コストと品質で板挟みになる解体工事業者
――空き家問題と密接にかかわる解体工事業界を取り巻く情勢についても教えてください。
川口代表 解体工事の市場規模は年々伸びていますが、その一方で解体工事は職種としての人気は高くありません。有効求人倍率は約10倍と、ITエンジニアよりも人手が足りていない状況です。
こうした背景には、コストと品質で板挟みになっている解体工事業界の事情が関係します。1990年ごろに私の両親が在来木造の約35坪の実家を解体した際、外構部分の撤去を除き、費用は約80万円でした。当時の作業員はヘルメットをせず、建物を囲うこともしていませんでしたし、作業後の散水やリサイクルも一切していなかったため、今と比べて解体費用も安価でした。

昔の住宅解体のようす / クラッソーネ
しかし、現在は足場と養生シートで囲い、建設リサイクル法に基づいて分別解体し、適正なリサイクルをする必要があります。そのため、いま同じ規模の住宅を解体すると、160万円ほど掛かります。解体という行為そのものには変化はありませんが、安全面やリサイクルの義務化などにより業務内容は大きく変化しているんです。
ですが、空き家所有者にとってみれば、こうした事情はなかなかご存知ではないため、「壊すだけなのだから、安いほうが良いだろう」との考え方になりがちです。結果として、しわ寄せは解体工事業者へ行き、職人の給料も上がりにくくなるため、解体工事業界に入職する方も増えづらいのです。
ですので、コストを抑えたいという所有者側の心理と、リサイクルも含めた法律を順守した解体工事を両立できるような仕組みをつくることが大切です。そのためには、業界全体として生産性を向上していく必要があります。約10人の技能者を抱え、年間100件の工事をこなす解体工事会社があるとしたら、ITの活用により無駄な業務を無くし年間150件の工事を無理なくこなすことができるようになれば、会社としても売上が上がり、所有者側のコストも下がります。
この問題は、当社のようなプラットフォーマーが解体工事会社とともに改善策を考えていかなければなりません。今までの解体業界が当たり前ではなく新たなやり方やいろんなことを試しながら、お客様から選ばれ、産業として評価される業界にするために、解体工事業界と手を携えて産業改革に取り組んでいくつもりですし、「全国空き家対策コンソーシアム」の中には、中古住宅を買取り、リフォームして販売するカチタスや全国の工務店とネットワークを結んでいるLIXILも会員として加盟されていますので、施工業者との連携は今後も強めていきます。
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「街」の循環再生文化を育んでいきたい
――今後の進めたい事業については。
川口代表 当社のビジョンは、「街」の循環再生文化を育む会社です。これまでの街づくりは新たな建物をつくることが主役でした。新たなものをつくることも大切ですが、これからの時代は今あるものをどう活かしていくかという観点と、使えなくなったものをどうリサイクルに乗せていくかという観点が重要になり、それが当たり前の文化になっていくべきだと考え、このビジョンを策定しました。
――取組みがいのあるお仕事ですね。
川口代表 ええ。当社の事業戦略にも紐づいていきますが、当社は従来、マッチングサービスなど解体工事にかかわる情報提供を中心としてきましたが、今は解体工事業者や廃棄物処理業者とともにクオリティマネジメントやサプライチェーンマネジメントに取り組んでいます。
解体工事は街のリニューアルやリサイクルを担う大切な産業です。当社や当団体としてもしっかりと支援し、より良い業界へと発展させていきたいですね。
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