道路工事や自然災害などの理由で緊急的に道路が通行止めになったとき、現場に行く人員や所要時間の確保のほか、現場到着後の通行車両に対し、規制機材や手動遮断機バーの設置など、道路管理者が行わなければならないことは数多い。
しかし、道路管理者の人員もリソースも限られている。通行車両や道路管理者自身の安全を確保したうえで、省人化と時間短縮ができる方法が求められている中で、各社で遠隔操作による技術を模索中だ。
建設DXに取り組む野原グループの株式会社アークノハラ(東京都新宿区)でも、これらの課題に対して、「遠隔操作遮断機システム」「冠水通知型LED表示機システム」「遠隔操作 中分固定表示機システム」と次々と開発し、道路管理者の省人化を目指している。アークノハラでは道路管理の職員が現地に向かう時間を仮に1時間とすれば、遠隔操作によりその時間自体が削減でき、現地での作業時間が20分かかっていたとすれば、ICTやIoT技術を活用することでわずか10分に抑えられると試算。道路管理者の負担は大幅に軽減できる商品といえる。
今回、道路管理者向けに営業展開を行っている株式会社アークノハラ事業本部営業部スペック推進室エキスパートの安田英明氏に話を聞いた。
道路管理者が自ら現地へ赴く危険性
――安田さんが所属されているスペック推進室とはどのような部署ですか?
安田英明氏(以下、安田氏) アークノハラは車両向けの道路標識や視線誘導標、歩行者向けの観光案内サイン、ガードレール、遮音壁などの安全施設製品で、設計から製造さらには施工と一貫したネットワークを構築しています。スペック推進室では、戦略製品を用意し、基本的には施主、設計事務所、建設コンサルタントへ提案し採用してもらう活動をするための専門部隊です。チームは、「標識」「ICT」「グラウンド」に分かれ、このうち私は「ICT」のチームに属しています。
――道路管理についてどのような課題感を抱いていますか。
安田氏 通行車両の安全性を確保した上で、省人化と時間短縮を可能にする方法が求められていると考えています。
アークノハラの存在意義は、公共空間、道路を含めたインフラの安心・安全を守ることです。ICTチームとしても、ICT技術を活用し、交通事故がない空間、渋滞がなくスムーズに目的地に到着できるような道路管理を模索しています。
――アークノハラでは遠隔技術の開発を続けていますが、どのような背景があるのでしょうか。
安田氏 目指していることは、通行車両の安全を確保し、次に道路管理者が減少していく中、省人化や負担軽減に効果をもたらすことです。
高速道路は毎年のように大雪などで通行止めが発生します。道路管理者は専門車両に乗って現地確認を行いますが、これには時間がかかりますし、雪に阻まれて現地に到着できないこともあります。また、地震災害や風水害などの緊急時に道路管理者が現地に行くことは、二次被害の危険性もあります。通行規制は担当者が現場に出て表示板やカラーコーンなど規制材の設置を行うため、こちらも危険が伴います。
そこで人間が行ってきた作業を遠隔地から機械を操作することで実現できれば、リスク軽減、省人化をもたらす効果を生みます。当社で開発している技術はいずれも根本にこの考え方があります。
スマホやPCで遮断機とLED表示機を操作
――「遠隔操作遮断機システム」はどのようなものですか?
安田氏 災害・事故による道路や入口箇所への一般車両の流入を遠隔操作のゲートで防止するシステムで、遠隔操作で動作するゲートとLED表示機、ライブカメラから構成します。通信線工事不要の通信機能を付加しているため、パソコンやスマートフォンでの操作が可能です。遠隔操作によるライブカメラでの周囲確認、LED表示機による通行止め表示、ゲートによる物理的通行止めを一連の作業で実施できます。遠隔操作はパソコンなどの端末機器により、インターネットを介した通信方式により行います。
今、いくつかの現場で活用していますが、利用状況を見ながら、道路管理者から採用の検討が行われています。有料道路が通行止めの際、「①:一般道から料金所への流入を防止する」・「②:SA(サービスエリア)やPA(パーキングエリア)から本線への流入を防止する」・「③:有料道路のゲート先の(右・左の)分岐点での通行止め方向への流入を防止する」を想定しています。
――「冠水通知型LED表示機システム」はどのようなものでしょうか。
安田氏 こちらはアークノハラと日本ライナー株式会社が共同で開発しているシステムです。日本各地で多発する大雨による被害は、とくにアンダーパスで懸念されています。車両が立ち往生した場合は、人命が危険にさらされ、大規模な交通の二次災害が生じる危険性があります。これまではLED表示機の場所に管理者が赴き、スイッチで「冠水通行止」や「凍結注意」などの表示を切り替えていました。しかし大雨の時にはその作業をすれば道路管理者の身に危険が及びます。
「冠水通知型LED表示機システム」では、冠水センサーがオンになると、自動で管理者にメールで通知し、現地LED表示機が注意喚起を発光します。PCブラウザ画面で機器の管理が一括で容易にでき、同時にドライバーへの注意喚起も行うため、即時対応が可能です。機器は日本ライナーが、遠隔操作などのシステムは当社が開発しています。
導入された地方自治体の中に宮城県利府町があります。大雨時に冠水して車両が立ち往生するなどの被害が発生していた町道横枕線のアンダーパス(利府町菅谷字西谷地地内)に、自動通知機能を備えた冠水通知型表示機システムを設置し、2023年9月中旬から運用を開始されました。利府町からは「災害時は突発的な対応が求められるため、システムで対応可能な部分は省力化を図り、よりヒトが注力すべき事態に対応することにより、道路利用者の安全確保、職員の負担軽減の両立に効果が期待できる」との声をいただいています。
中分固定表示機も遠隔操作へ
――アークノハラと日本ライナーでは、高速道路の工事規制作業における注意喚起を車両運転者に促す「遠隔操作型中分固定表示機システム」を共同開発中と伺いました。
安田氏 高速道路では経過年数に伴う老朽化を背景に、安全な走行の確保を目的にリニューアル工事が各所で実施されています。従来のリニューアル工事では工事標識を設置しての車両規制が行われますが、運転手の視認性不足で工事規制帯での車両衝突発生事故も発生しています。車両が高速で走行する高速道路で路上規制を行う作業員の安全確保は長年の課題です。
遠隔操作型中分固定表示機システムでは、現地へ行かずに事務所のパソコン・タブレット・スマートフォン上で中央分離帯に設置されているLED表示機の遠隔操作が実現できます。また、複数現場に設置した各機を事務所内で一括管理・集中管理も可能で、太陽光パネルとバッテリー仕様のため、電源工事が不要です。
同システムの導入で、道路管理者としては規制標識設置作業時の作業員の事故リスク低減、道路走行時の車両運転手の安全走行(接触事故のリスク低減)、道路管理業務の省人化や作業軽減、渋滞の削減などの効果が期待できます。
――今後の方針は。
安田氏 まず、いま述べた3商品の普及促進を図っていくことが第一です。次に道路管理者の潜在的なニーズとして、各社メーカー製品を一元的に管理したいという希望があります。各社製品をアークのシステムを介して動かせるようになれば、車両運転手も便利になります。私どもとしては道路の遠隔操作の分野におけるコアになれれば望ましいです。
野原グループのBuildApp(ビルドアップ)は、建設工程における各プレーヤーをBIMデータでつなぎ、建設サプライチェーン中核部の抜本的な効率化の実現を目指すソリューションです。当社も道路管理の部分で「アークノハラに相談すればすべてのシステムもつないでもらえる」存在になりたいと考えています。
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