住宅工事は施主の本音を聞きだすのが大事
私が改修工事を担当した木造住宅は、ごくごく一般的な、住宅街の中にある2階建ての木造住宅だった。
会社としては、住宅に特化しているわけではなかったので、手間ばかり掛かって儲からない工事である。設計事務所は尚更だが、その一方で、何としても住宅案件を手放さない設計事務所があるのも事実だ。
私はそんな設計事務所を尊敬する。なぜなら設計の基本は、全て住宅に詰まってるからだ。どんな大会社の社長でも、何十億円のビルを自社で建てる時は他人任せにしても、自分の家を建てる時はそうはいかない。自分の中の小さな希望が、沸々と湧いてくるものである。
「1階の柱を全部取っ払って、大きな一つの空間にしたい!」というのが、若い施主の希望だった。2階には普通に間仕切られた個室があり、話を聞いただけで「そりゃ無理だろう!」と思った。
しかし、営業担当者が大事な取引先からの依頼だと言うので、とにかく一度見に行こうと話がつき、その住宅へ向かった。
総面積約40坪、20坪が重なった、4間5間のごく普通の住宅だった。1つの空間と言っても、1階には便所、台所、風呂、洗面所、階段がある。さらに和室等もあり、結構細かく仕切られている。その角々に柱が立ち、上階を支えているはずだ。
簡単な図面はあるが、通し柱と管柱は天井裏に潜って視ないと断定できない。当然、梁がどう乗っかっているかも見なければ分からない。
正直言って「こりゃ面倒だ!」と思った。まあ結果的に施主の希望が叶えられないにしても、施主に十分説明出来るだけの資料をつくり、どこまで希望が叶えられるか考えてみようと思い、天井裏に潜った。
木造建築は軸組を無視して改修工事できない
和室の押し入れの天井から天井裏に入り、図面と見比べながら、まずは通し柱の位置を確認した。4隅と階段に通し柱を確認。残りは全て管柱だった。
梁は一般的な4寸角が細かく掛かり、最大で240の成のものが掛かってる。水回りと階段の周囲の柱は手を付けられない。ポイントは、その他の管柱をどの程度抜けるかだろう。
ただ、理屈で出来ると考えても、役所との兼ね合いもあり、あからさまに違反建築をする訳にも行かない。さらに現実的には、建物の強度を考えれば、柱間の筋かいを取った時の、建物のねじれも考えなきゃならない。頭の痛い処だ。
施主には問題点を全部話した。出来る事には限りがあり、可能な限り大きな空間を確保できるようなアイデアを考えましょうと伝えた。