公共土木工事の発注者と受注者
5月6日、関西学院大学とのアメフトの試合で悪質タックルが批判されている日本大学アメフト部。22日の謝罪会見で宮川泰介選手は、反則プレーは内田正人監督の指示だったと説明したが、理不尽な指示であっても逆らうことができないのは、日本大学アメフト部だけではない。土木工事の現場も同じである。
内田監督と宮川選手の関係は、まさに公共土木工事の発注者と受注者の関係とそっくりである。公共工事の発注者と受注者は表向きでは甲乙対等とされるが、実際は対等ではない。発注者である役人に逆らうことが許されるわけがない。当然、発注者と受注者の間で、「コミュニケーションの乖離」は起きやすい。
土木技術者は発注者の意向に逆らえない!
ある災害復旧工事でのこと。災害査定のための調査や設計、査定書作成などを担当していた私は、毎日のように発注者の元に出向いて、資料の内容について説明していた。発注者から今後の方針や設計条件などの指示や要望を受け、査定書に反映させたり、図面や数量に記載したりする仕事だ。査定書は、国会や県議会に予算を通すための大まかな積算資料で、その根拠として報告書や計算書が必要となる。私は発注者と何度もやりとりを繰り返すのだが、「そんな意味で言ったのではない!」と何度も突き返された。
しかも、この発注者とは何度も一緒に仕事をしたことがあり、お互いに人となりがわかっているはずだった。付き合いは長いので、疑問があれば質問することもできた。そんな関係でも乖離が出てしまうのだ。
しかし、発注者の意向に、受注者は背けない。われわれ受注者が「明らかにおかしい!」と思っても、発注者に従わざるを得ないことは、私自身も何度も経験している。国民の血税を使わせてもらいながら、発注者の意向どおりに無茶苦茶な工事をさせられた経験のある私は、日大アメフト部の宮川選手に自分の姿を重ねてしまった。
発注者の意向に逆らうことは、今後のプロジェクトを受注できなくなることを意味する。公共工事の入札に恣意的な要素が入ってはならないのだが、実際には業務や工事の点数を低くつけられる。顧客満足度の調査票に「不満足」と書かれることもある。宮川選手はさぞ悔しかっただろう。