インフラのつくり方、使い方、伝え方を変える
――インフラDXの進捗はどうですか?
見坂さん これまでは、省内の各局ごとにインフラDXの取り組みを進めてきました。いわゆる「タテ割り」でやってきたわけですが、やはり、もっと組織横断的にやっていくべきじゃないかということになりました。そこで、国交省だけでなく、産官学が連携し、組織横断的に取り組むべく議論しているところです。
議論の中では、3つの視点で取り組むべきじゃないかという話になっています。
1つ目の視点が、「インフラのつくり方の変革」です。たとえば、現場にいなくても現場管理ができるといったことです。大手の建設会社では、建設機械が自動運転で作業するといったことが、すでに実施されています。将来的には、そういう現場をどんどん増やしていきたいと思います。
2つ目が、「インフラの使い方の変革」です。たとえば、ハイブリッドダムが挙げられます。平常時にはしっかり水を貯めて、その水で発電する一方、大雨時には貯水量を下げて、治水能力を最大化するダムということです。こういった取り組みを積極的に進めていこうと考えています。
3つ目が、「インフラまわりの情報の伝え方の変革」です。国交省は膨大な量のインフラに関する情報を持っています。この情報をもとに、「国土交通データプラットフォーム」を構築しています。
このプラットフォームには、気象庁が持っている気象データや国土地理院が持っている地形データなども入っています。データの統合ではなく、データの連携が目的で、可能なものはデータを公開しています。民間ビジネスへの活用も視野に入れています。
ただ、私としては、このプラットフォームはまだ使い勝手が悪いと思っています(笑)。実際に操作してみたのですが、動きが遅いところがあると感じました。その辺の改善も含め、議論を重ねているところです。
これらの視点を踏まえながら、インフラDXをしっかり進めていくのが、旗振り役である技術調査課の使命だと考えています。
3Dデータはちゃんと引き継げなければ意味がない
――来年度からのBIM/CIMの原則適用が迫ってきていますが、どのような状況ですか?
見坂さん 2023年度からのBIM/CIMの原則適用は、一般土木工事と鋼橋上部工事が対象です。ただ、「なにをもって原則適用とするのか」については、よく考える必要があると思います。
なんのためにBIM/CIMをやるのかと言えば、建設プロセスの最初の段階でつくられた3Dデータを最後まで引き継ぐことによって、受注者をはじめ、発注者の負担も減らしていくことにある。そう私は考えています。
理想はそうなんですが、実際は、各プロセス間のデータの引き継ぎがうまくいっていないんです。たんに3Dデータをつくるだけではダメで、いかにデータを引き継ぐかが、カギになると考えています。「データをうまく引き継げないなら、BIM/CIMをやる意味はない」とすら言えます。
そういうことで、データをうまく引き継ぐためにはどうすべきかということが、来年度の原則適用に向け、今われわれが果たすべきミッションだと捉えています。なので、設計段階において、高度で完璧な3Dデータをつくることは、必ずしも必要なことではありません。
それよりも、施工業者にとって「ちゃんと使える」データであることのほうが、はるかに大事なことだと考えています。これを実現するには、最低限のスペックとして、どのようなデータが必要なのか、この辺を明確にしなければならないと考えています。中小の施工業者にちゃんと使ってもらうことが、最も重要なことですから。
現在、現場の職員や業界の意見なども聞きながら、大詰めの検討を行っているところです。議論の中では、たとえば、堤防の設計は「断面×延長」があれば良いので、3Dを求めず、2Dで構わないといった話が出ています。議論の結果については、年明けごろにお示しさせていただく予定です。
建設業界のイメージも「カッコ良い」に変える
――建設業協会との意見交換の中で、BIM/CIMに関して、どのような声が出ましたか?
見坂さん 「ハードルが高い」、「なにをやれば良いかわからない」といった声もありました。われわれとしては、そういった意見にも耳を傾けながら、うまく制度設計していく必要があると考えています。
――建設業界の保守的な体質もネックになっていると思われますが。
見坂さん 建設業界も変わる必要があると思っています。I-ConやインフラDXを通じて、生産性が向上し、働きやすい業界に変える。業界のイメージも「カッコ良い」に変える。今それが求められていると思っています。
今建設業で働いている方々はもちろん、若い人や女性の入職という点からも、必要なことだと考えています。
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