経営層のDXに対するネガティブ感情は約10%
――経営者からはDX化について前向きな回答を得られていることはポジティブな結果ですね。
長濱氏 「DX化は重要ではない」というネガティブな回答は約10%でした。捉え方によっては、DXに抵抗感のある方はわずか約10%だったことは注目点で、DXが重要だという経営層は業界に多くいらっしゃるのではないでしょうか。その上で、DXの普及活動は手法がいくつかあると考えています。
当社の岡本杏莉・上級執行役員が代表を務める「建設DX研究所」では、他のDX企業と協力して勉強会を開催し、政治や行政の方に現場の実情を知ってもらうようつとめています。国や地方自治体など制度を決める行政機関に働きかけることで、現場の業務もやりやすくなりますし、DXツールを活用する波及効果やメリットも生じます。

経営者のDXに対する意識は高い / アンドパッド調べ
建設DX研究所では、これから現場監督の常駐の緩和についても言及しています。現行では「現場監督は現場に行かなければならない」というルールメイクがされていますが、これだけの人手不足時代を迎えては1日に1回、現場に行くことが厳しくなってきています。ネットワークカメラを活用し、現場に行かずとも離れた場所から臨場を行う遠隔臨場技術も進化しているので、遠隔で現場を管理することを制度上認められるようになれば望ましい形だと考えています。今は各社とも遠隔臨場が可能なカメラなどの整備さ進んでいるので、当社でもピクトグラム株式会社(愛媛県松山市)などと連携・協業し、「遠隔臨場パッケージ」を提供しています。
進化を続ける施工管理アプリ「ANDPAD」
――遠隔臨場の話も出ましたが、ANDPADは施工管理に留まらず、機能が豊富な点が特長ですね。
長濱氏 主な機能としては施工管理、引合粗利管理、受発注が3本柱になります。このほか、検査項目や進捗状況を見える化し、施工品質を向上する「ANDPAD検査」、黒板作成から黒板付き写真撮影・整理、写真台帳付き作成の一連の作業を一元化する「ANDPAD黒板」とサービスを拡大してきました。また、2023年10月にはインボイス制度の施行を受けて、「ANDPAD受発注」ではインボイス制度対応をサポートしています。
このように多々機能はありますが、ゼネコン系・住宅系企業向けでは、それぞれ必要とされる機能が異なっており、住宅系企業様には「All IN ONE」のサービスとして提供しています。2016年3月のサービス開始時点では、現場DXや施工管理アプリという用語もありませんでした。当時は「電話、メール、FAXで現場が回っているからいらないよね」という声も多かったんです。しかし今は、施工管理アプリを導入するのは当然として、“何を入れるべきか”というフェーズに大きく転換しています。これまでは現場管理ツールで入力し、さらにバックオフィスでのツールに同様の内容を入力するなど二重、三重入力、転記といった手間がかかっていました。複数のツールを導入したものの、それぞれの良さが点に留まっていたんです。そこで、当社では「All IN ONE」で提供できる点をうたい文句としています。

「ANDPAD」はオンライン受発注機能もあり、ペーパーレスを促進できる
ゼネコン・サブコン系企業様には、“コミュニケーション”をキーワードとしています。「ANDPAD図面」によりタブレットで図面を確認し、そこでピン立てをし、その図面の写真を撮影し、技能者に対して是正指示をするなど、コミュニケーションを深める機能を強化しています。こうしたコミュニケーション機能に関して、他社のツールには少なかったのですが、従来から備えている図面DXにコミュニケーション機能を加える点がANDPADの特徴です。
合田工務店の事例をテレビCMで紹介
――実際にANDPADを導入した事例にはどのようなものがありますか?
長濱氏 香川県高松市で総合建設事業を展開する株式会社合田工務店様は官公庁施設、教育施設、医療・福祉施設、マンション、ホテル、商業施設など、地域のランドマークとなる物件の建築に幅広く携わり、地域とともに発展されてきましたが、現場監督の残業時間が多い点にお悩みがありました。
ゼネコン系の現場監督は写真撮影業務が多いですが、何千枚、場合によっては何万枚もの写真をデジタルカメラで撮影し、夕方に会社に戻ってデジタルカメラからパソコンに写真データを移し、フロアごとの写真の振り分け作業を行わなければならず、現場監督にとって大変負担の大きな業務です。
そこで「ANDPAD黒板」を使っていただきながら業務を進めたところ、残業時間が半分減少したとお声をいただきました。「ANDPAD黒板」では、黒板ごとに写真が自動でフォルダー分けされます。業務として写真の振り分けの時間や、クラウドサービスのため写真をデータで移行する時間もなくなるなど、現場監督の実業務で効率化が実現した事例です。
――住宅系での効果的な事例は。
長濱氏 愛知県岡崎市の株式会社不動産SHOPナカジツ様は、2021年に「ANDPAD受発注」を導入されました。もともと施工管理領域でANDPADを導入されていたため、その延長線で進めていきました。結論から言えば、受発注業務の90%の削減効果がありました。発注や請負業務や現場を納めた後の管理報告が煩雑になっていたのですが、「ANDPAD受発注」機能で統一することで、効率化できました。協力会社や個人事業主もスマートフォンで請負業務や月末の請求書の発行もできますから、業務効率化は進みました。
ゼネコン・サブコンへの普及加速へ
――もともとANDPADはどのようにして生まれたのでしょうか。
長濱氏 創業当初は代表の稲田が住宅会社や工務店向けのホームページ作成や住宅展示場の運営サポートを行っていたのですが、あるとき現場監督の方から「スマートフォンで現場管理ができるツールがあると助かるんだよね」との言葉をいただき、開発に乗り出した経緯があります。開発から改良、機能拡充にあたってもユーザーである現場監督の方々にお話をうかがいながら、現場重視の”伴走型”の開発で今日に至っています。
ですので、ご契約された建設会社向けに、オンライン・オフラインでの説明会を年間約7,900回開催しています。この説明会の多さは他のDX企業と一線を画していると思います。建設業界ではDXツールをお渡ししてそれで終わり、ということでは普及しません。建設会社に対しては業務の棚卸から始め、ANDPADを実装し、説明会をとおして協力会社を含め機能のご理解をいただいている点に当社の強みがあり、これによってユーザー数47万人、18万社という施工管理アプリのシェアNo.1につながっていると考えています。

「現場監督から開発の示唆をいただいた」と語る長濱氏
――ANDPADの進化はさらに続きそうですね。
長濱氏 ええ。最近では、電波の制限された環境でも黒板付きの写真の撮影・保存が可能になるANDPAD黒板の「オフラインモード」機能の提供を開始しました。ゼネコン系の業務では山間部・僻地や地下、マンションやオフィスビルといった大型建築物のような厚い壁に囲まれた現場、地上から離れた高所などの電波の制限された現場も多く、従来のANDPADでは起動しにくい環境でした。ゼネコン各社から、この課題を解消してほしいとの要望があり、今回リリースに至りました。

ANDPAD黒板に「オフラインモード」機能追加
現在もゼネコンの現場監督との意見交換を重ね、さらなる改良を続けていて、3月には配筋リストのPDFファイルから豆図、黒板へ記載する内容に該当する画像やテキストをAIにより自動で検出して黒板を作成する「黒板AI作成」機能の提供もスタートしました。
――これから「ANDPAD」のサービス提供の強化の視点ではどの層を検討されていますか。
長濱氏 建設業界全般にANDPADを普及していくのはもちろんのことですが、足元ではゼネコン・サブコン企業の引き合いが強く、この分野での提供とツールの改良を加速させていきたいと考えています。サービス提供当初は住宅系企業向けで、つい最近までは「ANDPADは住宅系のツールだよね」とのイメージを持たれている方も一定数いらっしゃいました。今後はゼネコン・サブコン向けの機能追加や改良、販促も強化していきます。
商業施設やオフィスビルを施工するゼネコン、戸建て住宅を工事する工務店などでは課題点が異なります。その課題を当社のDXツールを使って解決をしながら、業務の時間の削減に寄与していくつもりです。
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