施工管理ではなく「料理番」
管理事務といっても現場事務所ではないので大した仕事はなく、大変だったのは毎日の水源チェックくらい。宿舎から100メートルほど登った沢から水を引いており、給水口に落ち葉が詰まっていれば取り除くといった作業です。施工管理じゃなくて何をやっているんだという話ですが、たまにはこういう仕事もいいものです。
沢までの道程が大変なのですが、賄いのオバちゃんが作ってくれた「おにぎり弁当」を沢で食べるのは格別でした。飲み水は沢の天然水です。
麓は内陸部で海のない町でしたが、スーパーには魚介類が豊富でミートセンターではリーズナブルな価格で肉が手に入りました。宿舎に食堂はあるのですが、味は今ひとつだったので、所長の許可を得て事務所で調理して私が食事を用意するようになりました。
私はもともと料理が好きだったので、スーパーで刺し身やカマを買ってプチ贅沢な食事を楽しんでいました。前任者がそこまでするはずもなく、所長や副所長は「こんな山奥で新鮮な刺し身やカマ焼きが食べられるとは思わなかった」と大感激してくれました。次第に2次下請けの連中も匂いを嗅ぎつけて来て、いつの間にか食事を共にするようになっていました。
管理事務というより、料理番といった感じです。2次下請けが宴会をする時には、予算を預かって料理することも何度かありました。その結果、宿舎全体のコミュニケーションがいい感じになり、当初の目的である派遣会社の「信頼回復」には貢献できたと思います。
派遣会社の思惑に反して長期の契約
私に対する所長や副所長の評価が上がったのは良いのですが、3ヶ月の予定だった派遣期間について、所長から現場が終了する1年後まで私を残して欲しいと要請があったのです。
派遣会社としては、信頼回復のために赤字覚悟で3ヶ月だけ○○万円という高給を保証していたわけですので、契約延長を要請されるのは想定外で、さぞかし困惑したでしょう。とはいえ大切なクライアントの要請を断ることもできず、給料は据え置きで私と再契約することになりました。そのお陰で、1年3ヶ月の間、居心地の良い環境で仕事内容を遥かに超えた高給を頂けたというわけです。
なにしろ標高700メートルですから、夏は涼しいのですが冬はマイナス10℃以下に冷え込む環境でした。2次下請けの作業員連中は基本的にいい奴ばかりでしたが、時には揉め事もあり、そんな時に仲裁に入るのも私の仕事でした。
何もない山の中に大勢の作業員がいるのですから、時には殺伐とした空気になることもあり、他の宿舎では傷害事件が起きたこともありました。
和やかな空気を維持するには、それなりの気遣いや努力が必要です。何もかも、良いこと尽くめとはいきません。現場で気に入られるには施工技術だけでなく、料理の腕も、人間性も大切です。逆に、施工管理経験が人間性を磨くとも言えるのではないでしょうか。