土木とは、「くにづくり」である
――土木は「ものづくり」であると言えますか?
藤井聡 もちろんそう言えますが、土木がやろうとしているのは、たんなるものづくりじゃない。つまり、「土木構造物」をつくることだけが土木じゃないんです。「まち」をつくり、「地域」をつくり、「くに」をつくるのが土木なんです。
土木の語源は中国の哲学書「淮南子」の中にある「築土構木」という言葉ですが、土を積んで、木を組んで、まちやくにという「環境」をつくることを含意しています。
それは「civil engineering」という言葉だってそうです。土木は、構造物だけじゃなくて、「civil(文明)」そのものをつくるものだという含みがその言葉にはあるんです。
文明をつくるとは、社会を秩序がある状態にすることです。土木は、構造物だけではなく、空間をつくることなんです。
もちろん、土木構造物をつくることは重要です。ただ、どういう意味で、どういう目的で構造物をつくるのかを決めるのは、「ものづくり」ではなく、「まちづくり」であり、「くにづくり」の視点です。
土木はまちづくり、くにづくりのことを言うんです。土木工学は「まちづくり工学」であり、「くにづくり工学」ですよ。
当然ながら、橋をつくる人、トンネルを掘る人は必要ですが、”まち”や”くに”をどうつくるかを考える人も必要なんです。
まちづくり、くにづくりのために様々なものごとを考える学問は、一般的な言葉を使うなら、「政策学」と言えるでしょう。
そして「政策」は、政治や経済、社会、人間心理、民族、歴史といったあらゆるものを考えながら決めていかないといけないものですから、必然的に、政策学は、政治学、経済学、社会学、心理学、民俗学、歴史学といったものと深くかかわることとなります。
ただし、そんな政策学の中でも、土木は特に、広い意味での「インフラ」に関わる政策を考えるわけですから、土木においては、一言で言うと「インフラ政策学」という学問が必要なわけです。
だから土木工学って言うのは、構造物をつくるための「インフラ工学」と、まちづくり、くにづくりのための「インフラ政策学」の2つを合わせたもの、と定義できるんだと思うんです。
簡単に言うと、国土交通省や自治体の役人がやっている仕事がインフラ政策学、ゼネコンの社員がやっているのはインフラ工学ということですね。
で、僕がやっているのは、国交省や役所にいって、まちづくり、くにづくりをやるためのインフラ政策のプロフェッショナルを育てる学問だということになるわけです。
だから、僕の学問は異端でもなんでもないんです。極めてオーソドックスなことをやっているわけです。今までの土木では、そこが薄かったというだけのことです。
――藤井先生の土木工学が「土木の本道」であると?
藤井聡 そうです。これが構造物をつくるという土木の本道と並ぶ、もう一つの土木の本道なんです。
土木工学は本来、工学と政策学の二本立てなんです。土木学会はこの2つを見据えながら土木を発展させるべきなんだと思います。
例えばインフラ政策を行う場合、まず財源を調達しなければなりません。そこで財政学が必要になります。
インフラをつくると、地域経済にどのようなインパクトを与えるか、国土軸をつくることが、国家経済にどんだけ影響を与えるのかを考えるには、マクロ経済学が絶対に必要になります。だから、僕はマクロ経済学などを研究しているわけです。
「MMT(現代貨幣理論)」のステファニー・ケルトン教授を日本に呼んだりとか、スティグリッツやクルーグマンたちと情報交換なんかもしていますが、そうした研究活動は全て、土木工学の一環としての仕事なんだと言えるわけです。
しかも彼ら経済学者にとっても、インフラ政策は最も重要な領域の一つなんです。ニューディール政策は基本的にインフラ政策ですからね。
例えば、アメリカでは、ケルトン教授らからMMTについてのアドバイスも受けながら、オカシオ・コルテス下院議員が「グリーン・ニューディール」を提唱しています。「グリーン」っていうのは基本的に環境のことを意味していますが、彼女がやろうとしていることは、土木のニューディールなわけです。
だから、ケルトン教授らとMMTについて共同で活動することは、「全くもって土木工学の活動だ」と言うことができるわけです。
――なるほど。
藤井聡 あるいは、土木は、長らくマスメディアバッシングを受けてきましたが、そんなバッシングがもしなければ、もっと多くのインフラ政策が実施できていたはずで、日本のインフラ整備の規模はまったく違っていたはずです。
バッシングによって、国民の社会心理やインフラに対する認識、態度といったものが、民主主義国家日本のインフラ政策を決定づけてきたことになります。
だから僕は、マスコミの影響なども加味した社会心理学、政治心理学を研究しているわけですが、これもまた、インフラ政策学の一環であり、土木工学の一環です。
さらに言うと、インフラに対する認識、態度という社会心理のベースには、日本民族の潜在的な民族性があります。どういうまちをつくるべきか、ふるさとはどうあるべきか、どういう国土をつくるべきかに関する日本人の心情が、日本の国土政策に重要な役割を果たしています。
そういう日本人の心情を考えるためには、民俗学の勉強が必要になります。その答えは民俗学の中にあるんです。実際に日本のインフラ政策には、民俗学者が深く関わってきました。
――例えば?
藤井聡 ダムをつくるときに、水に沈む村にはどういう意味があるのかについて考えるのは、民俗学者の仕事です。土木にとって重要な離島振興法や半島振興法がありますが、民俗学者の民族理論がベースになっています。
「地方の民俗を大事にしないといけない」という考えのもと、離島や半島のインフラ整備が進められてきたわけです。土木は民俗学ともつながっているわけですよね。
少し考えれば、国土交通省が行っているくにづくり、まちづくりは、あらゆる側面で人文社会科学と濃密に接続していることがわかります。にもかかわらず、大学、アカデミアの土木工学では、それらをほとんど教えていませんでした。
ここに、僕が学生の頃に、土木計画学それ自身が退屈だった理由があるんだと思います。
例えばドイツの詩人ゲーテは、ヨーロッパ最大の教養人と言いうる人物ですが、土木に対して非常に造詣の深い人物でした。
彼の代表作の一つ「ファウスト」のラストで、主人公が「こんなに美しいものはない」と叫んだのが、大自然に抗いながら土木事業をなさんとする人間の姿だったんです。
この一例が含意しているのは、まちをつくったり、くにをつくったりするには、ありとあらゆる知識、教養が必要なんだということ。そもそもその作り方によって、その土地の社会経済のみならず、文化芸術まで影響を受けるからです。
例えば、京都に文化芸術があるとすれば、1200年前の京都のまちづくりがあればこそです。パリの文化芸術はパリのまちづくりがあったおかげです。東京の文化芸術は、利根川放水路構築も含めた公共土木による関東平野におけるまちづくり、くにづくりの歴史があったからです。
土木は、文明文化を決定づける極めて重大な影響力を持っています。土木に携わる人間は、そういうことを知るべきです。「経済や物流がうまくまわるようになれば良い」というのは、野蛮人のやる土木ですよ。
文明人ならば、文明文化のため、人間のため、芸術のためのまちづくりをやるべきです。
すげえ!良い事言ってる!土木の本道を心に今日も汗かきます?
藤井教授は教科書に載るレベルのガチの学者ですよね。
倫理学も学ばれていたので、橋下徹のペテンにも気付いたのでしょう。
私も勉強すればするほど、細分化されていくのが嫌でした。
数学1,2やリーディング、ライティングなど…。
小学校の頃の国算理社が許容範囲だったので、大学も一つのジャンルしか学べ無いようで、嫌でした。
藤井教授の存在をもっと早く知っていればなぁと、残念でなりません。
学問とはこうあるべきだと考えさせられる
話は難しいけど、土木に携わる人間なら読んでほしい
土木関係のモノ書きなのに、築土坑木の思想って動画見たことないのかね?
土木マネジメントみたいな感じがした。
国土強靱化って、ただインフラの耐震性を上げることだと思ってたんですけど大間違いでしたね。中・長期的なインフラ整備計画は確かに必要と感じました。自分が定年を迎えたときに、今のインフラが健全な状態にあるとは思えない。
藤井先生のユーチューブ面白かったです。
あと①はもう少しちゃんと記事読んだほうがいい。
ほかの媒体でもちゃんと丁寧にいろいろ答えていますよ。
少し視野が狭いのではないでしょうか
災害復旧工事に携わり8年になろうかとしています。先日の台風19号で被災3県は沿岸ばかり工事したため内陸部の携帯基地局が次々に被害を受け、今もなお、夜間工事で傾いた電柱を修理しています。ある日突然水が出無くなったり、電気が止まる、何起きても公共インフラはおかしくありません。水道事業の民営化やもう少し議論する必要があるのではないでしょうか?
自分はとある官庁で20年ほど土木担当者として働いてきましたが、公共工事では単年度予算というのがネックでしたし、構造物を造る際には周囲の景観にマッチするとか、環境に優しい部材を使用するとか研修や会議では理想論で論じられますが、結局実際に設計する際には徹底的に経費削減を求められ、安全率ギリギリまで規模を削られたり、少しでも安い部材の使用を会計検査院に求められたりで、歯痒い思いばかりでした。
結局すべては予算が最優先で、いつもつまらない仕事をしてたという思いです。
将来どのようになっていくか自分には予測できませんが、もう少し担当者が自分の考えで色々付加価値を付け加えたり、アイデアを生かした設計ができるようになれば土木事業に携わることへのモチベーションが上がり、より良い日本を造ることへ繋がると思います。
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先進国並にやらないといけないと筆者は言っているのですが?
アメリカやヨーロッパがやってる事全否定ですか?