住宅建材メーカー大手の大建工業株式会社は、非住宅分野の商材を強化する。2022年10月には、東京ビッグサイトで開催された、医療・福祉業界関係者が集る専門展示会「HOSPEX Japan 2022」内の「メディカル建築デザイン展」に出展し、医療・福祉分野への認知度向上を図った。
一方で、これまで同社は住宅向け建材が主だったことから、設計事務所とのパイプ強化はこれからの課題といえる。そこで非住宅分野への販促ではリアルでの営業に加えて、ウェブを中心としたマーケティング戦略を強化中だ。今回は、マーケティング部長の加川敏大氏に話を聞いた。
8つの施設の非住宅商材を強化
――非住宅の分野では、どのような施設を狙っていますか?
加川氏 当社は、住宅の建材メーカーとして長らく展開してきたわけですが、これから住宅着工件数が伸びない、もしくは減少する予測がされている中で、新たなビジネスのシーズも模索してきました。その一つが、10年前から注力している非住宅向け建材の開発・営業です。
現在、非住宅向けでは、①公共施設、②学校・文教施設、③幼稚園・保育施設、④高齢者施設、⑤医療施設 、⑥宿泊施設、⑦商業施設、⑧オフィスの8施設に分類し、施設ごとに最適な製品をまとめた「施設別パンフレット」を作成するなど、それぞれの合った製品を案内しています。
この8施設の中で、現時点で最も売上が大きいのは「商業施設」です。規模は小さいですが、店舗数が多い。当高齢化社会を迎えるにあたり、高齢者施設も注力し展開、次に幼稚園・保育施設を強化し、その次に医療施設をターゲットとしています。
この医療施設については、大病院ではなく中小クリニックや診療所がターゲットです。大病院はスチール系のドアをおさめることが多いのですが、当社は木質系の建材を扱っていることから、大病院には参入しにくい背景があることと、中小クリニックは院数が多いことから提案を強化していく考えです。
とくに床、ドア、壁も木質系を提案し、見た目の落ち着きなどの「木質空間」、つまり建具、床、壁をセットで提案していく点が強みです。空間テイストでいえばダーク系、ナチュラル系など、カラーテイストの提案も含めて営業活動を展開しています。
医療施設の音環境改善に貢献
――具体的には、医療施設にどのような商材を提案されていくのでしょうか?
加川氏 当社は音響事業を開始して2022年で40周年を迎えました。防音下地用シート材「遮音シート」や防音用天井材「オトテン」など、現在の防音室の基幹商品を開発してきましたが、2022年10月の医療・福祉施設向け展示会「HOSPEX Japan 2022」では、診察室の会話を部屋の外に漏れにくくする室内ドア「音配慮吊戸・片引」や、医師や看護師の声が聞き取りやすい空間づくりをサポートする吸音パネル「オフトーン マグネットパネルN」など、”医療施設の音環境改善”に貢献する製品を展示しました。
患者さんの中には、お医者さんとの会話内容が漏れることを気にされる方も多いんです。出入り口は空気が流れますので、音が漏れやすい。とくにクリニックは引き戸の採用が多いため、展示会では「音配慮吊戸・片引」を提案しました。これは音漏れへの配慮と開閉のしやすさを両立した、当社初となる吊戸機構での音配慮ドアです。一般的な吊戸に比べて50%軽減するため、スピーチプライバシーへの配慮が必要なクリニックの診察室などに最適です。
音は感覚的なものですから、効果を伝えにくいものです。クリニックだけではなく音の課題全般に気が付かれていない方も多いのです。しかしコロナ禍でテレワークが増えており、自宅で仕事をしている中で生活音が気になる方も増えています。そこで音を遮る、通りにくくするドアも提案しています。
また、「オフトーン マグネットパネルN 」では、スチール製などの壁面に取り外し可能なデザイン吸音パネルです。お医者さんや患者さんの声が聞き取りにくい場合は、音の跳ね返りを抑えることから、大きな声で話さなくともお互いに声が聞こえる効果があります。小スペースでの聞こえやすさに効果がありますから、医療施設だけではなく、オフィス内の会議室や住宅系でも導入が期待されます。
コロナの影響で感染対策はどの同業他社も強化していますが、当社では差別化を図るために、音への対策と建材における垂直と水平の同時提案が強みになっています。
“非住宅”こそWebマーケがカギ
――今あげられた建材商品はどちらに提案されているんですか?
加川氏 主に設計事務所です。非住宅分野の場合、設計の時点で建材のスペックを落とし込んでもらうためには、非住宅設計事務所とのパイプを本格的に強化することが課題にあります。設計段階から大建工業の製品を指定されるよう、設計事務所にネットワークをつくるために全国の営業部が奮闘している段階です。
私も10年ほど前には、高齢者施設向けの建具の営業部署に所属していました。当時から設計事務所への食い込みはそれほどなく、10年経った今でも大きく変わっていません。多くの建設業界の方からの視点では恐らく、大建工業は「住宅系建材の会社」というイメージなのでしょう。非住宅系の商材はまだまだ認知度が低いのが実情です。現在、私はマーケティング部で、設計事務所やゼネコンに対して、本格的にプロモーションを仕掛けています。
――そう考えるとこれからは、ウェブマーケティングの重要性が浮上するといえます。
加川氏 今や設計事務所やゼネコンの情報取得の手段は、ネットの検索がほとんどです。その割合は70%で、Webから当社の商品につながっていきます。今までは住宅向けのコンテンツが多かったので、これから非住宅商品のコンテンツの拡充を行う方針です。検索エンジンで上位に来るためには、商品関連のコラムを設定し、最適化に注力しています。
また、2023年2月からは登録制の「公共・商業施設の設計担当者向けの情報サイト」を立ち上げています。まず設計士が個人名で登録していただき、情報内容は非住宅向けのコラム、カタログ、製品画像をご覧になることができ、オンラインセミナーも視聴できます。また、メルマガも当社の宣伝よりも、お役に立てる情報発信を心がけています。営業部はリアルで、オンラインではマーケティング部が担当しています。
当社のWebサイトを見直し、顧客が本当に知りたい、価格・型番・品番が検索しにくい面もありましたのでデータを統合する、デジタルカタログ化を計画しています。非住宅工事は場合によっては企画から竣工に至るまでは2年間ほどかかります。ですから、知りたいときに知りたい情報を伝えることが大切なんです。
――今後の展開としては、いかがでしょうか。
加川氏 いま述べたとおり、まずは設計事務所との接点を深めること、その接点を維持していくことが大切です。リアルでは全国に配置している営業部の奮闘、マーケティング部が主導となるマーケティング戦略の充実によって、リアルとオンライン双方で医療福祉分野を含む非住宅分野への拡大を目指していくことが全体的な戦略といえます。
マーケティング部が設計事務所に役に立つデータやコラムを提供することによって、営業部が設計事務所を訪問しやすい環境を整えていきます。
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