施工の良否がコンクリートの性能を左右する
生コンは、国が認めた工業製品(JIS製品)として、施工現場で施工者に商品で引き渡される。責任範囲は、それまでは生コン製造業者。現場で生コン荷卸、受入検査OKの時点で、その所在が施工者に移行する。しかし、この時点では生コンの性能しか判明しておらず、硬化後の性能は不明であるばかりか未だ半製品でしかない。
硬化後の性能は、現場内での運搬、打込み、締固め、仕上げ、養生―といった施工のやり方次第。コンクリート全般の性能が明確になるのは、強度が28(91)日後、耐久性に至っては数年後となる。
このようにコンクリート構造物は性能発揮の完了までに長い工程が掛かるのだが、近田は工程の初期にあたる施工こそがコンクリート構造物の性能の良否を分ける極めて重要な役割を担うと語る。
これを近田は「三つ子の魂、百まで」と比喩し、施工者に注意を喚起する。
「生コンの状態は、未だ分離しやすいという認識を持っておられる方が少ないのではないでしょうか。JISの工場できちんと練り交ぜて、アジテーター車という専用の車で運搬しても材料分離するのが生コンの本質です。『一体化したものだから手軽に施工できる』と現場の方が思われていることに不安を感じています」
近田は、生コンの基本を理解して取り扱うことの重要性を説く。
作業が細分化され、コンクリートの本質が理解されていない
施工面での課題を指摘する一方、近田は「今さら言ってもしょうがない」と前置きした上で、日本での建設業システムの問題について言及する。
「生コンを打設する場合、生コン製造業者、ポンプ業者、施工業者などが携わるため、責任の所在が分散しています。非常に合理的で効率的、コストダウンにもつながっていますが、構造物に不具合があった時には起こるのは、責任のなすり合いです。
もっと酷いのは、施工を請け負った施工業者が、さらにポンプ業者に生コンの現場内運搬を再委託するなど、コンクリート構造物を造り上げる作業全般の分担が細分化して、生コンの性能、性質が一貫して理解されにくいシステムに動いていることです。コンクリートに携わる全ての人たちが、その本質を理解して扱い方を学ぶことが本来の姿なのではないでしょうか」
また、コンクリート構造物を施工する際は、工程毎にその基本事項が共通仕様書に記してあり、それを遵守することで、施工のクオリティを担保している。だが、近田は様々な大型構造物の施工現場で試験施工に携わった経験から、その特異性を指摘する。
「土木工事の場合、現場によって環境条件が大きく異なることが品質確保に影響します。海なのか、川なのか、山なのか、季節はいつなのか。常に条件が変わるんです。さらに現場が遠いのか、近いのか地理的条件も違ってきます」と、建設業が持つ独自な作業形態が品質確保に及ぼす変化についても言及する。
コンクリートの質の良さって、何十年も経って出てくる不具合でわかるんだよね。
だから、技術も大事だと思うけど、根っこに技術者としての矜持も大事なんじゃないかと思ってる。
それが無かったら、この程度でいっか、ってなるしね。
こだわろうと思えばどこまででもこだわれるけど、その結果が分かるのがずっと先というジレンマ