国土交通省が進めているグリーンインフラなる政策とはなんだろうか?
私がこの言葉を知ったのは5年ほど前のことだった。以来、グリーンインフラに関するテキストを読んだり、ウェビナーを観たり、取材を行ったりしたが、追えば追うほど、むしろナゾは深まるばかりだった。
どういうことかと言うと、自然を活かすことなのか、生物多様性に配慮することなのか、ビオトープをつくることなのか、防風林や防潮林を植えることなのか、雨庭をつくることなのか、太陽光発電を設置することなのか、あるいは、それら全部ひっくるめてビジネスすることなのか、そもそもなんのためにそんなことをするのか、さっぱりわからなくなってしまったということだ。
それで、一旦全部忘れることにした。
それから数年経って、なにきっかけか忘れたが、ふたたびグリーンインフラについて取材してみようという気になった。前回の経験を踏まえ、あまり深く考えず、追いかけず、ちょっと聞いてみるぐらいの軽やかなスタンスで、取材に臨むことにした。
取材先の選定も、至ってシンプルに考えた。グリーンインフラ政策を主導しているのはどこか。国土交通省だ。では、国土交通省に取材しよう。そういう感じで決めた。
ということで、国土交通省総合政策局環境政策課でグリーンインフラ政策を担当する高森真人さんに、グリーンインフラの「いろは」を含め、いろいろお話を伺ってきた。
アメリカとヨーロッパ両方取り入れた日本タイプのグリーンインフラ
――グリーンインフラには、雨水関係メインのアメリカタイプとまちづくりを含めていろいろやるヨーロッパタイプがあるようですが、日本の国土交通省におけるグリーンインフラの定義について教えて下さい。
高森さん 国土交通省としては、グリーンインフラを「社会資本整備や土地利用等のハード・ソフト両面において、自然環境が有する多様な機能(生物の生息・生育の場の提供、良好な景観形成、雨水貯留・浸透による防災・減災等)を活用し、持続可能で魅力ある国土・都市・地域づくりを進める取組」と定義しています。
おっしゃる通り、アメリカは、どちらかと言うと、雨水抑制メインでグリーンインフラ政策を進めています。ヨーロッパでは、自然保護も含めたネイチャーというカタチでグリーンインフラ政策が進められている傾向があります。
日本のグリーンインフラ政策は、アメリカタイプとヨーロッパタイプの両方の要素を取り入れたカタチになっています。雨水関係の取り組みも入っていますし、社会資本整備やまちづくり、土地利用といった取り組みも入っています。これらをかけ合わせたものを活用して、持続可能で魅力ある国土と地域づくりを進める取り組みをグリーンインフラと定義しています。
言うなれば、日本タイプのグリーンインフラということになるでしょう。
グリーンインフラには、「グリーン」という言葉が入っているので、多くの人が「みどり」というイメージを持ちますが、国土交通省では、このグリーンを「自然環境が有する多様な機能」と読み換えて使っている部分があります。国土交通省では、グリーンインフラを「ネイチャーインフラ」に近い意味として捉えています。そういう意味では、国土交通省が考えるグリーンインフラは、極めて広い概念になっています。
グレーインフラとグリーンインフラを組み合わせて社会課題を解決する
――既存のインフラ、いわゆるグレーインフラとグリーンインフラとの関係について、国土交通省としてどう整理しているのですか?両者は対立する概念ではないというお考えでしょうか?
高森さん 国土交通省としては、グリーンインフラとグレーインフラを対立する概念だとは考えていません。コンクリートによる社会資本整備(グレーインフラ)も、みどりを取り入れた社会資本整備(グリーンインフラ)もどちらも必要な取り組みだと考えています。
もっと言えば、グリーンインフラだけの社会資本整備はあり得ないし、グレーインフラだけの社会資本整備もあり得ない。グリーンとグレーを組み合わせることによって、いかに地域における社会課題を解決するかが大事だと考えています。
たとえば、大雨で河川が氾濫するという課題がある場合は、まずは堤防などのグレーインフラをしっかり整備する必要があります。ただ、堤防を整備するに際しては、生物やみどりなどに配慮しながら進める必要があります。このように、状況に応じたグレーとグリーンとの適切な組み合わせが大事だということです。
太陽光発電は、地域の課題解決に資さないものもあるので、すべてがグリーンインフラに該当するわけではない
――話が少し脱線しますが、太陽光発電ビジネス界隈では、自らグリーンインフラと謳っていたりしますが、太陽光発電もグリーンインフラだと言えるのでしょうか?
高森さん グリーンインフラ推進戦略には、さきほども申し上げた「地域の社会課題を解決する」取り組みであることが、グリーンインフラを進める上で極めて重要である旨、記載されています。これに照らせば、たとえば、ある地域で太陽光発電を設置することが、その地域の電力不足といった課題の解決につながるのであれば、グリーンインフラだと言えるかもしれません。
ただ、太陽光発電の多くは、特定の地域の課題解決のために設置されているわけではなく、売電により不特定の広い範囲における電力需給に貢献していると考えられるため、基本的には、太陽光発電はグリーンインフラではないと考えています。
太陽光発電がすべてダメだと言うつもりはまったくありませんが、地域の課題解決に資する取り組みでなければ、グリーンインフラには該当しないということです。
グリーンインフラの効果やコストなどの評価基準などが現状明確でない
――グリーンインフラの整備効果などをどう客観的に評価するかや、資金調達をどうするかについては、まだまだ難しいところがあるようですが、どうごらんになっていますか?
高森さん 国土交通省としては、グリーンインフラ政策を進めることで、民間投資や経済効果にもしっかりつながっていくことが重要だと考えています。
グリーンインフラ推進戦略では、今後検討が必要な事項、問題意識として、評価の視点や資金調達の視点といったことを挙げています。
評価の視点とはなにかと言うと、たとえば、社会資本整備にグリーンインフラを取り入れることは、なんとなく良いことだということは誰しもわかるのですが、具体的にどういう効果があるのか、通常のインフラ整備と比べ費用的にどうかとか、評価の方法や基準などが明確ではないという課題があるということです。
われわれとしても、グリーンインフラの整備効果などをしっかり評価した上で、それを周知していかないと、さきほど申し上げた民間投資や経済効果などにもつながっていかないと考えています。
資金調達の視点というのは、たとえば、自治体がグリーンインフラを取り入れようと思ったときに、財源には限りがあるので、いかに資金調達するかが重要になってきますが、現状においては、まだ少し整理が足りないと言うか、もっと深堀りしなければならない部分があるということです。
国土交通省としても、グリーンインフラの評価や資金調達といった面には、まだまだ課題や整理すべき事項があると認識しているところです。
評価に関する課題については、内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の中で、「魅力的な国土・都市・地域づくりを評価するグリーンインフラに関する省庁連携基盤」として、いろいろな研究が行われています。これら研究の成果を踏まえつつ、国土交通省の今後のグリーンインフラ政策に取り入れていく考えです。
資金調達に関する課題については、グリーンインフラ官民連携プラットフォームという組織を立ち上げているのですが、この中に金融部会というものがあって、そこにファイナンスチームを設置し、課題整理のための検討を進めているところです。
グリーンインフラをビジネスにつなげるにはどうするか
――国土交通省は今後、グリーンインフラをビジネス展開していくお考えのようですが、企業の中には、グリーンインフラの取り組みをビジネスではなく、たんなるCSR的な環境保全活動の一環として捉えているのではないかと思わせる企業もあります。この点どうごらんになっていますか?
高森さん そのご質問は、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース:Taskforce on Nature-related Financial Disclosures)の枠組みに関連するお話だと思います。
TNFDとは、簡単に説明すると、企業が企業活動を通じてネイチャーポジティブにどれだけ貢献しているかを情報開示するためのガイダンスですが、今は推奨されているだけで、義務化されているわけではありません。ただ、いくつかの企業は、将来の義務化などを見据えて、TNFDに取り組んでいる企業も多くあります。
グリーンインフラをどうやってビジネスにつなげられるかについては、われわれとしても、いろいろと検討、研究を進めてきているところです。たとえば、不動産に着目して、東京都内の不動産の敷地内を緑化した場合、賃料にどれぐらいの影響があるのかについて、分析しました。都心5区限定での結果ではありますが、敷地内緑地が10%以上の物件は、緑地がない物件と比べ、賃料が7.4%ほど高い、という調査結果が出ました。
デベロッパーさんの中には、都心で再開発プロジェクトを手掛ける際、緑をしっかり配置している会社さんもあります。そういうデベロッパーさんは、おそらくグリーンインフラのビジネス展開というものを見据えながら、企業活動をされていると思っています。
ただ、すべての企業がそこまで見据えて企業活動をしているかと言われると、まだまだ環境整備が不足している点もあり、そこまでは至っていないと思っています。
ビジネスにつなげる上で、なにが足りないかと言えば、さきほども申し上げましたが、主に評価の見える化、具体的にどういう効果があるのかに関する客観的なデータだと考えているところです。私自身、企業の方からこの手のご意見をいただくことが多々あります。ある企業の担当者の方からは、グリーンインフラを取り入れた開発を提案しようとしても、具体的な効果をちゃんと説明できないため、社内決裁がなかなか通らない、というようなお話も聞きます。
都市緑地法改正で民間事業者等の優良緑地確保計画を認定する制度ができた
――ビジネスにつなげる取り組みは進んでいますか?
高森さん 一歩ずつ着実に進んでいるとは思っています。たとえば、2024年に都市緑地法が改正され、民間事業者等が優良緑地確保計画を作成し、その計画を認定する制度ができました。これはまさにグリーンインフラのビジネス展開を後押しする制度だと考えています。この制度にどうインセンティブを付けて発展させていくかが、今後のポイントになると見ています。
あとは、国際的な潮流を背景として、グリーンインフラ関連のビジネスが盛り上がり、それに呼応するカタチで、日本国内の取り組みが活発化していくことを期待しています。
イギリスの生物多様性ネットゲインに注目
――国際的な潮流というお話が出ましたが、海外のグリーンインフラ関連の政策や取り組みの中で、国土交通省としてとくに注目しているものはありますか?
高森さん イギリスの生物多様性ネットゲイン(BNG)ですね。民間の開発事業者に対し、生物多様性を開発前より10%以上増加させることを義務付ける政策です。2024年から法制化されていて、生物多様性に関するクレジット制度もできています。かなり先進的な政策なので、われわれも注目しています。
ルールを作ってお金を儲けるw
自分は正直好きじゃないですねw
海外いたいしての商売なら有益でしょうが国内での話だとどうなんです?