自律走行だが、完全自動走行ではない
システムとしては、GNSS受信機、全方位Lidar、IRカメラ、3Dモーションセンサー、バンパーセンサーなどを取り付けたマシンを、Wi-Fiなどの回線を介して、CAN通信で制御するという構成になる。走行経路は、GoogleマップやGNSS(3Dデータ、CAD)などを活用して作成し、マシンにコマンドを与えるカタチをとる。ロボット掃除機のように、マシンが自分で判断して勝手に動く自動化とは一線を画す。言うなれば「半自動」と言ったところか。ちなみに、この草刈り機は、GNSSの精度が低下すると作業できないが、夜間は作業できるらしい。
なお、自動ロボット型を採用しなかったことについては、「技術的な理由と言うよりも、ルール的な理由です」(藤沼次長)と明かす。柵も仕切りもない堤防上をロボットが勝手に動き回ることについて、今のところ、国のガイドラインやルールが一切ないためだ。草刈り機が支障物に乗り上げたり、イタズラされるリスクなどもある。完全自動化だとしても、現状のルール下では、マシンの作業を監視する人間はいずれにしても必要になる。
金杉建設自動草刈機 / YouTube(大石恭正)
油圧操作を電気信号操作に切り替える
改造のベースマシンは、過去に一緒に仕事をしたことがあったハクスバーナ・ゼノア社の有人操作機「ハンマナイフモアZHM1550RR」を選んだ。関係者の間では「1号機」と呼ばれている。主な改造メニューとして、下記を施した。なお、改造自体は専門会社に依頼した。
- リレーの追加(電磁式クラッチなどの電気操作のため)
- 走行レバーの改造(回転角や移動量を電圧に変換する機器の取り付け)
- 操作パネル改造
- 油圧ポンプ交換(搭乗操作+電気・遠隔操作切り替え)
- 電子制御機器(ECU)追加
- クラッチ改造
これらの改造点は、ようするに油圧操作から電気信号操作に切り替えるための改造を施したものだと言える。同時に、タブレット端末で操作できる現場管理ソフトも開発した。走行経路の作成をはじめ、開始や停止などの遠隔操作はタブレット端末(ブラウザ上)で行っている。また、除草面積の算出や帳票の出力、走行時間や距離などの作業日報の出力もできる。
「堤防を痛めない走行」の実現に一番苦労した
草刈り機の遠隔制御に関するプログラミング、センサー検知などに関するソフト開発は、建機などの遠隔制御、自動化を手掛けるベンチャー企業ARAV株式会社が担当した。メーカーやマシンを選ばない汎用性のあるソフトウェアが必要だったことから、ARAVに白羽の矢が立った。
ハードとソフトのコーディネートは、島村さんが統括したが、遠隔操作を確立する上で、カギになったのがコマンド制御まわりだった。「どれぐらいの電流値を流せばマシンをスムーズに制御できるのかについては、試行錯誤を繰り返しながら、最適化していきました。一番苦労した部分です」(島村さん)と振り返る。
と言うのも、草刈り機に求められる機能は、たんに草を刈ることだけではないからだ。「堤防を痛めない走行」(藤沼さん)をする必要があった。たとえば、方向転換する際などに堤防を掘り返すといったことだ。そのほかにも、待機時間やロスタイムをなくす、刃を上げたときに刃の回転を止める、ラップ不足などに伴う刈りムラをなくす、法面に対して垂直に刈る、といったさまざまな制御が求められた。プログラミングの見直しも含め、時間をかけて細部をツメていった。
この点、コンソーシアムメンバーとして開発に関わった創和の西尾貴至さんは「1年目と3年目を比べると、走り方や起点の取り方が改善されたので、作業効率は大幅に向上しています。たとえば、国土交通省の(有人操作の)積算基準を20%ほど上回っています。Googleマップなどの座標データだけで走るより、あらかじめ外周だけを自走して変化点座標を取得したほうが効率が良い傾向にあります」と指摘する。
もちろん、中には誤算もあった。人物検知のために取り付けたLidarセンサーだったが、刈り上げた草に反応して、マシンが停止してしまう症状が頻発した。センサー付きの自動車でもお馴染みの「センサーの誤爆」というヤツだ。人物検知はカメラとバンパーセンサーが担うこととし、Lidarセンサーは地形検知のみに活用するという、方向転換を余儀なくされたということはあった。なお、カメラによる人物検知では、AIによる画像解析を利用している。