全部建築仕様に書き換えろ
現場事務所で全員に簡単な挨拶を済ませた後、私は同じ建物の角部屋にいるコンサルタントに会いに行った。
コンサルタントは開口一番、「やっと 建築の人が来ましたか!」と喜んだ。
「え?建築の人間はすでにいるのでは?」と問うと、「ここにいるのは土木の人間だけで、建築の人間は一人もいません」と言う。
「今、捨てコンの段階で止まってるのは、鉄筋のカブリが全て土木仕様になってるからです。それを全部建築仕様に書き換えるように指示を出してから、もう2ヶ月も経っています。加工を考えると時間がありません。
その他にも建築関連の図面と書類が全く提出されてません。困ったもんです。あなたはそのためにガーナまで来たんでしょ?」
私に割り当てられた机に戻ると、ドサッと構造図面が置かれていた。
高慢なゼネコンのOB
日本のゼネコン本社にも、ガーナでの実態は伝わってるが、現地に派遣しようとする人間にその情報をすべて話すのは極めて稀だ。
意識的に隠しているのではないと思いたいが、それはどこの国、どのゼネコンでもあることである。私もそれ位の覚悟は出来ているし、実際、行く前と話が全然違っていた海外の現場を幾つも経験している。
しかし、海外に行ってしまったら、もうどうにもならない。待遇面、金銭負担、労働時間等が大幅に違う場合は困るが、仕事に関する内容であれば、その中でベストを尽くすのが技術者だ。
さて、この現場で最大の問題は、ゼネコンのOBで実質的に現場所長も頭が上がらない人間の存在だった。会った瞬間、直感的に「問題はこの人だな!」と感じたが、私の直感は正しかった。
会社でどれほどの功績を上げた人物なのか知らないが、その傲慢な命令口調は非常に不快だった。言っていることが全然心に響いて来ないし、恫喝して脅して人を動かそうとするのだ。
「貴方のやり方は間違っている!」と言い返したかったが、口先ではなく実際に行動で示すしかない。
私はまず鉄筋加工の確認を最優先に着手した。救いだったのは、所長が高飛車な性格でなく、正直な人間だったことだった。
(つづく)
この連載期待している。
老害は比較的多いんじゃないかな、建設業。海外の案件みたいな、より柔軟さが求められる案件だと特に邪魔くさそう。
すげえ人がいるんだな。