労働安全衛生法第29条が想定する死亡災害のケース
かなりややこしいが、今回の事例をもとに、労働安全衛生法が定めるところを読み解いてみる。
労働安全衛生法 第二十九条
1. 元方事業者は、関係請負人及び関係請負人の労働者が、当該仕事に関し、この法律又はこれに基づく命令の規定に違反しないよう必要な指導を行なわなければならない。2. 元方事業者は、関係請負人又は関係請負人の労働者が、当該仕事に関し、この法律又はこれに基づく命令の規定に違反していると認めるときは、是正のため必要な指示を行なわなければならない。
3. 前項の指示を受けた関係請負人又はその労働者は、当該指示に従わなければならない。
労働安全衛生法第29条は、下請け業者が法令違反して、下請けの労働者の死亡災害が発生したケースを想定している。
今回の事例に照らせば、下請けB社は事業者、元請けA社は元方事業者に当たる。A社が下請けの法令違反を見逃した場合、A社は是正勧告書の乙票(後述)を切られる。ただ、この条文には罰則規定がないので、A社は送検されない。
一方、B社は、「足場からなぜ落ちたか」によって適用される条文が異なってくる。ただ、足場から落ちる災害は罰則規定付きの条文がもっぱらで、ほとんどの場合、B社は法令違反により送検される。
ここで、是正勧告書と送検の違いについて解説しておこう。
通常、是正勧告書は、罰則規定があるかどうかで甲票と乙票に分かれる。罰則規定のある条文違反が認められた場合は甲票、罰則規定のない条文違反の場合は乙票になる。死亡災害が発生し、法令違反があった場合は、その罰則規定に基づき送検される。
つまり「罰則規定の有無」は「送検の有無」とも言える。したがって、死亡重篤な災害であっても、罰則規定の有無により是正勧告で終わることもある。これらは全て労働安全衛生法関係法令の適用による。
今回の災害で、仮に法29条違反があるとするなら、A社は是正勧告書を切られるが、B社に法違反が認められなかったことにより、当然、A社には法29条違反がなかったということになる。
ただ現実に、A社が元請けとして施工管理する建設現場で死亡災害が発生しているので、それに対する再発防止は必要になる。労働基準監督官は、A社が策定した再発防止対策に目を通し、行政の立場から指導を行う。繰り返すが、それが労働基準監督官の職務だからだ。行った指導は、指導票として文書化し、記録として保管する。