条例、指導要綱でみるアパート・マンションを「建築しやすい区」ランキング
これらが主な規定となりますが、この基準となる数値がそれぞれ23区ごとに異なり、計画の仕方を複雑にしているのです。
アパート・マンションの設計の従事している私の独断と偏見で、「条例、指導要綱でみるアパート・マンションを建築しやすい区」を勝手にランク付けしました。
以下の3点を評価軸としています。
- 基準がわかりやすい(もしくは緩い)
先ほど述べた基準がわかりやすいこと、もしくは緩いことです。緩いといっても粗雑という意味ではありませんん。
建築をするにあたっての基準が寛容な自治体だと思ってください。
- 条例・指導要綱の手引、マニュアルがわかりやすい
各行政区は条例、指導要綱の条文はもちろんですが、計画をするにあたりの手引書、マニュアルを作成しています。そのマニュアルが見やすい、わかりやすいということを評価基準としました。
- より良い街にしていこうという気概が読み取れる
条例は嫌がらせではなく、より良い街にするために試行錯誤して作られるものです。その気概が指導内容や手引などから感じ取れるかを評価基準としています(完全に主観です)。
全てを紹介すると長くなるので、「アパート・マンションを建築しやすい区」のベスト3とワースト3を発表します。
なお、これは完全に私個人が考えるランキングであり、他の組織や行政との関連は全くございませんのでご了承ください。
アパート・マンションを建築しやすい区 ベスト3
3位 文京区
日本の最高学府である東京大学の赤門を携え、また神田や御茶ノ水にも近い古くからの学生街、文京区が3位です。
文京区には「文京区ワンルームマンション等の建築及び管理に関する条例」がありますが、名称の通りワンルームの部屋が計画されるマンションのみ規定されているという親切仕様です。
また、基準がとてもわかりやすく、居室が15戸となる場合にのみファミリータイプの住戸の設置が要求されます。その他の設置基準は条例が適用された時点で必要となります。
計画する戸数を考えながら「何が必要?何が不要?」などをいちいち考える必要が無く、比較的計画がしやすいことが評価ポイントです。
他にも、他の自治体では珍しい、バリアフリーなどの住環境をより良いものとするための基準も定めています。自然と良質な住居を計画できるようになり、結果的に質の高いマンションが生み出させるようになっています。
2位 墨田区
東京スカイツリーができてから、めまぐるしい発展を遂げている墨田区が2位です。
墨田区の特長は、なんと言っても条例の手引の見易さです。
用語には一つ一つ細かく注釈を添え、大事なところはアンダーラインを引き、全ての項目が過剰書きで記載されています。
何よりフォントがMS明朝、ゴシック創英角ポップ体といった3大見づらいフォントを使ってないことも評価できます。作成した人は誰だかわかりませんが、とても仕事ができる方なんだと思います。
また、基準が細かく設定されているところも評価できます。
例えば、共用施設である管理人室、集会室、防災備蓄倉庫などは、計画する戸数に従い必要な面積が決められており、さらに天井の高さまで設定されています。
これは設計をする側としてはとても助かります。アパートやマンションを提案したい営業、売りたいディベロッパー、建てたい建主は限られた土地の中で最大限に住戸を計画したいと考えています。当然です。お金を生む事業ですから。
そのため、「お金にならない」管理人室などの部分は無くしてほしい、もしくは極力減らしてほしいという要求をしてくることがあります。
中には「階段の下にとりあえず作っておけ」という指示が来ることもあります。
そんな時、「条例に、最低限この大きさが必要と書いています」と説明できる根拠があることは、設計士としては非常に助かるのです。
また、3位の文京区同様、バリアフリーや防音、安全性の配慮がしっかり明示されており、良質なアパートを計画できるようになっています。先ほど述べたことの繰り返しになりますが、営業、ディベは余計なことにお金をかけたくありません。
なので、バリアフリーや安全性を確保した計画も「無駄だから無くせ」と言う人も少なからずいます。自分が住むわけではないからそう言えるのでしょう。そんな時にしっかり明文化されているのはとても助かります。
1位 新宿区
栄えある第1位は、大学を多く抱える学生街で、区役所が歌舞伎町の入り口にあることでも有名な新宿区です。
新宿区の手引は、手書きのイラストがありわかりやすい。しかもフルカラー。誰もが理解しやすい作りになっています。
また、適用条件が30平米未満の住戸なので、実は広めのワンルームなら条例に適用せずに立てることも可能です。
さらに、周囲の環境に配慮した緑化計画も道路側に設けることを優先しています。緑地を設けると書かれた時、大体は建物の裏手に必要な面積を確保して、「はい終わり」にしてしまうことが多いんです。
しかし、道路に面する部分の緑化を厳しく定めることで周囲の住環境を自然と良いものにしてくれます。
以上が、(個人的に)良い条例だと思う行政区のベスト3です。
3区に共通しているのは、「より良い建物、環境を生むために、細かく丁寧に記載がされている」ということ、しっかりした建物が建てられるのならむしろ歓迎していることです。
いずれも、「良い街にしたい、人を集めたい」という思いが素直に伝わってくる条例、指導要綱です。