スリースターリーフ魚礁を製作する中山製鋼所
人工魚礁は鉄製で「スリースターリーフ魚礁」と呼ばれる。
スリースターリーフ魚礁を製作したのは、鉄鋼メーカーの株式会社中山製鋼所(本社:大阪市大正区、箱守一昭代表取締役社長)。同社のエンジニアリング部海洋グループリーダーの寺島知己さんは、次のようにスリースターリーフ魚礁について説明する。
「鉄は強度があるので、大型の構造物が製作できます。特に加工性に優れていることもあり、ニーズにあった複雑な形状も容易にできます。沈めた後の魚礁は、厳しい波や流れの条件にも対応できます。今回の大型魚礁は、幅12m 高さ15m、重さ42t。鉄製の魚礁は、海中生物に無害であると同時に、大きな空間に餌となる付着物が付着し根魚が集まります。また、背の高いことでブリやマアジ等の浮魚が集まる環境を作り出すことができます。スリースターリーフ魚礁は全国の海で数多くの実績がありますが、鉄鋼業界も漁業に役立っていることを多くの方々に知って欲しいです」
スリースターリーフ魚礁は、工場でパーツを製作し、下田港で組み立てる。組み立てから起重機船で沈めるまでの工程は河津建設が担当した。
スリースターリーフ魚礁を運搬した起重機船は、河津建設が保有する吊クレーン船「第10河市号」。全長56m、幅20m、深さ3.5m、総重量約800tの250t吊クレーン船である。
魚礁工事の施工管理術
では、魚礁工事は、地上の土木工事とどう違うのか?
魚礁工事を担当した河津建設の工事本部課長、河津元さんに港湾土木について聞いた。河津元さんは、同社の若きリーダーである。
——魚礁工事で大変なのは?
河津元(以下、河津) 風や波の状況に応じて、人とモノを事前調整するのが重要です。しかし、いざ現地に行ってみると波や風が荒くて工事を断念せざるをえないなど、先が読めない点が大変です。天気や波、風は事前に予測できますが、現地に行かないと分からない部分も大きいため、現地で工事を断念する確率も1割ぐらいあります。夏は晴天が多くそのリスクは少ないですが、下田市の冬は西風が強いので、特に工程を立てるのが難しいです。今回も魚礁を沈める際、潮と風の流れを読みながら、魚礁全体のバランスを見て静かに平行に設置するのに苦労しました。
――港湾と陸上の施工管理の違いは?
河津 海上保安庁に工事届出許可書を提出し、そこに工程管理、安全などについて書き込みますが、海事六法など海にかかわる法律は多岐にわたります。港湾土木では遵守すべき法律が陸上よりも多いです。それから海、風、波によって大きく工程、品質、安全が左右される点も違います。
――河津建設では魚礁工事が多い?
河津 河津建設では、伊豆半島において今回で5回目の魚礁設置となります。今後も魚礁の設置は多少続くと予想しています。河津建設の全体の仕事量としては土木5割、建築5割です。土木は一般土木、港湾、治山林道に分類していて、魚礁工事は港湾のカテゴリーに入ります。
河津建設は、完全な地域密着型企業です。伊豆半島に根を張った地域建設企業だからこそ、地元に役立つ仕事ができ、またやるのが使命と考えています。