インフラ整備は、発注者と受注者との共同作業だ。
建設現場では、国発注の工事の場合、建設監督官と施工業者(現場所長、監理技術者、現場代理人)の共同作業だと言える。一般論として、この関係がうまくいかないと、良いモノ、良いインフラをつくるのが難しくなるらしい。折しも、いわゆる働き方改革(残業時間の上限規制)の波が押し寄せる中、建設現場における発注者と受注者との健全なコミュニケーション、円滑なコラボレーションがこれまで以上に強く求められているように思われる。
ということで、建設監督官と一緒に話そうシリーズとして、建設監督官と監理技術者などの方々とのグループインタビューを連載してみることにした。
その第一弾として、土佐国道事務所発注の安芸道路安芸川橋上部工事の現場を取り上げる。

寒川 孝さん 土佐国道事務所 建設監督官

竹野 晃司さん 横河・鉄建JV 監理技術者

塩田 麗菜さん 横河・鉄建JV 現場代理人
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渋滞解消と地震災害時の代替路確保

安芸道路のイメージ(土佐国道事務所HPより引用)
――こちらの事業概要などをご説明いただけますか。
寒川さん この現場は、阿南安芸自動車道の一部を構成する安芸道路というところにあります。安芸道路は安芸市内にある延長約5,8kmの区間です。
安芸道路の事業目的は、安芸市の中心市街地における慢性的な渋滞の緩和です。あとは、救急車などの救命緊急車両を高知市内の大きな病院に運び込むための道路という目的もあります。それと、災害の備え、とくに南海トラフ巨大地震への備えという目的もあります。発災した場合、一般国道55号が寸断されることが予想されており、一般国道55号を補完する役割も担っています。
安芸川を渡河する約380mの鋼橋架設工事
――こちらの工事の概要について、ご説明をお願いします。
塩田さん こちらの現場は、安芸道路区間の一部である安芸川橋の上部工事で、工期は令和5年1月から令和7年3月までとなっています。工事の概要としては、3本の主桁を持つ9径間連続鋼少数I桁橋の架設工事で、橋長は384.5mとなっています。
橋桁の架設方法は、トラッククレーンとベントを併用した工法を採用しております。クレーンで分割された橋桁を吊り上げ、ベントと呼ばれる仮支柱に仮置きしながらつなげていく工法です。
工事のポイントとしては、二級河川である安芸川を渡河する橋梁工事であることです。このため、非出水期となる11月から2月の4ヶ月間しか河川内での作業ができないという制約があります。
安芸川は上流にダムがないので、大雨が降ると、たちまち水位が上がってしまいます。安芸川の隣に伊尾木川が流れているのですが、こちらでも同様に橋梁架設工事を行っています。伊尾木川は上流にダムがあるので、すぐに水位が上がることはありませんが、ダムの放流があると、急激に水位が上がります。なので、どちらの河川も、水位の上昇には注意が必要です。とくに資機材の流出に気をつけながら、工事を進めています。

夜間架設中の様子(土佐国道事務所提供)
塩田さん 2つ目のポイントとしては、供用中の県道の上を横断して架設することです。架設中は、交通量の少ない夜間に通行止め規制を行う必要があるため、近隣住民の方々に配慮して、なるべく騒音を出さないよう工夫しながら作業する必要もあります。1期施工、2期施工と2回通行止め規制を行って、架設作業を行いました。
工事の進捗については、2024年11月末時点で、現場施工のみで80%程度、工場製作も含めると95%程度完了しています。付属物の設置と足場解体の作業が残っていますが、2025年3月中の工期に向けて作業を進めていく予定です。
竹野さん 夜間作業は、近隣住民に配慮しながら作業を進める必要があります。音だけでなく振動も問題になりますので、しっかり対策を立てて臨まなければなりません。
――発注者として、この点どうお考えですか。
寒川さん 私のほうからお願いしたのは、近隣住民の方々への挨拶回りだけはキチンとやってほしいということぐらいですね。信頼しているので、基本的にはお任せしています。私としてはすごくラクです(笑)。
雨続きで塗装工ができず
――これまで予想外のことが起きて対応したということはあったのですか?
寒川さん 今のところこれといったことはないですね。土工などと違って、橋梁上部工事なので、予想外のことは起きづらいです。あるとすれば、風が強いとか天候的なことですが、天候が理由で架設が止まったということもこれまでは起きていません。
塩田さん 寒川建設監督官が着任される前の話ですが、1期施工で現場塗装工に移行したタイミングで、1週間ほど雨が続いたことがありました。現場塗装は、雨が降ったり、湿度が高いと、品質に影響が出るので作業ができません。しかたなく、雨の日をお休みにして、晴れの日を待って塗装することとしました。冬場に雨が続いたのは、予想外でしたね。
――竹野さん、塩田さんの成長ぶりをどうご覧になっていますか?
竹野さん 1期施工と比べると、2期施工はスムーズにいっていますね。個人的な能力がレベルアップして、先を見越せるチカラがついてきたと思っています。
17時以降はメールも電話も極力しないように気をつける
――働き方改革への対応はどうですか?
寒川さん 昔は、現場によっては、土曜日も作業していただくこともあったのですが、こちらの現場は、発注者指定で土日休みということになっており、土日はしっかり休んでいただくことになっています。土日休んだら、証明書を発行する取り組みも行っています。
国土交通省として、完成検査の際の書類を少なくするということもやっています。通常の場合、完成検査の際は書類がかなり多くなるのですが、それに伴って、施工業者さんの残業が増えてしまうと聞いています。それを避けるため、できるだけ書類を少なくしようとしています。
私自身気をつけていることとしては、17時以降は、施工業者さんに対してできるだけ電話やメールをしないようにしています。どうしても確認したいときは、電話してしまいますが(笑)。メールは、相手の作業を伴うものは17時以降送らないようにしています。
あとは、ペーパーレス、電子決済といった従来からの取り組みをさらに拡大するということもやっています。土佐国道事務所として遠隔臨場もやってはいますが、こちらの現場に関しては、監督官詰所と距離が近いので、とりたてて活用しているということはありません。
基本的には男性と同じような働き方ができている
塩田さん 寒川監督官からお話がありましたが、この現場は基本的に完全週休2日で進めています。私自身については、毎月の残業時間は20~30時間ぐらいです。昼間は現場を見ているので、どうしてもデスクワークの残業が残ってしまいますが、できるだけ短時間で済ませて帰っています。職人さんは定時で帰っています。職長さんは残業することもありますが、それでも30分ほどで帰っています。
寒川監督官が電子決済のお話をされましたが、こちらの現場では、発注者との書類のやり取りはほぼペーパーレス、電子決済です。受注者としては、大幅な時間短縮になるので、とてもありがたいなと思っています。
――女性の働きやすさについて、どう感じていますか?
塩田さん 私自身、この現場では、基本的には男性と同じような働き方ができていると思っています。そういう意味では、女性も働きやすい職場だと思っています。作業員さんから「あそこの現場にも女性がいたよ」といった声を聞く機会がスゴく増えました。建設現場での男女の垣根がどんどん取り払われていると感じています。これから、もっと女性も働きやすい職場環境の整備が進んでほしいと思います。
――こちらの現場で女性同士のつながりはあるのですか?
塩田さん JVを組んでいる鉄建ブリッジの技術系の女性社員の方と親しくさせていただいています。その方はふだん高知市内で内勤されているのですが、たまにランチをご一緒して、仕事の話を含め、悩みとか、いろいろお話しさせてもらっています。県外一人暮らしで、友だちもいないので、すごくありがたいです。
――竹野さん、会社的な取り組みとしてなにかありますか?
竹野さん 最近、会社の取り組みとして、LINE WORKSというビジネスチャットアプリを活用しています。LINEの仕事バーションみたいなアプリで、社内の伝達・コミュニケーションツールとして、社員間で日々使っています。また、デジタル野帳「eYACHO」という施工管理アプリを導入して、今まで紙に書いていた作業指示書等も電子化しています。全員で同時に閲覧・編集ができるので、時短になっています。