公務員だからといってデスクワークが中心ではない
――女性として現場監督をしていて良かったと感じたことはありますか?
原田 私と建設業者さんとの間には、発注者・受注者という上下関係のようなものがありますが、経験が浅い当時の私は深い知識がなく、業者の方に常に的確な指示ができる立場でもありません。だから「業者の方と相談しながら一緒に現場を創り上げていこう」という気持ちで仕事をしてきました。
女性だからというより若手だったからなのかもしれませんが、私は「提案されたやり方でもできるけれど、別のやり方に変えたほうが作業しやすい」などの要望を、建設業者の方から言ってもらいやすいポジションだったと思います。
私には気軽に話しかけやすいし、世間話をしやすい方も多かったのではないでしょうか。若い業者の方も、私は年が近いから気が楽だったかもしれませんね。
――建設業者の方々とは良好な関係が築けている?
原田 そうですね。工事現場にいる時に「あとで事務所にコーヒーを飲みに来なよ」と声をかけてくれる建設業者の年配男性もいましたよ。現場が終わったあと一緒にコーヒーを飲みながら、仕事の話はもちろんプライベートなこともいろいろ話しました。
現場以外の場所でも語り合うことで打ち解けた分、現場でのコミュニケーションが円滑になって、作業が早く終わることも多くなったんです。建設業者の方と設計書などの書類をやり取りする際も、スムーズに進行できるようになりました。
――現場で作業する業者の方とたくさん話をすることも、大切な仕事の一つなんですね。
原田 そうですね。就職する前は公務員はデスクワークが中心だと思っていましたが、実際に働いてみて、事務所内だけでなく事務所外の方とも接することが多い仕事だと感じました。
群馬県では「地域ニーズを反映した」公共事業を展開しています。かつては行政が県民の方々に公共事業を押し付けたこともあったようですが、「事前に地域の意見を聴いたうえで計画を策定すれば反対者が少なく、工事も早く進められるから効率的だ」という考えに至り、方針の転換を図っています。県民の意見を聴くために、アンケートを取ったり地元説明会を頻繁に開催したりしています。
話すのが苦手な私も、現場監督をしていた時は事業の節目ごとに、公民館などで住民の方々を対象に説明会を実施し、PowerPointを使いながら事業の説明をしました。
私が担当したのは20人くらいの規模でしたが、事業の大きさによっては50人、100人と大勢が集まる説明会も開催されているのではないでしょうか。1対1で会話したり大勢の前で説明したりと、仕事をしていくうえで「話す力」を身に付けることもすごく大切だと実感しています。
信号機の移設申請を忘れ、工事がストップ
――印象に残っている出来事は?
原田 土木事務所に勤務している時、工期がとても短い道路改良工事を任されたことです。通常の作業で期間内に終わらせるのは不可能なので、工事に関る方々と頻繁に話し合い、工期に間に合うよういろいろ調整しました。
一例を挙げると、電気・ガス・水道の業者は通常、それぞれ日にちをずらして作業するのですが、同じ日に複数の業者が作業できるよう調整したことなどです。建設業者が現場に入れない日があれば、何が障害になっているのか理由を洗い出して、前倒しして現場作業ができるように配慮しました。
建設業者の方々は余裕日を見込んだ工期を提示してくるものですが、少ない日数でなんとか工事を終わらせてもらえるよう、がんばってもらいました。
結果的に、通常なら1年くらいかかる工事だったのですが、1年弱で完了し工期に間に合わせることができました。難しい条件のなかでも効率良く現場作業をしてもらうために、業者の方々と良好な人間関係を構築することも、現場監督として大切なのだと学んだ体験です。
――堅実な印象を受けますが、失敗してしまったこともあるのでしょうか?
原田 歩道の拡幅工事をした時、設計書や図面をよく見たつもりなのに、私も建設業者の方も信号機を見落としてしまったことがあります。事前に信号機の移設を申請していなかったため、工事の進行が止まってしまいました。気づいてから移設依頼を出し、早めに対応してもらえたのは助かりましたが…。
図面を見るだけでなく、現場を実際に歩いて障害物がないか確認することも、現場監督として重要な業務なのだと思い知りましたね。