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災害ニュースに接するたびに、「砂防でもっとできることがあったんじゃないか」と思う

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公開日:2024.01.25
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住民の多くはそこが危険な場所だと知らなかった

――改正のポイントはなんでしたか?

野村さん 土砂災害防止法は、イエローゾーンやレッドゾーンとして区域指定し、土砂災害のリスクがある場所への住宅開発などを規制したり、ハザードマップをつくり警戒避難体制を整備するための法律で、それぞれの都道府県が調査して、指定することになっています。

広島土砂災害によって多くの被害が出た場所は、山際に新たに造成された住宅地で、住民の多くはそこが危ない場所だとの認識が十分ではありませんでした。広島県のハザードマップを見ると、おおむね危険なエリアに入っていましたが、住民からの反対などもあって、区域指定できていないエリアがありました。そういう経緯もあって、住民への周知が不十分なまま、被害が出てしまったわけです。

改正のポイントとしては、都道府県が調査結果をまとめて、ここが危ないというエリアの指定案が出来上がった段階で、その内容の公表を義務付けることにした点です。あとは、気象庁と都道府県が大雨のときに土砂災害警戒情報というものを出していますが、改正前は任意の情報であり、明確に法律で位置付けられたものではありませんでした。それを改正によって、避難指示につながる情報として、一般に周知しなければならないと位置付けました。

――自分が携わった法律改正をどう評価していますか?

野村さん 本来は、日本が高度成長する前の時点で、規制されればより良かったのかもしれませんが、全国津々浦々に適用される法律改正によって、土砂災害の防止という意味では、かなり前進したと思っています。

線状降水帯の研究がきっかけで、気象予報士の資格を取る

――次はどちらに?

野村さん 内閣府に出向して、参事官補佐として火山防災を担当しました。ところが、着任早々、熊本地震が発生しまして、災害対応のオペレーション室に入れられました。何週間もなかなか家に帰れない状態で、カンヅメになって、被災地に支援物資を送るなどの対応に追われました。

そのあとは、また国土技術政策総合研究所の土砂災害研究室に行きました。このときは、主任研究官として、西日本豪雨の被災地に行ったり、北海道胆振東部地震の被災地の調査を行いました。あとは、線状降水帯をどう検知するかという研究にも携わりました。

――線状降水帯の検知ですか?

野村さん 平成26年広島土砂災害のとき、線状降水帯の発生によって、局所的に豪雨に見舞われるという現象が起き世間に注目されました。線状降水帯の発生メカニズムについては、当時は、気象庁でもそれほど研究が進んでいなかったと記憶していますが、土砂災害につながる現象なので、土砂災害研究室でも研究しようということで、線状降水帯の発生を検知できるシステムをつくっていました。その研究を私が引き継いでやっていました。そのシステムは、現在気象庁が発表に使っているシステムのもとになっています。この研究がきっかけで、気象予報士の資格を取りました。

――気象予報士ですか?

野村さん ええ。

――なぜ気象予報士を取ろうと思ったのですか?

野村さん 研究を一緒にやっている委託業者の方々がみな、気象予報士を持っていたんです。私だけ持っていない状態で、いろいろ議論していたので、「ちょっとマズいな」と思ったからです。ただ、取るまでに3年ほどかかったので、そのときには次の職場である富山県庁の砂防課に異動していました(笑)。

――異動しても、あきらめなかったのがスゴいですね。

野村さん せっかく勉強したのに、まったくカタチに残らないのはもったいないと思ったので(笑)。

立山砂防の世界遺産登録に向けた活動も

立山砂防 白岩砂防堰堤(富山県庁提供)

立山砂防 白岩砂防堰堤(富山県庁提供)

――富山県庁はどうでしたか?

野村さん 印象に残っていることとしては、立山砂防の世界遺産登録の推進に携わったことです。立山砂防とは、国の重要文化財にもなっている現役の砂防施設群です。砂防課長として、ユネスコの本部に行ってアピールしたり、シンポジウムを開いたり、そういう仕事にも携わりました。

――それほどの価値がある施設なんですか?

野村さん そうですね。80年以上前に完成した施設ですが、今でも現役ですし。立山には、立山カルデラというおよそ5km四方の大きな窪地があって、この窪地に大量の不安定な土砂がたまっているんです。江戸時代に安政の大地震が起きた際、窪地の土砂が大崩壊して、常願寺川を堰き止めて決壊し大土石流となって富山平野を襲って大きな被害が出たということがありました。

その後もこの場所で洪水被害が頻発したことから、国が立山で砂防施設を建設してきたという歴史があります。そういうことから、富山の人には、立山砂防があるからこそ、現在の富山平野があるという思いが強いです。

ユネスコ本部でアピールする野村さん(本人提供)

ユネスコ本部でアピールする野村さん(本人提供)

――進捗的には今どんな感じですか?

野村さん まだ登録には至っていませんが、有力だとみなされているようです。

――同じ砂防事業でも、直轄と富山県では違うと感じたことはありましたか?

野村さん 富山県のほうがより地元密着で事業をしているという違いはありました。一番の大きな違いは、富山県では小さな沢の出口に砂防堰堤をつくりますが、直轄の場合は、河川流域全体の河床上昇による洪水氾濫のリスクを抑えるため、広域的な災害防止という観点から、砂防堰堤をつくる点にあります。やはり、事業規模の大きさが大きな違いだと思っています。

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着任約9ヶ月で現場を一通り回る

栗ノ木川支川堰堤工事の状況(四国山地砂防事務所提供)

栗ノ木川支川堰堤工事の状況(四国山地砂防事務所提供)

――そのあとは?

野村さん 今の四国山地砂防事務所です。出先勤務は入省1、2年目以来です。

――四国山地の印象はどうですか?

野村さん 四国山地の急峻な地形が印象的ですね。いわゆるV字谷が多いです。四国には東西方向に中央構造線が通っていて、地質が脆弱だし、雨も多いので、四国中央部は「地すべりの巣」と言えるほど、土砂災害が多いエリアです。

――所管する現場が点在しているイメージがあるわけですが。

野村さん 確かに、山地の中に点在しているカタチになっていますね。動いている現場が30箇所ほど、準備している現場も含めると50箇所ほどあります。2023年4月に着任して、9ヶ月ほど経ちましたが、一通り現場は見て回りました。けっこう大変でした(笑)。

――所長として心がけていることはありますか?

野村さん まずは現場に行くことです。四国の山の中に事務所があることの意味はそこにあるので、やはり「現場に出てナンボ」だと考えています。たとえば、砂防堰堤をつくるにしても、沢が一つ違えば、地形や地質などの条件も異なるので、常に最適なモノをオーダーメードでつくる必要があります。所長という立場であっても、現場を見た上で、状況をイメージできるようにしておくことが大事なんです。

有瀬排水トンネル工事の状況(四国山地砂防事務所提供)

有瀬排水トンネル工事の状況(四国山地砂防事務所提供)

――砂防事業のPRについて、どうお考えですか?

野村さん この事務所に来てから、PR力がちょっと弱いなと感じています。イベントや見学会などいろいろなことを一生懸命やってはいるのですが、立地的に不利なところもあるのか、あまりPRできていない印象があります。とりあえずは、SNSでの情報発信にチカラを入れているところです。現場の数だけは多いので(笑)、ちょっとしたことでもどんどん投稿するようにしています。たとえば、土石流が発生して、砂防堰堤でそれを止めたところの写真なんかをアップしています。

――いわゆるインフラDXに関する取り組みはどうですか?

野村さん 砂防事業は立体的に見たほうがわかりやすいことが多いんです。谷に堰堤を立ち上げるとか、地中にアンカーを打ったり井戸を掘ったりという工事は、2次元だとわかりにくいんです。点群データを取って、モデリングすることで、どこになにがどうなっているのかが、一目でわかるようになります。そういう意味では、砂防事業はICT施工に向いていると思っていますし、実際にやっています。

今チカラを入れているのが、衛星Wi-Fi、つまりスターリンクですが、これを活用した通信環境の構築です。現場にアンテナを立てるだけで、インターネット通信が可能になります。衛星Wi-Fiは今砂防業界で流行っていて、この事務所だけでなく、いくつかの事務所でも着手しています。現在は試行段階ですが、いずれ衛星Wi-Fiが山の工事のブレイクスルーになると期待しています。

スターリンクアンテナの設置状況(四国山地砂防事務所提供)

スターリンクアンテナの設置状況(四国山地砂防事務所提供)

――野村さんにとって、砂防という仕事の魅力はなんですか?

野村さん やはり「命を守る仕事」ということです。いろいろな災害に関するニュースを見るたびに、「砂防でもっとできることがあったんじゃないか」という思いがあります。

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この記事を書いた人

四国の犬
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基本的には従順ですが、たまに噛みつきます。
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