「工期のダンピング」で新国立競技場の悲劇が繰り返される?
「2.1者入札中止の全面的な撤回」をめぐっては、このまま1者入札を中止していては、「新国立競技場の悲劇」が今後、東京都中で繰り広げられる懸念があるという意見も出た。
ちなみに、2010年の全国知事会が行った調査報告書によると、一般競争入札における1者入札が有効と回答した都道府県は全体の66%を占めたのに対して、原則として1者入札は「無効」と回答したのは10都道府県、21%に上るが、大勢としては、1者入札は有効であると考える自治体が多いのが実態である。
東京都中小建設業協会の幹部は「1者入札の中止で何が起ったか。工期のダンピングである。」と断言。
「1者入札の中止によって、平均で23.2日(5.57%)もの工期を圧縮することになった。新国立競技場で過重労働により若年者の現場監督が自ら命を絶つという悲劇は記憶に新しいが、この1者入札中止により、東京中でこの悲劇が繰り返される可能性がある。このようにわれわれは懸念している。全面的な撤回を要望する」と東京都側に強く迫った。
楠茂樹部会長も「1者応札については個人的には都中建の意見の通りだと思います」とコメントした。
中小企業基本法を隠れ蓑に、大手ゼネコンの連結子会社が入札参加?
「3.JV結成義務撤廃の撤回」では、かなり興味深い意見も出た。
中小企業基本法を隠れ蓑に、大手ゼネコンの連結子会社や東京支店もない地域建設企業、元大手ゼネコンであった民事再生企業の受注に対して、あたかも中小の代表として取り扱うことに不満が出たのだ。
というのも、JV結成義務の廃止により、逆に中小建設企業の入札参加が増え、受注割合は増加しているという評価が一部から出ているからだ。しかし、その中小建設企業の中身は、本来の意味での中小建設企業と異なる。それでは本来の中小建設企業とはどういうものか。東京都中小建設業協会はこう指摘する。
「われわれは今まで発注者と連携し、東京都の除雪作業、緊急施工または道路啓開協定に基づき、地域の安心・安全の担い手として活動してきた自負がある。しかしその一方で、経営面は脆弱であり、職員の高齢化や人手不足などの課題に悩んでいるのが実情だ。」 (東京都中小建設業協会)
従来から、中小建設企業は、大手ゼネコンとのJV結成は職員の技術力を高め、ノウハウを学び、人脈を拡大する絶好の機会としてとらえていた。それが「JV結成義務の撤廃」により「チャンスが失われた」とした上で、「経営に直結するような大きな制度を改革するのであれば、実際にその現場で働く人の声を吸い上げてから実施していただきたい。地域に密着している中小建設業者としては、JV結成義務の撤廃はまったく評価できず、撤回を要望する」と大きな不満を寄せた。
このままでは中小建設企業は潰れる!
東京都中小建設業協会の渡邊裕之・副会長は、「JV結成義務の撤回」に関して、次のようにコメントした。
「東京都の入札契約制度改革は市区町村にも反映され、今は入札参加条件に合った企業であれば、共同企業体でも単体企業でも参加できる入札・契約方式(混合入札)が実施されている。
たとえば約34億円の学校建築で、私どもの会社も地元の中小建設企業とJVを結成し応札したが、中堅ゼネコンが単体で応札し、同じフィールドで戦った。この場合、フェアな入札と言えるのか。当然、中堅ゼネコンが単体で応札した方がコスト面で有利になる。われわれ都中建の会員は、多摩地域も含め、市区町村の発注工事で1件も落札できないケースもある。実際、6月以降、市区町村でそういう入札の事例が増えている。
基本的に混合入札にした場合、仕事の範囲を大手、中堅、地域中小と分離をするべきである。すべての案件を同じ土俵の中で相撲を取れと言われては、都中建としては誰もフェアだと考えることはできない。2020年までは建設業の仕事があると言われても、民需の減退に伴い仕事は減りつつある。このような状態を放置すれば、中小建設企業は潰れる可能性もある。」 (東京都中小建設業協会・渡邊裕之副会長)