労働安全衛生法第31条が想定する死亡災害のケース
法31条は法29条と同じく、仕事の注文者に関して措置事項が列記された条文だが、法31条は建設物などを管理する立場(特定事業を自ら行う注文者)に関する条文に当たる。法29条と異なり厳しい罰則規定がある。
労働安全衛生法第三十一条
1. 特定事業の仕事を自ら行う注文者は、建設物、設備又は原材料(以下「建設物等」という。)を、当該仕事を行う場所においてその請負人(当該仕事が数次の請負契約によつて行われるときは、当該請負人の請負契約の後次のすべての請負契約の当事者である請負人を含む。第三十一条の四において同じ。)の労働者に使用させるときは、当該建設物等について、当該労働者の労働災害を防止するため必要な措置を講じなければならない。
例えば今回の災害で、A社が管理する足場をB社に提供し、提供を受けたB社が足場を使用していた際のB社の労働者の災害であれば、A社は法31条第一項における注文者となり、送検される可能性が高い。罰則規定のある31条なので是正勧告では終わらない。A社、B社とも指名停止などの行政処分の対象になる。
建設現場の足場は、足場を提供する者と提供された足場を使用する立場の業者が存在する場合に、法31条第一項が適用になる。例えば、元請A社、下請B社(足場屋)、C社がいたとする。A社はB社に足場を注文し、完成した足場をC社に提供し、C社はその足場を使って仕事を進める。A社とB社は元請と下請の関係、A社とC社は注文者と請負人の関係になる。A社は、安全な足場をC社に提供しなければ法違反を問われ、不備のある足場からC社の労働者が墜落するようなことがあれば、送検対象となる。
また、B社が足場を組んでいるときに発生したB社の労働者の災害は、A社とB社は元下の関係なので、足場の提供はなく、A社は法31条第一項の注文者ではない。足場を使わせていたわけではなく、足場の組立てなどの仕事をしていたからだ。B社が手すりをつけなければいけないところに手すりをつけず、災害が発生した場合、法21条、規則第519条の2などが適用される。
死亡災害に関する条文について、不勉強な建設会社は少なくない。「業者には、送検されたら法令違反だが、是正勧告書は法令違反ではない」と考えている業者がたくさんある。是正勧告書を出されても、罰金を払わないなど、是正勧告書の重みを理解していないからだ。従って県から問い合わせがあったときに、善意で是正勧告書を出されたと申告するケースがある」と指摘する。まさに今回のA社がそれに当たるというわけだ。