全てが衰退する中で秘める揺るぎない思い
木、道具、伝統技術。北村社長のアイデンティティとも言えるこの3つの要素は残念ながら今の時代、失われていく運命にある。本人も重々自覚していて「棺桶に足を突っ込んだまま仕事をしとるようなもん」と自嘲気味に笑う。
「もう全てが衰退していますよ。木はここ60~70年で劇的に変わってしまって、プレカットが95%を占めるようになりました。手加工はせいぜい5%です。戦後、山を切りまくったことで環境も激変しています。林業も衰退しています。宮大工も道具を作る職人ももう本当にいないんです。日本の文化は無いに等しいですね。伝統構法が今後、盛り上がることもないでしょう。僕らのような人間が完コピして維持するので精一杯ですから」。
そんななか、北村社長はことさらに危機感を叫ぶわけではない。実に泰然自若としている。その心を問うと、
「こういう効率重視の流れができている以上、僕個人が何を言っても仕方ありません。本当にどうしようもないときが来るまでは続くのだと思います。でも、いよいよ打ち止めになって、“じゃあどういう方法がある?”となったらうちらのやり方しかないはずです。元々あったものに戻るしかない。そのとき、自分は死んでると思うけど、技術はつながっているかもしれないし、僕が手掛けたものが未来の人たちの道しるべになるかもしれない。そんな思いで自分が今できることをやっています」。

会社があるのは鳥取県大山町の御来屋駅の近く。北には日本海、南には名峰大山が広がる。
いつかは木と会話ができる職人に
今の時代にはマッチしていない。でも、本質的な仕事だからいつか必ず求められる日が来る。そんな北村社長の考え方は、命に対する畏敬の念から生まれているようだ。つまり、かつては木が生き物として扱われていたが、現代は木がモノとして扱われているということ。
「僕は自分が使う木がどこでどんな環境で育ってきて、いつ切られたものなのかわからないのが嫌なんです。木にも個性があって、谷の方は素直なので化粧材に向いていたり、頂きの方は暴れん坊なので構造材に向いていたり。それとこれは本当に不思議なんですけど、若い木を切るときより樹齢300年の木を切る方が気疲れするんです。同じ作業をしても疲れが全然違うんですよ」。
北村社長は最後に夢を話してくれた。それは、「木と会話できる大工になること」。
「生き物である以上、木にも思いがあるはずです。“建築物のあの部分に使って欲しい”とか“こいつの家には行きたくない”とかね(笑)。そういう思いをキャッチして、木の思いに応えてあげたい。木の寿命を人間の都合で縮めているとはいえ、僕は家を建ててからも木って呼吸をしていると思います。これからも木の声に耳を澄まして、かつての宮大工達に恥じない仕事をしていきたいですね」
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