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河川生態学者・皆川先生に聞く。持続可能な河川整備は、どうすれば実現するのか?

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公開日:2022.11.30 / 最終更新日:2022.12.02
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河川法に「環境」が入ったことで、私の研究者人生も本格的にスタートした

自然共生研究センターの実験用河川(皆川先生写真提供)

自然共生研究センターの実験用河川(皆川先生写真提供)

――その後はどのような研究を?

皆川先生 土木研究所に入った後も、河川景観の研究をしていました。そのころは、河川整備における環境への配慮に関しては、景観や親水的な整備が中心でした。河川法の目的も、「治水」と「利水」の2つでした。しかし高度成長期を経て人為的改変も進み、河川改修も進捗し、1990年代ごろから、生態学の分野から、現在の河川整備は「河川生態系への配慮が不足しているのではないか」という声が大きくなってきました。

土木研究所としても、生態系に配慮した河川整備のあり方について研究する必要性が生じました。これに伴い、環境部が発足しました。河川部都市河川研究室は、環境部河川環境研究室に変更されました。

1997年の河川法改正によって、それまでの治水と利水を目的とした川づくりに、新たに「環境」が法律に付け加えられました。つまり、国の政策として、すべての河川で多自然川づくりをやることが決まったんです。ただ当時の土木研究所には、環境部はできましたが、生態学を学んだ職員はいませんでした。そのため、全員がゼロから河川生態について、学んだわけです。私の生態系に配慮した河川整備に関する研究は、ここから本格的に始まりました。

――土木研究所には何年いたのですか?

皆川先生 18年ほど所属していました。河川景観評価や川の水のキレイさに関する研究の後は、河川生物と流量変動との関係、多自然川づくり、ダムの影響評価やダム下流の環境修復手法に関する研究を行いました。後半の10年は、岐阜木曽川沿いに建設された土木研究所の実験施設、自然共生研究センターで研究を行いました。

このセンターには、延長800mの実験用河川が3本あります。人工的に洪水を模して流量を増加させたり、土砂供給を行うなど、生物の応答や河川の健全性との関係について研究を行っていました。ダムの影響やダム下流の環境改善のためのフラッシュ放流や置土の効果についても、現地に行き、多くの調査を行いました。

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河川生態学の社会実装、技術者育成のため大学教員になった

――土木研究所を退職して、大学で教えるようになったのは、どういう理由からですか?

皆川先生 「実際の川づくりや人の教育に携わりたい」という希望もありました。豊かな自然を次世代に残すためには、自然と共生した社会基盤整備を担う人材が増えることが必要であると考えています。

――土木研究所を退職されて、福岡大学にいかれましたね。

皆川先生 福岡大学に2年間お世話になりました。福岡大学では、渡辺亮一先生の下で、たくさんの学生さんたちと、環境教育、河川清掃や市民会議など、さまざまな活動も行いました。

――福岡大学ではどのような研究をしていたのですか?

皆川先生 土木研究所の頃や現在とほぼ同じ研究を行っていました。私の名刺のウラには、研究内容をこう記載しています。

研究テーマ・キーワード

  • 生態系に配慮した川づくり、多自然川づくり
  • 流域治水、流域治水+生物多様性な保全
  • 生態系を活用した減災・防災(Eco-DDR)
  • 環境DNAを用いた生物生息場評価(アユ、二枚貝など)
  • ダムが河道、河川生物に与える影響評価と修復手法

研究プロジェクト

  • 流域治水を核とした復興を起点とする持続社会(JST)2021-2030
  • 大規模な洪水攪乱下での河川構造の複雑性の機能と河川生態系の保全・回復に関する研究(国土交通省)2020-2025
  • 阿蘇をモデル地域とした地域循環共生圏の構築と創造的復興に関する研究
    自然災害と生態系サービスの関係性からみた想像的復興の提案(環境省)2019-2021

環境DNAに関しては最近の研究です。河川水には、生息する生物に由来するDNAが含まれていて、これを環境DNAと言います。河川水から環境DNAを分析すると、生息する生物が特定できる新しい技術が開発されました。その技術を使って、いろいろな評価が可能になりました。

たとえば、熊本県の荒瀬ダムが撤去され、ダム貯水地が流水域に戻りましたが、環境DNAを用いることによって、アユを実際に獲らなくても、アユがどの程度生息しているかがわかり、また、流速等の水理量とDNAの濃度、すなわちアユの生息量との関係を定量的に評価することが可能になりました。

2010年から流域治水に関する研究に参画

――流域治水の研究も最近はじめられたのですか?

皆川先生 いえ、流域治水に関しては、福岡大学のころから参加させていただいていました。2009年に福岡市内を流れる樋井川が氾濫したのですが、翌年、大学研究者、市民、行政による樋井川流域治水市民会議が開始されました。これに私も参加させてもらいました。最終的に、樋井川の河川整備計画は、ため池の治水効果を盛り込んだ日本初の流域治水の実装事例になりました。

――そのころから、グリーンインフラをやっていたと?

皆川先生 そうです。流域治水はグリーンインフラに含まれる部分も多いです。また、最近、「NBS:Nature-based Solutions: 自然に根ざした社会課題の解決策」や「ネイチャーポジティブ」も注目されています。

これらは気候変動への適応や、2030年までに生物多様性の損失を食い止め、回復させるという目標を含んだ概念です。この目標に向け、陸と海の30%以上を健全な生態系として保全する「30by30(サーティバイサーティ)」という目標もあります。これらは日本政府もコミットしている国際目標です。

流域治水の取り組みとしては、JST(国立研究開発法人科学技術振興機構)の研究プロジェクトとして、球磨川を対象とした「流域治水を核とした復興を基点とする持続社会」が昨年採択され、スタートしました。これに私も参加させていただき、「ボトムアップ型統合計画と環境再生」という研究開発課題を担当しています。

このプロジェクトは、流域治水と同時に、生物多様性の保全も目的としています。生物多様性の保全には民間企業の投資やOECM(Other Effective area based Conservation Measure)認定も視野に入れ取り組んでいます。また、このプロジェクトには、産業創生や持続的な地域づくりのための課題も含まれています。

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四国の犬
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基本的には従順ですが、たまに噛みつきます。
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コメント(1)

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  • - 2022/12/17 13:35

    河川幅を倍にするだけ。以上!

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