オーナーはカーボンマイナスの実現に賛同
今回の物件のオーナーは、東京・江東区にある大東建託の賃貸住宅未来展示場「ROOFLAG(ルーフラッグ)」を見学。そこでCLT工法の壁の厚さなどの重層感に魅力を感じ、当初はCLT工法の賃貸住宅を計画していた。同時期に大東建託はLCCMの賃貸住宅の開発にも注力していたこともあり、脱炭素に効果の高いCLT工法、これに環境配慮型のLCCM住宅を組み合わせればカーボンマイナスに進むと提案したところ、オーナーは快諾したという。今回のケースを見ると、大東建託とオーナーがともに環境対策に注力した結果といえる。
そして、実際にCLT工法によりLCCM住宅を建築するにあたっては、大きく3つのポイントがあった。
- 外壁と屋根の外断熱化
- 住宅設備と開口部は、大東建託の標準的な仕様
- 屋根の勾配は片流れ
この建物の太陽光は、京セラ株式会社の製品を採用し、9.0kwを設置している。屋根材にはオリジナル鋼板屋根を採用し、小割にもなっているため、狭小地にも運搬できるメリットがある。また、外断熱はCLT材や雑壁にもポリスチレンフォーム50mmを追加、CLTの屋根150mmにはフェノールフォーム80mmを設置している。
ほか設備については、建築物省エネ法が改正された時には必ず見直ししており、十分な性能を確保している。一例では、2010年には「Low-E複層ガラス」、2015年には「LED照明」、2016年の「高効率給湯器」、2018年には「節湯設備」をそれぞれ標準導入している。
こうした取組みにより、(一財)住宅・建築SDGs推進センターから同建物に対して、建物の環境性能を総合的に評価する「CASBEE(Aランク以上)」でLCCMの認定を取得し、建物性能以外にメンテナンスやサポート体制も評価されている。
現場は狭小地のためパネルは小割に
千葉県・船橋市で完成したオリジナルCLT工法による4階建て賃貸住宅は、パネル化が可能な耐火外壁やドリフトピン仕様の内蔵型接合部金物など、施工現場での省力化や施工品質の均一化に配慮し、建築している。
練馬区の現場では、建物の躯体を構成する壁、床、屋根にはCLT材を使用。壁については積層の枚数が5枚(120mm)、床が7枚(210mm)、屋根は5枚(150mm)とした。今回の現場でも船橋市の建築物と同様に耐力パネルでは内蔵型接合部金物を導入することが共通したコンセプトとしているが、これは仕上げを考慮したものだ。
次に、現場の敷地が狭小地ということもあり、トラックの荷台は4t以下を使い、パネルも2m×4m以下の小割パネルサイズで計画しなければならなかった。壁は2m未満で、1階の高さは2,866mmとし、床も小さくカットし、2階床のサイズは幅が2m、屋根も幅2m以下で区切り、長さは5,900mmのものを最大とするCLT材を構成した。
この狭小地でのCLTの建て方としては、現場内にCLT材を仮置きし、住宅街の道路を使用、荷取り時間を削減した。ここで注意しなければならないのは、近隣住民への配慮を徹底することだ。また、狭小地であるがゆえに、産業廃棄物の置き場もないため、CLT以外のパネルも工場加工とすることで、建て方時の現場での産業廃棄物排出量を削減した。
工事のルーティーンとしては1日ごとに決められた時間内で確実に作業を完結できるよう、余裕をもった建て方計画を立案。結果としては、CLT工法は現場加工が少なく、切断時の木くずが舞わないため、狭小地に向いていることもわかった。なお、CLT材の製作・加工は、岡山県の銘建工業株式会社が担当。一度、群馬県を中継地点とし、現地に輸送した。
現場責任者である高橋清氏は、協力会社に対しても丁寧な説明に時間を要したという。「この建物の精度はとても大変で細かく実施検査をした」と語った。
大東建託は1995年からツーバイフォー住宅の建築に着手したが、当時は不慣れであったものの、一つずつ学びながらブラッシュアップし、現在は究極の境地まで至った。このCLT工法はアンカーセットやRC造並みの精度を求めていくことで、建て込みは容易になっており、余分な時間が掛からずに済むところまで来ている。技術開発部の加藤富美夫部長は「これから、教育に関しては在来工法やツーバイフォー工法を極めた手法と同様に、協力会社と一体となって勉強しながら行っていく。大東建託に限らず、一般の施工会社がCLTを施工するには、ノウハウの取得や慣れもあるため、これから本格的に動き、普及していくことを期待したい」と意気込む。
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「人材不足」と「脱炭素化」時代を迎え、変わる建設業界
菅義偉・元首相は、2020年に「2050年までにカーボンニュートラルを実現する」ことを宣言。その後の脱炭素社会に向けての動きは目まぐるしい。また、改正木材利用促進法により、国は公共工事に加えて民間工事にも木材利用を強化。戸建て住宅に加えて、非住宅の木造化の動きも本格化している。
一方で、労働人口は2020年から2060年の40年間で35%減少するという衝撃的な予測もある。高齢化は右肩上がりに進み、これから本格的に超高齢化社会へと突入する。
この先は、脱炭素社会に適合する建築、そしてなるべく現場作業を削減するような工法の導入の双方が求められる。いつまでも人海戦術で現場を回すことは難しいいま、大東建託のCLT工法によるLCCM住宅は、まさに時宜を得た試みといえるだろう。