現場で施工管理者と施工者はぶつかりあうべき
私は数多くの急傾斜地区の崩壊対策工事に携わってきましたが、工事の場面では、施工管理者と作業員の意見の食い違いから、必ず対立が起こります。ここで言うのは、お互いの目線からより良い構造物を造ろうという、良い意味での対立です。
その際、施工管理者が把握しておかなければならない注意点をいくつか紹介します。
作業員の目線から物事を見る施工管理者
私が携わった急傾斜工事では、吹付工事の際に、水の逃げ道で口論になったことがあります。
その現場では水路の二次製品の設置がなく、下のステップの箇所は勾配をつけて水を逃がす、というのが当初の計画でした。というのも、ステップのすぐ下は山水が流れている水路になっており、そこに水を逃がす形にすれば問題ないという見解で、水路の二次製品設置はなしということでした。
なので単純に私は、山水の流れる方向に勾配をつけて吹付を行うという計画を作業員に伝えました。しかし、現場をぐるりと見て回ってきた一人の作業員がこう言いました。
「下のステップ側はその施工方法で問題ない。でも、上のステップ側の山水は他の箇所からも沸いているから、上のステップの方向を下の水路側に変更して、なおかつ、上のステップの勾配だけ逆勾配にして水を貯める形を取りたい。そして下のステップ方向に勾配をつければ、水路とうまい具合に水が合流すると思う」
私は初めその言葉を聞いたとき、正直ムッとしました。当初の設計通りに土工を進めてステップまで出しているのに、どういうつもりだと思いました。そして、施工方法を変える気はないと伝えました。
しかし、その作業員も譲りません。この現場を見たうえで、私の言うとおりに吹付工事を行っても、決して良い構造物にはならないと言い張るのです。
私は半分怒りの感情から、それなら好きにやってもらおうと思い、施工業者の施工方法に任せることにしました。そしてどんな施工をするのか見てやろうじゃないかと思い施工中、ずっと現場に張り付いて見学しました。
施工中は、私の当初思っていた施工方法とは全く違う形で施工が進められていきます。その度に、私は込み上げてくる怒りの感情を押し殺していました。しかし、吹付工が完了して構造物が形になったとき、初めて作業員が言っていた意味が分かったのです。私の当初の設計で施工していたら山水の水路と合流するはずのなかった湧水が、綺麗にそのステップの溝を伝って下の水路と合流したのです。
私はその時初めて、作業員に頭を下げると同時に、非常に感心しました。管理をする人間よりもその構造物の完成形のイメージを、その作業員の方は鮮明にイメージできていたのです。そのうえでそのような施工方法に切り替えるといった決断に至ったのです。管理者としての視点だけでなく、作業員の視点を持って現場を見ることが出来れば、より良い施工方法が見つかるという教訓になりました。
どんどん現場員さんとことん喧嘩して下さい。必ずいいアイデアがでます。