次のテーマは、「働き方改革」だ。労働時間の上限と残業時間規制が他の産業と同様に2024年4月から建設業に適用される「建設業の2024年問題」。建設業界や物流業界の中では、「働き方改革関連法を本当に順守可能なのか」という声もある。
「これは法律であるから、守らなければならない。日本人は『これはムリだ』といって働こうとするが、それはあってはならないのが法律の前提で、破ってはいけない」と業界に向けて厳しいメッセージを蟹澤教授は発した。
働き方を見ると、建設業の年間出勤数は240日、製造業は230日を割っているため、大きく水をあけられている。一般社団法人全国建設業協会が行った2023年度「働き方改革の推進に向けた取組状況等に関するアンケート調査」によると、現場では今なお「4週6休」「4週5休」がボリュームゾーンで、「4週8休」は約3割のみ達成。年間休日日数では、115日以下がボリュームゾーン。いわゆる完全週休2日は祝祭日を除いて土日を休日にすると年間105日の休日になり、これに祝祭日を加えると120日になる。

出典:蟹澤宏剛芝浦工業大学教授の講演資料
工業高校生から建設業が人気急落のワケ
また、蟹澤教授が工業高校の教員にヒアリングした際、採用活動と年間休日に大きな関係があるとの話があった。教員からの話では、「年間休日130日以下の会社であれば生徒は見向きもしませんよ」とのことだ。年間休日130日は完全週休2日、祝祭日と盆暮れの休暇を加えて達成される。
しかも2024年問題を目前に、工業高校の建設業の人気が急激に下落しているという。これまで工業高校生は、専門工事会社や地域のゼネコンに入社する例が多いが、ここに来て全くの異業種への入社も視野に入れ始めた。
さらに最近は人材不足に危機感を抱いた大手ゼネコンが工業高校生の生徒への採用活動に本腰を入れ、人材の奪い合いが本格化している。そこで蟹澤教授は4週8閉所を原則化することを訴えた。改正建設業法では適正工期の概念がより強く打ち出されるため今後の動向に期待がかかる。
CCUSに登録した建設技能者を信頼の証に
また、蟹澤教授は質疑応答の席では次のように語った。「建設技能者の処遇改善では大きな目標を持たなければならない。今、大工は首都圏で1日働いて2万円、地方では1万4~5000円の日当だ。若い方が夢を持って入職されるには少なくとも倍くらいを目指していくべき。そのためには業界団体が取組み、国がバックアップしている建設キャリアアップシステム(CCUS)という仕組みに登録されている方を前提にいろんな制度を制定していかなければならない。一般には認知されていないがCCUSに登録した建設技能者が信頼の証として認められれば、建設技能者に対する付加価値や賃金も上がるという好循環に期待する」(蟹澤教授)
さらに、建設業の「付加価値労働生産性」で見ると製造業の半分で全産業から見ても低い。ゼネコンの利益率は各社の決算を見ても分かる通り、異業種と比較しても低い。そのため国民の理解を得ながら、請負単価を適正な価格とすることが肝要だ。
一方、建設業の利益率は低いが中には上位企業が収益を上げても建設技能者に対して不当に安い賃金を支払うケースもある。
「上で抜き取られる建設技能者は一人親方的で働いている方が多い。下請け契約でより弱い立場に置かれるため、賃金は低く抑えられる。そこで次の政策の目玉であるレベル別の年収が公表されているが、レベルごとに年収が決まってくると、不当に安い賃金で抑えられた建設技能者がふさわしい年収を理解でき、より高い年収へと適正化していくことを目指すべき。発注者やゼネコンが安ければ良いとの考えにとらわれると、業界で頑張っている企業が成り立たなくなる。発注者やエンドユーザーである国民の方々に安ければいいとの考え方を改めてもらい、品質や安全のことを考えれば適正な能力を持った建設技能者の方に施工してもらうことが大切だ」(蟹澤教授)
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建築の究極のモジュール化。工場で生産し現場で組み立てる
こうした処遇改善もさることながら重要なテーマは、ICT活用による生産性向上だ。特にイギリスは、日本と同様に建設業に労働者が入職しない課題を抱えており、2018年以降のイギリスの建設産業政策の一つに工期を半分する方針を示した。「なるべく工場で製作し、現場での作業を減らす方向で世界は動いている。」(蟹澤教授)
蟹澤教授の解説では、工場で箱を製作し、中にはキッチンも風呂もついており、さらに仕上げも終わっている。それを組み立てるとホテルや集合住宅になるという。これは、PPVC(Prefabricated Prefinished Volumetric Construction)と呼ぶ工法で、イギリスやオランダだけではなく、アジアではシンガポールは同様に建築のモジュールを工場生産し、それを現地に運び組み立てる手法がほぼ一般化した。

出典:蟹澤宏剛芝浦工業大学教授の講演資料
PPVCをスムーズに進めるためには、BIM(Building Information Modeling)による設計が前提となる。一般的には、実施設計で決めた内容を現場で施工すると認識されている。しかし実際は、70~80%決めた内容をゼネコンに引き渡し、施工しながら決めて竣工時に設計が出来上がるという作り方が建設業界の実態に近い。そこでゼネコンは受注段階で設計をやり直して、完成度を高めた設計を作成し、ゼネコンが行う作業をフロントローディングすることが求められている。
そこで海外ではIPD(Integrated project Delivery)という考え方で、発注者、施工者、専門工事業者などプロジェクトにかかわるステークホルダーが初期の段階からの協力で有効な意思決の実現のための協業形態を行っており、設計の早期決定や工期短縮の効果が生まれる。
「工場で生産するためには設計を早期に確定させて、工期は2~3割は減らせる。また将来の工期は半分も視野に入れるべき。問題は設計のつなぎの部分でBIMが前提になる。だからこそBIMは決して後戻りすることはない」(蟹澤教授)
建設業界は担い手不足、2024年問題など問題は山積みで、一つひとつも容易に解決できる問題ではないが、建築のモジュール化という手法により海外では工期短縮などで効果も生まれている。そこで重要になるのはBIMによる設計であり、今後の動向の注目点だ。
工場で作って持ってこいって言いますがね、工場も既に(まともな)人居ないんですよ。
年間休日130日無いと新人来ないってのも工場も同じなんですよ。
記事にあるように今までの2倍の単価と納期がないと無理だね。
下くぐる馬鹿が絶対出てくるこの業界で2倍は達成出来るとは思わないな。
読めば読むほど記事と真逆の単価を抑えられそうな大工では無く「大三」ぐらいの組立工が必要なんだーにしか見えない。