公共性のある仕事を魅力あるデザインにするのは当然のこと
――土木学会にも景観デザインの委員会がありますね。
柴田さん そうですね。土木の景観デザインという学問は、構造や水工、地盤など、土木工学内の他分野に比べ新しい分野と言えますね。ただ現在の土木学会会長は佐々木葉先生と言って、景観工学、景観デザインの研究をずっとされてきた先生です。若いころからお世話になっている先生ですが、多くの景観分野の研究者からしても会長就任はとても嬉しいことですね。学問分野として認められる機会や話題も増えるでしょうし、ありがたい思いです。
――柴田先生にとって、土木として景観デザインをやる魅力はなんですか?
柴田さん 土木の仕事はスケールの大きい仕事ですし、人々が暮らす地域や多くの人々にとってかなりのインパクトを与えることができますよね。さらに土木構造物って建築よりも寿命が長く、その分、愛され続けていかなければならない宿命も背負っているわけです。そこが難しくもあり、おもしろいところだと思うんですね。
なので、インパクトのある、 長い寿命を持って地域に携わる構造物や空間をつくろうとする際に、魅力的な造形か、使い勝手は良いか、快適であるかなどの視点を無視して進めるというのはいかがなものか?という問いが私の中に常にありますね。
土木構造物をはじめ、公共の空間は、市民の税金を使って整備されます。だからこそ、公共性のあるものづくりは、市民に喜ばれ、親しまれ、魅力を感じてもらえるデザインとして提案することは当然だと思っています。私が景観デザインを研究、実践している理由の原点と言えるかもしれません。
――たとえば、橋梁とかダムの構造を単純に愛でるといったことも、景観デザインの範疇に含まれるのですか。
柴田さん 当然含まれます。そういうのがとても重要なことなんです。
――では、歩道もそうですか。
柴田さん もちろんです。
インフラ・ツーリズムのような取り組みがありますが、橋やダムといった土木構造物は象徴性が高いので、上記取り組みの観光資源に向いていると思っています。とくに橋は、地域のシンボルにもなりうるポテンシャルの高い構造物ですよねえ。
ですので、そういう構造物は、デザイン的にもしっかり考えなければいけないと思いますし、これまでにも素晴らしい橋のデザインは多く見受けられます。橋梁デザイナーと呼ばれる人たちの努力の結晶と言えます。
最終的には行政担当者のヤル気、熱意が左右する
――とある長大橋を建設するに際して、デザインに凝りすぎて、お金がかかりすぎるのが問題になっている、という話を聞いたことがありますが。
柴田さん 私もこれまで、いろいろなプロジェクトを手掛けてきましたが、お金の問題に突き当たらなかったプロジェクトは一つもありません。予算内で、一番パフォーマンスの高い、デザイン・設計案を考えるのは当たり前の作業です。
あとは材料ですね。その場、その都度交渉して、このエリアはちょっと安価なものを使って、大事なここはよりグレードの高いものを使いましょうとか。もっと言えば、自治体単独の予算だけでなく、整備の仕方によっては、ほかから使える予算を活用できないか、そのための工夫や提案自体を行うなど、より良いものづくりになるよう心がけてきたつもりです。
もちろん、うまくいく現場とそうはいかない現場があります。プロジェクトの規模にもよりますし、やはり公共事業を企画立案し、整備を進める行政担当者のヤル気というか、熱意の有無はとても大事で、実現を左右される要とも言えますねえ。
イメージと現実にギャップがあるのは良くない
―― 一般論として、「学生の土木離れ」が指摘されていますが、どうご覧になっていますか。
柴田さん 頭の痛い問題です。お隣の建築学科はやはりずっと人気がありますよねえ。土木という言葉に対して、「つくり上げられているイメージがいまだに強いなあ」と思うときがまだまだあります。私としては、これまでも土木という仕事の素晴らしさを一生懸命アピールしてきたつもりですが、情報を発信しても、受け手がセンサーを持っていなかったら、うまく受け取ってもらえないということも痛感しています。
情報の出し方が悪いと言われると、その通りなんですが、SNSや動画をいかに活用するかといった継続的な探求が、これからの情報発信においてもずっと続いていくのだろうと思っています。
――そこへいくと、景観まちづくりって、イメージ良さげですけど。
柴田さん んんん、そうですかねえ。まあ多くの人たちがまちで生活していますから、イメージしやすい分野かもしれませんね。若い人たちの目に止まりやすく、そういう良いイメージがあると感じることも少なからずあります。
ただ逆に、最初から学生に良いイメージを持たれすぎるのも、良し悪しです。イメージと現実にギャップがあるのはやっぱり良くないですし、イメージ先行で来られると、逆に困ることもあります。どんな分野でも、多くの苦労の上に成功があるということを分かってほしいですね。
良い景観デザインを実現するためには、予算の問題とか、合意形成とか、調整とか、技術とか、単純にデザインのこと以外に、勉強しなければならないことが山ほどあります。選り好みをせず、自ら積極的に学習し、コミュニケーション能力を高める学生さんはやはり強いですねえ。
さきほど「建築っぽい」とおっしゃられましたが、他の人からも、しばしば「建築の先生ですか?」と聞かれることがあります。「いえ、土木です」としっかり答えるようにしていますが、こういう質問をされること自体、イメージ先行でまだまだだなあと反省したりもします(笑)。
――失礼しました(笑)。
柴田さん いえいえ(笑)。もちろん建築は素晴らしい仕事ですし、建築家のお仕事ぶりを見てうらやましいと思う部分もありますが、土木の身からすれば、建築が立つ前提のインフラをつくっているのは土木であるという自負や、3年前に出版された「土木の仕事ガイドブック」を編著させていただいたときに、土木の仕事の魅力ややりがいをしっかりアピールしていかなければならないと再認識しました。
先生と学生が馴れ馴れしく呼び合う関係性
――ふだん学生と接するに際し、気をつけていることなどはありますか。
柴田さん 今一番難しい話題かもしれませんね(笑)。最近の学生はいろいろなタイプがいるので「うちはこういう教育方針なので黙ってついて来い」的な進め方や価値観はもう通用しなくなっていますよねえ。
私の場合も探り探りで、学生1人ひとりに対して、それぞれ細やかにコミュニケーションの押し引きというか、当たり前ですが、対話を心がけながら進めるようにしています。
最近の学生の傾向として、もちろん個人によりますが、なんとなく怒られることにあまり慣れていない感じがします。指導した内容を怠っていれば、当然、学生を怒ることはありますが、その瞬間だけで、引きずらないように心がけています。普段からできる限り学生と一緒にワイワイ楽しくやるようにしていますし、少し前に「ソーシャルキャピタル」という考え方がよく話されていましたが、チーム内の人的な関係性の良さは、そのチームの生産性と成果物の質的良さにもつながるというもので、私もそう思っています。
研究室でもこの考え方は大事だと思っていて、具体的には、学生との関係づくりとして、時代遅れと思われるかもしれませんが、できるだけ本人が望めば、名字ではなく、名前や学生同士で読んでいるニックネームで私も呼ぶようにしたりしています。度を超えて、馴れ馴れしくし過ぎるのは良くないとは思いますが、冗談を言い合ったり、ノンアルを含めお酒を一緒に飲んだり、何が正解なのかは分かりませんが、少しでも本音で話してもらえる雰囲気づくりには努力しているつもりです(笑)。
――ご苦労されていますねえ(笑)。
柴田さん いえいえ。どうも(笑)。
――最後に、福岡大学工学部の魅力はなんですか。
柴田さん 学生数が多くて、教員数も多いので、工学のいろいろな分野をカバーしていることは、福岡大学工学部の強みだと思っています。また、福岡大学は2万人ほどの学生数ですが、ワンキャンパスで立地しているので、工学部生として学びながら、他の学部生ともすぐに交流できることも、魅力だと思っています。
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