(一財)建設経済研究所は、『建設経済モデルによる建設投資の見通し』(2023年1月版)を発表した。建設投資は、2022年度が67兆6200 億円(前年度比1.5%増)で、2021年度と比べて微増、2023年度は69兆9000億円(同3.4%増)で前年度を上回る水準とした。
2022年度は、感染症対策と経済の両立によって経済社会活動が回復しつつあり、国内景気が持ち直している中で、民間非住宅建設投資は回復の動きが続くものの、資材価格の高止まりによる建設コストの増加を受け民間住宅需要に陰りがみられた。実質値ベースの建設投資全体では前年度の水準を下回るとする一方で、昨今の物価上昇の影響を受け、名目値ベースでの建設投資全体は前年度と比べて微増になる。
2023年度は、民間住宅投資は回復には至らないものの、民間非住宅建設投資が引き続き堅調に推移するとみられることから、建設投資全体としては、実質値ベースでは前年度と比べて微増、名目値ベースでは前年度を上回る水準になると予測した。
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政府投資は約24兆円で微増
来期の2023年度の詳細を見ていく。政府建設投資は、23兆9900億円(同1.9%増)となる見通し。国の直轄・補助事業は、一般会計に係る公共事業関係費を前年度当初予算並みとして、また「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」や「資材価格の高騰等を踏まえた公共事業等の実施に必要な経費」を考慮した。また、2021年度・2022年度補正予算に係るものの一部が、2023年度に出来高として実現すると想定、地方単独事業費については、総務省がまとめた「令和5年度の地方財政の課題」で示された内容を踏まえ、前年度並みと推計した。なお、物価上昇の落ち着きを想定し、実質値ベースでの政府建設投資も、前年度と比べて 1.4%増加するとみている。

政府建設投資額(名目値)の推移 / (一財)建設経済研究所『建設経済モデルによる建設投資の見通し』
住宅取得マインドは慎重で、低下の動き
住宅着工戸数は、85.1万戸(同0.6%減)とし、2022年度と同水準の見通しだがやや減少、民間住宅投資額は、16兆8000億円(同1.8%増)とした。また、持家着工戸数は、25.4万戸(同2.4%減)であり、先行きの不透明感が続き、住宅取得マインドの低下と慎重な動きが想定されることから、前年度から微減としている。貸家着工戸数は、34.2万戸(同0.5%増)で回復の動きが一服し、2022年度とほぼ横ばいとみている。また、分譲住宅着工戸数は、24.9 万戸(同0.4%増)で、マンションは大都市圏での需要回復を見込む一方で、戸建の堅調さは一服すると想定し、分譲全体としては同水準とした。

住宅着工戸数の推移(実績と見通し) / (一財)建設経済研究所『建設経済モデルによる建設投資の見通し』
民間非住宅建設投資は持ち直しが続く
民間非住宅建設投資(建築+土木)では、19兆9400億円(同3.4%増)とし、引き続き設備投資の持ち直しが続くとみられることから、実質値ベースでは2022年度と比べて微増、名目値ベースでは前年度を上回る水準になるとした。
内訳ベースでは、事務所が建設資材価格高騰の影響などの懸念材料がある一方、投資家の投資姿勢は旺盛であり、首都圏の大型再開発案件を中心とした投資が続いており、当面は堅調さを保つ。店舗は、販売コストの上昇による投資への足踏みはあるものの、卸売・小売業の建設投資動向は拡大傾向が続き、業績好調な小売業の継続投資を下支えに安定する。工場は、引き続き回復傾向にあり、堅調に推移するとみられが供給制約など投資へのリスクが多様化しており、注視が必要だ。倉庫・流通施設は、着工実績・受注額ともに引き続き増加傾向にあり、物流企業をはじめ製造業や小売業など、幅広い業種からの需要があり、首都圏のみならず地方都市圏においてもマルチテナント型物流施設の安定した供給が続く。

民間非住宅建設投資額の推移(名目) / (一財)建設経済研究所『建設経済モデルによる建設投資の見通し』
次に、医療・福祉施設では、堅調に推移しているものの、足元では伸び悩みの傾向もあり、宿泊施設は、アフターコロナを見据えた訪日外国人増加等によるインバウンド需要を見込み、国内外のホテルブランドによる高級ホテルの建設計画が控えており、当面は堅調に推移。
また、民間土木投資は、発電用投資の受注額に回復がみられるとともに、鉄道工事や管工事の下支えにより、おおむね安定する。
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建築リニューアルは政府民間ともに好調
建築補修(改装・改修)投資は、10兆9400億円(同10.4%増)と好調を見込む。うち政府建築補修投資は、1兆7700億円(同9.3%増)、民間建築補修投資は、9兆1700億円(同10.6%増)と、いずれも2022年度を上回る水準だ。

建築物リフォーム・リニューアル調査による受注高の推移 / (一財)建設経済研究所『建設経済モデルによる建設投資の見通し』
“正常化”により、建設業の人手不足が加速するか
今回の建設経済研究所の予測を見ると、2023年度はあらゆることが正常化へと向かっていくことになりそうだ。コロナ禍では訪日外国人による需要も期待できなかったが、ウィズコロナの時代では宿泊業などの業態も回復されることが予想される。
一方で、これまで異業種では人手が過剰な部分もあったが、経済情勢の正常化により一気に人手不足が進み、人手の取り合いがさらに進むことになる。「ユニクロ」「GU」などを展開する国内アパレル最大手・ファーストリテイリングが従業員の「初任給30万円」を発表したことは来季から本格的にはじまる人手不足時代に先手先手で対応した意味もあるだろう。
日本の建設投資もコロナ禍からの正常化に軸が動き、もともと人手不足であった建設業は来期は人手不足が一気に加速するかもしれない。