年間4万6,000戸以上の住宅を供給する飯田グループホールディングスの中核企業の一建設株式会社(東京都豊島区)は、東京都立蔵前工科高等学校建築科1年生の高校生28名を対象に「住宅設計体験会」と「木造住宅の建築現場見学会」を3月21日に開催した。
体験会と見学会は、将来の建設・建築業界を担う建築科の高校生に、実際の建築現場を見てもらうことで、新しい発見や気づきを得てもらい、時代とともに変化する現場の働き方を知ってもらうことを目的に実施した。
午前の「住宅設計体験会」では、一建設の社員より住宅設計の仕事内容の説明や3D CADを使った住宅設計の実演をおこなった。その後、蔵前工科高校の生徒が作図用方眼紙を使い、“自分の住みたい家”の住宅図面を作成、代表して3名の生徒が作成した住宅図面を発表した。午後の「木造住宅の建築現場見学会」では、埼玉県上尾市で建築中の住宅内で、基礎工事や躯体工事の説明を受けた後、一建設で正社員として働く大工が高校生に安全な工具の使い方をレクチャーし、代表して4名の生徒が実際に工具を使ってビス打ちを体験した。
これまで一建設では、福岡県、大阪府、兵庫県、宮城県で工業高校の高校生を対象に現場見学会を4回開催。2024年度も2023年度と同様に5~6回開催し、未実施の地域である東海エリアなどでも見学会などを行う予定だ。
一建設は全国に116拠点(2024年4月1日時点)あり、将来的に拠点がある都府県すべてで工業高校を対象とする見学会を開催する意向だという。
建築科の生徒たちに、大工や施工管理者の道を選んでほしい

生徒の前で挨拶する一建設 執行役員東日本工事統括本部本部長の藤川基俊氏
一建設執行役員東日本工事統括本部本部長の藤川基俊氏は、体験会や見学会の趣旨についてこう説明する。
「一建設のリクルーティングに直結した活動ではない。ただ、せっかく工業高校の建築科に通学しているのであれば、建設・建築業界に就職してもらいたい。とくに木造住宅に関心を強めてもらい、将来は大工や施工管理者としての入職を願っている。これまでの見学会でも、一建設の社員大工による実演を高校生がニコニコとみて楽しんでいる姿に成果を感じている。建築科の生徒にとって現場に触れることは貴重な機会だ」
建設産業では現場の急速な高齢化と若者離れが深刻化する中、限りある人材の有効活用と若者の入職促進による将来の担い手の確保が急務といえる。国土交通省によると建設業の就業者数は、1997年のピーク時と比べて約29%減と深刻さは変わらない。
この点について藤川氏は、「建設・建築業界は今、担い手の確保が厳しい状態にある。今回のような見学会を通じて、建設・建築業界に強い関心を抱いていただければありがたい。子どもが将来なりたい職業に大工は上位にランクインするので、ものづくりに関心を持つ若い方は多いと思う。しかし現実には工業高校を卒業しても、大工や施工管理職に就かない方もいるので、そういった現状を払拭していきたい」と語る。

基礎工事の説明を受ける生徒たち
一方、建設業界では2019年4月に施行された「働き方改革関連法」に基づく時間外労働時間の上限規制について、2024年4月から適用された「建設業の2024年問題」を抱える。これについて、一建設の大工の労働時間は他業界と同様に残業時間の上限に当たる月45時間を絶対に超過しない体制で労働時間を管理してきた。
「当社はホワイト企業と外部からいわれるような会社でありたい。私としては労働環境では優位性があるとの認識を持っている。建設業界の悪いイメージである3K(きつい・汚い・危険)を払拭するよう、これからも見学会を開催したい」(藤川氏)
一建設では大工を含む技能職社員はスマートフォンで操作が可能な勤怠管理システム「Time-Pro」を活用し、効率的な働き方を実現。また、2018年から施工管理者は施工管理アプリの「ANDPAD(アンドパッド)」を使って工程を管理するなど、残業時間を抑制する取り組みをおこない、効果を生み出している。
「昔のように紙やFAXのようなアナログな方法で連絡せず、瞬時に施工管理者が協力会社の職人と連絡できるような体制を整えている。また、図面や工程表もアプリを起動するだけで最新のデータを確認できる。当社の施工管理者から今回の現場見学会ではANDPADの使い方も紹介し、DXを活用した革新的な一面も高校生にアピールする」(藤川氏)
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「大工になりたい気持ちがますます強くなった」

社員大工のプレカット材の組み込み技術に注目する蔵前工科高校の生徒たち
蔵前工科高校は、創立1924年(大正13年)と古い歴史を持ち、工業系高校として東京都内はもちろん全国的にも知名度が高く、産業界からの評価も高い。機械・電気・建築・設備工業の4学科を設置し、実習を中心とした実践的な授業を展開している。
見学会は埼玉県上尾市小泉の8棟建ての建築現場で開催。生徒たちは基礎工事全般のほか、躯体工事では「耐力面や軸組み」や「正社員として働く大工による工具の安全な使い方」の説明を受け、実際に工具を使って実践。実技を通してより建築の魅力に触れてもらう試みも展開した。

電動ドリルの作業を体験
蔵前工科高校建築科の須田哲也さんは見学会でのこのような感想を述べた。
「本日の見学会で一番印象に残った電動ドリルの作業。昔、手動ドリルを体験したことがあったが、すごく大変で戸建て住宅1軒建てるのにこんな作業があるのかと衝撃を受けた。今回、電動ドリルの作業を経験したが、効率性がよく時間もそんなにかからないことから、建築業界の道具の進歩を改めて実感した。
子どもの頃から大工の職人になる夢を持っている。現場を外で見るのと中で見るのとでは、印象も違う。中で見ると、職人の技を細かく見学できるのがうれしい。可能であれば自分は建築現場で多くの経験を積みたい。今日の現場見学でさらに大工になりたい気持ちがもっと強くなり、一日も早く一人前の大工になってこの現場のような住宅を建築し、多くの方々に喜ばれる住まい造りの仕事がしたい」

施工管理者がANDPADについて解説施工管理者がANDPADについて解説
現場見学会は教科書と現場の違いを学べる場
蔵前工科高校建築科長の鴨川寛之教諭は、今回の現場見学会などを次のように総括した。
「建築科1年生は木構造を勉強しているが、教科書や写真で見ても大きさが理解できない点もある。しかし、今回の建築現場見学会のように1つの建物全体を見せてもらうことで、木構造や部材、道具のイメージが付きやすく、自分たちが学んだことについてより理解を深めることができた。2年生は鉄筋コンクリートや鋼構造について学ぶが、マンションや大型の建築物を見学の機会を得るべく今年も動いた。3年生は施工全般を学び、メインは仮設や地盤工事の現場見学を予定している。
現場を見学した生徒は、教科書と現場の規模感の違いを実感する。現場は通学路にも存在するが、外部と内部での現場の違いに驚く生徒は多い。そこで改めて建築現場により関心を強める生徒が増えるが、今回の建築現場で生徒は大きな学びになったと思う」
やや古い資料になるが、(一社)建設業振興基金では、『建設企業が行う工業高校生採用活動の取組事例集』という報告書をまとめ、建設技術者・技能者として優秀な教育を担う工業高校に着目し、担い手確保の観点では重要な役割を果たすと期待している。
建設企業は工業高校との人脈を地道に構築し、長期的な視野で戦略的に採用を進めていくことが改めて重要な事項になるだろう。
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