国土交通省(四国山地砂防事務所)のご協力を得て、四国中央部の山奥、祖谷地区で動いている3つの砂防(地すべり対策)工事の現場を取材する機会を得た。砂防の現場ではなにをしているのかと言うより、砂防の現場ではなにを喜びとしているのかが知りたいというのが、今回の取材の動機となっている。
まずは、発注者として、祖谷地区の工事を担当する髙川智さんを取り上げる。発注者の視点から見た砂防という仕事の魅力について、迫ってみた。
設計段階から完成まで見届けられるのが、仕事の喜び
――砂防事務所勤務は何回目ですか?
髙川さん 4回目です。四国地方整備局で砂防を担当したのも含めると、通算で22年ほど砂防を担当してきました。私も含め、河川系の職員が砂防を担当するパターンが多いと思います。
――今何現場担当しているのですか?
髙川さん 7現場です。
――砂防の仕事に携わって、喜びを感じるのはどういうときですか?
髙川さん やはりモノが完成したときですね。自分が調査・設計したモノがカタチになるのを見ることができるということです。道路や河川と比べ、砂防の工事は比較的短期間で終わるので、モノの完成まで見届ける機会も多いんです。たとえば、今年夏ごろに完成予定の有瀬地区の排水トンネル工事は、設計段階から担当していて、ほぼ完成まで見届けることができています。
モノができた後、効果を発するかどうかまで見届ける

四国山地砂防事務所の主な事業(四国山地砂防事務所の事業概要資料より抜粋)
――河川や道路にはない、砂防ならではの事柄として、なにかありますか?
髙川さん 地すべり対策ですかね。井戸(集水井)を掘って、地下水を排除するという作業は、おそらく砂防でしかやっていないと思います。ただ、本当に水が抜けるかどうかは、工事をやってみないとわからないというところがあります。モノができたら終わりではなく、モノがちゃんと効果を発するかどうか、そこをちゃんと見なければなりません。必要があれば、追加の対策工を講じなければなりません。そこが、砂防(地すべり対策)ならではだと思います。
――本省と違って、「砂防をやりたい」ということで、地方整備局に入る人はいないと思われますが。
髙川さん たぶん、ほとんどいないでしょうね。
――砂防に関するノウハウの継承について、どうお考えですか?
髙川さん 個人的には、砂防だけやるよりも、河川や道路などいろいろやった上で、砂防もやるほうがバランス的には良いのかなと思っています。その結果、四国地方整備局内に砂防経験者が増えるというカタチが望ましいと思っています。私が言うことではないですが(笑)。
遠隔臨場は、監督官にとっても非常に助かるツール
――砂防工事には危ないイメージがあるわけですが。
髙川さん 砂防堰堤工事であれば、土石流危険渓流内での作業になりますし、地すべり対策なら、地すべり防止区域内での作業になります。施工業者さんは当然、気をつけて工夫しながら工事を行っています。たとえば、異常や危険を察知するためのセンサーや、上流側を監視するWEBカメラの設置といったことです。
――「砂防工事にICT施工は向いている」という話を聞きますが。
髙川さん 今動いている現場では、たとえば、施工業者さんが地形3Dデータを取って、仮設計画などに役立てています。ICT施工に積極的な施工業者さんが多く、発注者としても、協議し、必要な経費は計上するようにしています。
――遠隔臨場はどうですか?
髙川さん 遠隔臨場については、ほぼすべての現場で実施しています。遠隔臨場は、施工業者さんにとっても、われわれ監督側にとっても、非常に助かるツールです。お互い行き来するとなると、現場によっては、往復2時間かかってしまうところもあります。遠隔臨場であれば移動時間だけでなく、待機時間もなくなるので、非常に効率的です。