公益社団法人土木学会(佐々木 葉会長)は、「土木学会デザイン賞2024」の最優秀賞2件、優秀賞8件、奨励賞2件の合計12作品を発表した。最優秀作品は「気仙沼湾横断橋」と「SAGAサンライズパーク+栄光橋+佐賀市文化会館西側広場」の2作品。
景観・デザイン委員会・デザイン賞選考小委員会の柴田久委員長(福岡大学工学部社会デザイン工学科教授)によれば、例年に匹敵する非常に質の高い土木構造物や公共的な空間や広場の応募があり、審査の論点は大きく分けて3点あったという。
1つ目は『土木のデザインと周辺エリアとの関連性』。デザインは単体で評価することもあるが、周辺のデザインに対してどのようなインパクトを与えたか、あるいは周辺との関連性の中でどういった卓越した土木デザインがあるのか、その点が審査員の中で議論を呼んだ。
2つ目はクオリティや完成度の高い作品が多く、その実現に至るまでの『取組みや労力』。その内容について吟味するような審査を行った。
3つ目はその土地特有の『歴史や文化』を理解し、それを土木デザインへの活かし方で議論が白熱した。
デザイン賞2024は”王道”といえる作品が多く、橋梁、ダム、人々の賑わい、快適な居場所となるような広場づくりが授賞作品となったことが大きな特徴といえると柴田委員長は語った。
土木学会デザイン賞は、公募対象を公共的な空間や構造物に広く求めるとともに、新たに創出された空間・構造物はもとより、計画・制度の活用や組織の活動などに創意工夫がなされたことで景観の創造や保全が実現した作品に付与される。2001年度に土木学会景観・デザイン委員会デザイン賞(略称:土木学会デザイン賞)を創設し、今回の授賞作品も含めてこれまでに合計250作品を選定し、今回で24回目を迎えた。
近年は、まちづくり、広場などが授賞作品となる傾向

左から、白柳洋俊主査、柴田久委員長、三輪準二専務理事
24年間の総応募数は559件で、総授賞数は250件(うち最優秀賞64件、優秀賞127件、奨励賞55件、特別賞3件、選考委員特別賞1件)。傾向としては、最初の4年間には6割近くを花形の橋梁が多く授賞してきた経緯がある。2005年度の横浜市都市デザイン以降、まちづくりの授賞件数が年々増加し、2010年度にははじめて製品が授賞するなどの変化も見られ、近年ではまちづくり、広場、公園、河川の授賞が増加している。
授賞作品の地域別では、北海道12件、東北20件、関東60件、北陸16件、中部33件、近畿25件、中国18件、四国12件、九州51件、沖縄3件と、傾向では関東、中部、九州が多い。
ちなみに今年度は5月から応募を開始し、19件の審査対象作品に対して、一次選考、現地調査、二次選考の審査を経て、12件の授賞が決まった。授賞式は2025年1月25日に土木学会講堂で開催する。
気仙沼湾横断橋は東日本大震災の復興に関連した橋梁で、非常に美しいフォルムで復興のシンボルとなっている。道路ネットワークの見直しや橋自体が周辺からどのようにみられるかを考慮されながら非常に完成度の高く美しい橋梁である点が評価された。
SAGAサンライズパーク+栄光橋+佐賀市文化会館西側広場は、2024年の佐賀国体の開催に向け整備。県内の地方自治体、隣接している道路・歩道、警察などのさまざまな主体と連携・調整により一体的に整備した。スタジアムであれば一般用駐車場を通常設けるが、あえて作らずに周辺のショッピングモールの駐車場の活用や駅からの徒歩をうながすことで、人流の回遊性や波及効果というまちづくりの観点からも非常に興味深いデザインとなっている。
地域に愛され、誇りに感じる土木デザインを
――柴田委員長は2022年から3年間、審査委員長をつとめられてきました。総括を。
柴田委員長 審査委員を含めると4年間、携わってきましたが、今は変化が求められている時であると思います。たとえば災害が多発し、それに対応する土木の変化が求められています。一方、逆に変わってはいけないことを正確に追及していくことが土木学会デザイン賞の評価すべき役割ではないでしょうか。
――変わらなければならないことと変わってはいけないことの2点を指摘されましたが、具体的な内容については。
柴田委員長 これだけ災害が激甚化・頻発化していくと安全・安心面でこれまで設定されてきた土木構造物の基準や材料などを見直しする状況になっていくのではないか。予算面についても、色々な制約が出てくると思います。これらの影響で土木のデザインも変化するかもしれません。
一方、人々の暮らしの豊かさ、地元に対する愛着や誇りまで変わってしまってはいけません。どんなに基準が変化しても、人々に愛される土木構造物や公共的な空間は変わらずにあり続けなければなりません。そこに対する尽力や努力は土木デザインが担っていかなければいけないところです。
――今年の評価軸は?
柴田委員長 土木構造物は地域に影響を及ぼすため、周辺に対する波及効果は外せない項目でした。これは例年ずっと続けていく評価項目になるでしょう。また、土木は息の長い構造物であり、歴史や文化を理解しながらデザインにどう活かすべきかについては、おおむね土木デザインの評価軸としてはありますが、大都市という変わり続けていくものの中で、歴史や文化をデザインの中に入れ込みながらで継承していく点で、特に表層的ではない入れ込み方について審査員の中でさまざまな意見があり、白熱しました。
――土木デザインを具現化する役割として施工者の役割も大きいと考えます。土木技術者に対して一言お願いします。
柴田委員長 土木デザイン賞はデザインに特化した評価です。各作品の技術や造形の卓越した部分について評価しています。その結果、何が起きているかといえば、地域の人々が誇りに思う場所や構造物が自分たちの街にあることで、地域の人々の誇りにつながることは非常に重要です。
これを実現していくのは技術者なのです。それは一人ひとりの誇り、心意気ややる気にかかっています。簡単に造ろうと思えばできるでしょう。そこで今までにない技術を活用し、今までにない作品を造り、地域に暮らしている人々に誇りに思ってもらうことが土木技術者のやりがいにつながり、それは土木技術しかできない仕事なのではないでしょうか。