を定め、断熱性能の確保、効率性の高い建築設備の導入などにより、一層の省エネ性能の向上を誘導する制度だ。
制度の対象となる住宅事業者に対しては、目標年度において、目標の達成状況が不十分であるなど、省エネ性能の向上を相当程度行う必要があると認めるときは、国土交通大臣は、当該事業者に対し、その目標を示して性能の向上を図るべき旨を勧告し、その勧告に従わなかったときは公表、命令(罰則)をすることができる。現行法では、建売戸建、注文戸建や賃貸アパートが対象であったが、今回これに分譲マンションを追加した。
「今回追加される分譲マンションのトップランナー基準については、今後、制度の施行(2023年度を予定)までに省令で示すこととなりますが。先般、分譲マンションの住宅トップランナー基準などを議題とした会議を開催し、その水準については、すでに関係事業者に示されたところです。」(池田課長補佐)
さらに、省エネ性能表示の推進では、建築関係の不動産取引(販売・賃貸の広告など)をする際、法律に根拠のある省エネ性能を表示する方法などを国が告示し、取引時に省エネ性能でより優れたものを選択してもらうよう、環境を整備する。現行法では、建築物の販売や賃貸を行う事業者に対して、その建築物について、エネルギー消費性能の表示に努めなければならないこととしている。今後、一層の省エネ性能の向上を図るには、消費者などの省エネ性能への関心を高め、より省エネ性能が高い建築物が選ばれる市場環境の整備が必要であり、建築物の省エネ性能の表示を一層推進することが求められる。
この表示制度は、販売・賃貸が行われるすべての建築物が対象。表示を行う者は、建築物の販売・賃貸を行う事業者で、表示に関するルールについては、表示事項・表示方法などを、国土交通大臣が告示で定めることとし、必要に応じ、勧告・公表・命令を行うことができるよう制度面を強化している。
非住宅のZEB基準を30~40%。住宅のZEH水準を20%へ
また法律で定めるものではないが、低炭素建築物認定・長期優良住宅認定などでも議論を深め、非住宅の誘導基準をZEB水準の30~40%削減へ、住宅の誘導基準をZEH水準を20%削減へとそれぞれ見直し、誘導していく方針だ。
現行法では、省エネ基準適合義務・届出義務対象外の小規模建築物の建築主に対し、省エネ基準への適合を努力義務として規定するとともに、建築士に対し、施主への基準適合性の評価結果などの説明を義務付けている。2025年度に省エネ基準の適合義務化を拡大することにより、これらの措置は現在の役割を終えることになるが、2050年カーボンニュートラル、2030年度の温室効果ガス削減目標の実現に向けては、省エネ基準への適合義務化のみならず、基準の引上げなど省エネ性能の一層の向上が必要であり、その際、施主一人一人における更なる省エネ性能の向上に向けた取組みが極めて重要だ。
そこで改正法では、建築士は、建築物の建築などに係る設計を行うときは、設計を委託した施主に対し、当該建築物のエネルギー消費性能やその他建築物のエネルギー消費性能の一層の向上に資する事項について説明するよう努めなければならないこととした。
今回、新築の省エネ基準適合も重要なポイントであったが、一方、既存ストックも重要な視点だ。住宅金融支援機構が自ら居住するための住宅などについて、省エネ・再エネに資する所定のリフォームを含む工事を対象に、「住宅の省エネ改修の低利融資制度」を創設した。限度額500万円、返済期間10年以内、担保・保証は必要がない。また、形態規制の合理化では、既存建築物の上に、現行上高さ制限限界まで建物の上に高効率の熱源設備などを設置すると、法的には高さ制限がかかることになるが、省エネ改修工事にあたって構造上やむを得ない場合は、市街地環境を害さないと認められる範囲において、形態規制の特例許可を下すことが可能になった。
今後、各地方自治体は再エネ設備の「促進計画」を策定
また、各市町村が、地域の実情に応じて、太陽光発電などの再エネ設備の設置を促進する区域を設定できることになった。そのため今後、各市町村で「促進計画」の策定が想定される。
「計画区域は、住民の意見を聴いて設定することになりますが、この区域については太陽光発電などの再エネ設備を促進する内容の促進計画が今後、各市町村で発表されることになります。法律効果としては、建築設計の依頼を受けた設計士が『再エネ設備を導入すると、このような効果があります』といった説明をする義務が生じることになります。過去のデータでも設計士から省エネ性能の向上の説明を受けると、一定のコストを受け入れても省エネ性能を向上させる施主も多いことが明らかになっている観点からの措置です」(恵﨑企画専門官)
法改正では、建築士は、建築物再生可能エネルギー利用促進区域内で、各市町村の条例で定める用途・規模の建築物について設計の委託を受けた場合には、当該建築物へ設置することができる再エネ設備に係る一定の事項について、建築主に対して説明しなければならないこととなった。説明対象は、各市町村の条例で定める用途・規模の建築物の建築であり、説明内容とは、国交省令で定める事項を記載した書面を交付して説明するが、温室効果ガス削減の必要性など再エネ設備導入の意義、建築物に設置することができる再エネ設備の種類・規模、設備導入による創エネ量や光熱費削減の効果などが考えられる。
また、促進計画に即して、再エネ設備を設置する場合、形態規制の特例許可を認める。具体的には、市町村が定める再エネ利用設備の設置に関する促進計画に適合する建築物に対する高さ制限、容積率制限、建ぺい率制限の特例許可制度を創設するものだ。これは、太陽光パネルなどで屋根をかけると建ぺい率(建て坪)が増加するための措置である。
木材利用の促進が示され、「建築基準法」も改正
「改正建築基準法」では、主に3つのカテゴリー「防火規制」、「構造規制」、「その他」に分類されている。
「防火規制」の考え方は、一定に区画されたエリアについて、火災をコントロールできることが最近の技術の検証で明らかになった。そこで区画をしつつ、より多くの木材を使える動きになった。
第一に、3,000m2超の大規模建築物の全体の木造化の促進案が示され、現行法では、耐火構造とするか3,000m2ごとに耐火構造体(壁など)で区画する必要あった。そこで改正法では一定の防火区画をしつつ、中は燃えしろ設計法(大断面材の使用)を採用すれば、新たに木造化方法を導入することができるようになった。次に、住宅などがメゾネット形式や最上階において他と区画された場所では、防火上他と区画された範囲の木造化を可能とした。三番目には、高層と低層が一体となった建築物では、防火規制上では低層部分は高層部分と同様な規制がかけられるが、改正法では防火上、両棟の間に、延焼を遮断する壁などを設置すれば、別棟として扱えるようにし、そこで低層部分の木造化を可能にする。たとえば低層部分の1階では木が顧客に見えるようなデザインを施すことが可能になる。
次に「構造規制」では、省エネ性能が向上すると階高が上がる。戸建て住宅も現実的にはより高くなっており、構造の観点からも合理化をはかる。現行法では、高さ13m・軒高9mを超えると、二級建築士では設計ができなかったが、簡易な構造計算で建築可能な3階建て木造建築物の範囲(高さ16m以下)を拡大しても問題がないということで、「建築基準法」と「建築士法」を合わせて改正し、二級建築士でも設計できる3階建て木造建築物の簡易な構造計算の範囲を拡大した。
最後の「その他」では、「建築基準法に基づくチェック対象の見直し」を示した。木造建築物に係る構造規定などの審査・検査対象を、現行の非木造建築物と足並みを揃え、省エネ基準を含め適合性をチェックする。現行法では、原則すべての建築物を対象に、工事着手前の建築確認や工事完了後の完了検査など必要な手続きを設けているが、都市計画区域などの区域外の一定規模以下の建築物は、建築確認・検査の対象となっていない。都市計画区域などの区域内では、一定規模以下の建築物は、建築士が設計・工事監理を行った場合には建築確認・検査では構造規定などの一部の審査が省略される特例制度「審査省略制度」が設けられている。そこで、省エネ基準への適合や省エネ化に伴い重量化する建築物に対応する構造安全性の基準への適合を、審査プロセスを通じて確実に担保し、消費者が安心して整備・取得できる環境を整備する必要があった。
「建築基準法改正では、建築確認審査の対象が拡大し、また建築物省エネ法改正で省エネ基準適合義務もすべての新築に拡大されますので、設計士、特定行政庁や指定確認検査機関等とともに、施行準備をしっかりと行いたい」(恵﨑企画専門官)
改正法では、木造建築物に係る建築確認の対象は、2階建て以上か延床面積200m2超の建築物に見直され、建築確認審査の審査省略は平家かつ延床面積200m2以下の建築物が対象となる。結果的に建築確認審査の対象は非木造と統一化され、省エネ基準の審査対象も同一の規模となる。
「年々、木材を利用した建築物が登場しており、木材を建築に取り入れることが社会的に求められています。実際に木造化に取組もうとされる事業者は確実に増えており、改正法でも木材をあらわしとする設計を可能とする構造方法が導入されますので、うまく利用していただければと期待しています」(恵﨑企画専門官)
段階的に施行できるように政省令の改正に動く
施行時期は、それぞれスケジュールが定められている。
順を追って説明すると、「住宅の省エネ改修に対する住宅金融支援機構による低利融資制度」(公布日から3月内)、「住宅トップランナー制度の拡充」や「省エネ改修や再エネ設備の導入に支障となる高さ制限等の合理化など」(公布日から1年内)、「建築物の販売・賃貸時における省エネ性能表示」、「再エネ利用促進区域制度」や「防火規制の合理化など」(公布日から2年内)、「原則全ての新築住宅・非住宅に省エネ基準適合を義務付け」、「構造規制の合理化」、「建築確認審査の対象となる建築物の規模の見直し」や「二級建築士の業務独占範囲の見直しなど」(公布日から3年内)となる。
「建築物の販売・賃貸時における省エネ性能表示」、「再エネ利用促進区域制度」や「防火規制の合理化など」については、「2023年度半ばあたりには関係する政省令などで基準を示したい。次に公布から3年内の内容については、義務化も含んでいるのでできるだけ早い時期、すなわち施行日からさかのぼって1年前に基準や政省令を示したい」(恵﨑企画専門官)
現段階ではスムーズに施行できるよう、政省令の改正の準備に動いており、時期に応じて各法改正の内容について、施主、設計者、施工者に対して、規定の具体的な内容とともに説明していく。
「省エネ基準適合義務化の対象拡大については、大手ハウスメーカーだけではなく、地域の工務店、設計事務所など、様々な事業者の方のホームページでお客様に周知されている様子が見られるなど、高い関心を持っていただいていると感じています。国交省としても具体的な手続きなどについて、なるべく早く、わかりやすい形でお届けできるよう、準備していきたいと考えています」(池田課長補佐)
是非は良いとしてこういうのにあまり行政が口出さないで市場に任せた方がいいと思うんだけどなーと感じる今日このごろ
正直、高気密高断熱住宅などと馬鹿げた事を考えた延長の果てにこれ。
この先少子高齢化が進み、物価上昇の上に賃金の横這いが続くと思われるのにコストの掛かる+一部製造所のみが潤いかねない制度。