指名停止措置の該当理由に指導票を事後追加し遡及適用
まず、甲県の「県発注工事事故における指名停止措置について」の文書を確認しておこう。
(ア)の部分は、書き換え前後でも同じだ。
(ア)発注者において設計図書等で、具体的に示した事故防止の措置を請負人が適切に措置していない場合又は発注者の調査結果等により、当該事故についての請負人の責任が明白となった場合
書き換えられたのは、下記の太字部分だ。比較してみよう。
【書き換え前】平成27年8月某日の文書
※ (ア)について、労働基準監督署からの是正勧告書が出されている場合は、是正勧告書が労働安全衛生法等に対する違反がある場合に行われる行政指導であることから、原則該当します。
【書き換え後】平成30年3月某日の文書
※ (ア)について、労働基準監督署から使用停止命令、是正勧告書、指導票が出されている場合は、使用停止命令、是正勧告書が労働安全衛生法等に対する違反がある場合に行われる行政指導であること、指導票は労働者に過失がなく、業者が当該事故に関して事故防止対策に改善の余地があったという観点から、原則指名停止措置に該当します。
書き換え前の文書では、指名停止該当理由は「是正勧告書」のみだったが、新たに「指導票」が追加されている。
A社の現場で死亡災害が発生したのは、平成29年頃。労働基準監督署が指導票を切ったのは平成30年1月。そして、B社が指名停止になったのは平成30年2月だ。つまり、甲県は、まずA社を指名停止。事後に「指導票」を追加し、それを理由に、遡及して処分を下したことになる。
日本には、法令の効力は、その法の施行時以前には遡って適用されないという原則がある。甲県の今回の処分は、この原則に明らかに反する。たとえ、甲県の指名停止措置が法ではなく県の裁量であったとしても、監督行政の法を基準に行われていることには変わりない。