横浜市財政局公共施設・事業調整課にインタビュー
新市庁舎や横浜環状北西線建設などビックプロジェクトも目白押しで全国から注目を集めている横浜市。
女性活躍や若手技術者等を積極的に総合評価落札方式の加点に加え先進的な動きも見せており、「週休2日制モデル工事」を実施することも表明した。
今回、横浜市財政局公共施設・事業調整課の富岡淳担当課長、上野慶担当課長、海野丈晴担当係長の3名に、横浜市の建設事業の全容をうかがった。
発注時期の平準化が本格始動

横浜市財政局公共施設・事業調整課 富岡淳担当課長
施工の神様(以下、施工):公共工事の品質確保の促進に関する法律(品確法)の改正(以下:改正品確法)後、横浜市における公共工事はどのように進められていくかを教えてください。
横浜市 富岡敦担当課長(以下、横浜市):改正品確法では発注者の責務について、国土交通省が細かく定めた指針があり、これを中心に行なっています。たとえば、適正な予定価格や工期の設定、ダンピング防止、発注工期の平準化、価格競争だけではなく、技術力を勘案した総合評価落札方式を導入しております。予定価格は単価の改正は年4回実施しており、ダンピング防止対策として低入札価格調査制度や最低制限価格制度を実施しています。やるべきことはなるべく多くやっていきたいと考えています。
総合評価落札方式の工事の公告が123件、全体の4.5%ですが、受注者の事務負担も多く、件数を一気に増やすのは難しい情勢です。そのため、引き続き良い方策を検討しているところです。
入札価格を低すぎても、評価値を高めることはできない
施工:横浜市独自の総合評価落札方式についてはいかがですか?
横浜市:横浜市では、総合評価落札方式ガイドラインを作成し公表しています。基本的な運用として、落札者の決定については、価格だけではなく、技術評価点も加味しますが、入札価格を低く抑えれば抑えるほど、評価点はアップし、落札する可能性が高まります。これではダンピングを防止する観点からは不十分と考え、今年度から評価値の算出にあたり、入札価格が調査基準価格を下回った場合には、入札価格を調査基準価格として評価値を算定する制度に見直しました。
簡単に言えば、入札価格で評価値を高めるよりも技術評価点を高める方に力点を置いていただきたい、という横浜市からのメッセージなのです。
低入札の防止については、これまで横浜建設業協会などからも要望を受けてきましたが、改正品確法の趣旨に沿った制度見直しができたと自負しています。今後、見直し内容の効果を検証し、引き続き問題点や課題を考えていきたいと意欲を持っています。
総合評価落札方式では3つに分類しています。1つ目は、技術的な工夫の余地が大きく、施工上の工夫等の技術提案などを求める工事に適用する標準型。2つ目は、技術的な工夫の余地が小さく一般工事に適用する簡易型、3つ目は技術的な工夫の余地が小さく、小規模工事に適用する特別簡易型です。
若手技術者の登用や女性活躍で大幅加点

横浜市財政局公共施設・事業調整課 上野慶担当課長
施工:この総合評価落札方式で若手技術者の登用や女性活躍など特記すべき点はありますか?
横浜市:入札公告で定める監理技術者もしくは主任技術者として女性技術者を配置することで2点加点する評価項目があります。当然それを証明する資料が必要になります。また、40歳未満の若手技術者を配置することで同様に2点加点する評価項目もあります。
仮に両方の評価項目が適用された工事において、女性で若手技術者を監理技術者もしくは主任技術者として配置すれば4点加点することになりますから、応札する建設業界の皆さんにも注目していただきたいと思います。
また、2017年度から「新たな担い手の育成」の項目を設定して、主任(監理)技術者の指導に従い、建設工事に従事・補佐する技術者を配置し、育成することにより、1点加点いたします。イメージとしては工業高校や大学を卒業し、就職してからまだ年数が浅い若手の方を積極的に現場に配置し、育成していただくことを想定しています。
さらに、横浜市は男女共同参画及び女性活躍の推進への取組に加点する評価項目も設定しています。
労働者数の規模によって異なりますが、「女性活躍推進法」または「次世代育成支援対策推進法」の「一般事業主」策定・届出により1点、「次世代育成支援対策推進法」の「くるみん」「プラチナくるみん」または「女性活躍推進法」の「えるぼし」に認定されれば2点加点します。そしてもう1つ、横浜市政策局男女共同参画推進課が所管する「よこはまグッドバランス賞」の認定により、2点加点します。
これらの認定等の加点は最大2点ですが、近年、横浜市の地域建設企業から「よこはまグッドバランス賞」の認定に対する問い合わせが相次いでいるとの報告が男女共同参画推進課から来ており、事業者の皆さまに前向きにとらえていただけていると考えています。
中小企業振興条例に基づき、地域建設企業をもり立てる
施工:総合評価落札方式のトレンドとしては、地域の工事は地域建設企業が行なうよう誘導していますが、これについてはいかがですか?
横浜市:工事施工場所と同一行政区内に建設業許可の営業所がある場合、加点する評価項目を設定しています。評価配点は2点ですが、応急の土木管内舗装補修工事は4点とします。
また、最新の横浜市災害強力事業者名簿に登録がある際は2点加点する評価項目も設定しています。横浜市には「横浜市中小企業振興基本条例」もありますので、その趣旨に基づき、市内中小企業の新興を意識した評価項目も設定しています。
「週休2日はモデル工事」開始へ
施工:「週休2日制モデル工事」や「快適トイレ」などで新たな動きありますでしょうか?
横浜市:神奈川県が進めている方式の「週休2日はモデル工事」を実施しようと考えています。件数は未定ですが、今年度から実施する予定です。神奈川県方式は、土日完全週休2日制モデル工事で、仮に休めなくとも減点はせず、8割休めた場合は、1点加点することになっていますが、横浜市もその方式を踏襲します。これから対象工事の選定を進めます。
工期については平準化を進め、国土交通省は、準備期間や後片付け期間を設定しており、横浜市として工期は比較的ゆるやかであると自負していましたが、請ける建設企業からすれば必ずしもそうともいえない面もあり、国土交通省の考えを参考にしつつ、余裕期間の設定を試行的に行なっています。
具体的には、2月か3月に契約し、4月からの着工までを余裕期間として設定しました。この期間には、主任・監理技術者の専任を求めていません。その間、下請企業の選定などが可能になります。2016年度は事業規模10億円、発注件数28件で実施しました。2017年度では横浜市は18の土木事務所があり、それぞれ1件か2件の道路維持修繕工事を発注するほか、学校営繕工事などの年度をまたぐ工事(ゼロ市債工事)の発注を予定しています。
「快適トイレ」については、女性活躍を進める一方で、「快適トイレ」の導入が遅れていることについては課題の1つで、是非、チャレンジしたいです。工事費の増額や積算の問題もあり、すぐには取り入れることは難しいですが、前向きに検討を進め、実施したい案件です。
施工:ICT土工などの生産性向上についてはいかがでしょうか?
横浜市:現場の生産性向上のためのICT土工を進めるため、まずは基準づくりからスタートしたいと考えます。
道路の建設工事や墓地の造成などで1,000㎥を超える大規模な土工事があるほか、国は浚渫工事でもICT土工を進めているという情報もあり、横浜市は、横浜港を抱えているので、浚渫ICTの推進も行なっていきたいです。また、都市土木においても、施工管理のレベルでICTを活用できると考えます。
横浜市独自で建設業の資格取得助成金制度も

横浜市財政局公共施設・事業調整課 海野丈晴担当係長
施工:建設業の資格取得助成金制度などもあるとうかがっていますが?
横浜市:横浜市の建設会社から、建設機械・土木・建築施工管理技士などの資格取得のための講習料金が高いという話もありますので、資格取得費用の経費の一部を1社最大20万円まで助成します。対象は横浜市に本社を置く、中小企業です。これは横浜市経済局経営・創業支援課が所管しています。
また、横浜市の業界団体や地域建設企業を対象に、アドバイザー派遣事業を実施し、講演会や研修会の開催で税込み1回3万円(業界団体は5万円)まで横浜市が講師の謝金を支払う制度です。テーマは、コンプライアンス、安全管理、担い手確保など建設産業の活性化につながるものであればすべて認められます。こちらは横浜市建築局営繕企画課が所管しています。
新市庁舎や横浜環状北西線などビックプロジェクトも目白押し
施工:横浜市は新市庁舎や横浜環状北西線などビックプロジェクトも目白押しですが、これを担い手確保・育成に活用するお考えはありますか?
横浜市:横浜環状北西線は、東名高速道路(横浜青葉インターチェンジ)と第三京浜道路(港北インターチェンジ)を結ぶ、延長約7.1kmの自動車専用道路です。横浜環状北西線が完成すると、2017年3月18日に開通した横浜北線と一体となり、東名高速道路から横浜港までが直結され、横浜市北西部と横浜都心・湾岸エリアとの連絡強化等が図られます。北西線は、横浜市と首都高速道路株式会社により、2020年の完成を目指して、事業を進めています。
現在、PRセンターを設置し、事業の説明も積極的に行なっています。これをもとに将来の担い手が確保・育成できる場所になれば良いと考えています。
一方、横浜市新市庁舎整備については、山下PMC/山下設計共同企業体がコンストラクション・マネジメント(CM)を担当し、全体マネジメント、設計要件の整理及びプランニングの検討を行なっています。設計と施工は、竹中工務店・西松建設JVが担当し、今年の夏から工事に着手いたします。
横浜市新庁舎については横浜市の現場監督も、やはり現場を知らないのでは困りますので、職員を対象にした現場見学会を行なう予定ですが、外部向けの見学会を実施するかは未定です。
良い人材は東京都に獲得される横浜市ならではの悩み
施工:最近では、地方公共団体の技術系職員獲得競争も激化しているようですが?
横浜市:横浜市には東京都を近隣に控えているという独特の問題があり、良い人材は東京都に獲得されるという競争にさらされています。東京都から言わせれば、それは逆ですよと言われるかも知れませんが、地方公共団体間で人材獲得競争が激しくなっていることは確かですね。
また、横浜市も含め、公務員の社会人枠を拡大している傾向にありますので、ゼネコンやコンサルからの採用が増え、会社で一定程度育成したのにもかかわらず、育ったら公務員になってしまうと言う話は聞いたことがあります。土木技術職の悩みは、中堅層が不足しており、平均化はしていません。横浜市も行政としての継続性を考えると、企業と同様に人材確保は必要で、課題は企業と共通しています。
施工管理技士に対するエール
施工:最後に施工管理技士の方々に一言お願いします。
横浜市:都市市街地である横浜市の現場は、住民の方々の目に触れる機会も多く期待も大きいです。普段から安全面などに配慮されておりますので、総合的な力を発揮し頑張って欲しいです。
行政も企業もそれぞれキャリアや経験を高め、切磋琢磨し、いい仕事が出来るような関係でいたいです。行政も現場もそれが財産になると考えています。横浜市も若い職員が多いので、施工管理技士の方々の技術を吸収していきたいと考えております。
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