日本橋周辺の再開発に合わせ高速地化化へ
――建設から50年以上、日本橋の上に高速が通ったままですね。
諸橋室長 地元の方々は、オリンピックが終わった直後ぐらいから、「名橋「日本橋」保存会」を結成して、活動されていました。ただ、道路を通して間もないころだったので、架けかえる話にはなりませんでした。その後もその状態が長く続きました。
日本橋の首都高を架けかえるきっかけになったのが、2001年に当時の扇千景国土交通大臣が「首都高の高架に覆われた日本橋の景観を一新する」と発言されたことです。これを受け、「東京都心における首都高速道路のあり方委員会」が設立されました。
2006年には当時の小泉純一郎首相が「日本橋川に空を取り戻す会」を設置しました。このときに、民間が先行してまちづくりを行い、そこに公共が入っていくという、現在のカタチに近いアイデアが出されました。
首都高としても、建設から半世紀が経ったことから、2012年に「首都高速の再生に関する有識者会議」を立ち上げました。その提言の中で、「都心環状線の高架橋を撤去し、地下化などを含めた再生を目指し、その具体化に向けた検討を進めるべき」とされました。
これを踏まえ、2013年に「大規模更新事業計画」をまとめ、更新事業を進めることになりました。この事業計画の中で、日本橋区間も更新区間に位置づけられています。
ただ、この計画では、「高架のまま架けかえる」という話でした。地下を通すカタチではありませんでした。
2016年に日本橋を含む周辺3地区(八重洲一丁目北、日本橋一丁目中・一丁目東)が国家戦略特区の都市再生プロジェクトに指定されました。ついに民間主導により、正式に再開発が進むことになったわけです。
このタイミングを逃すと、「二度と首都高速道路の地下化ができない」ということで、2017年に当時の石井啓一国土交通大臣と小池百合子東京都知事が「日本橋周辺のまちづくりと連携し、首都高の地下化に向けて取り組む」と発表されました。
これでやっと、日本橋区間の地下化に動き始めたわけです。最終的には、日本橋周辺の再開発が地下化の引き金になりました。
3200億円、20年かけて1.8km区間を更新
――地下化事業とはどのようなものでしょうか?
諸橋室長 地下化の発表を受け、2017年に国、東京都、首都高速道路株式会社、中央区のメンバーから成る「首都高日本橋地下化検討会」を設置し、対象区間やルート案、事業スキームなどの検討を行いました。
一言に地下化といっても、一筋縄では行きません。まず地下鉄だけでも、半蔵門線、銀座線、浅草線が干渉します。それぞれ異なる深さで交差するので、地下鉄の間を縫うようにルートを確保する必要があります。
更新事業の事業区間は、竹橋ジャンクション〜江戸橋ジャンクション間の2.9kmですが、大手町周辺はすでに都市開発が進んでいます。このエリアには、JRの在来線、新幹線も走っていて、地下化するとなると、新幹線の基礎を一旦壊さなければなりません。新幹線をイジるのは、工期的にもコスト的にも非常にロスが大きいんです。大手町周辺を地下化するのは現実的ではないという判断に至りました。
そこで、新幹線と交差するところまでは、すでにトンネルが通っている八重洲線(4号線)をそのまま使うルートになりました。現在は、トンネルの手前で八重洲線と都心環状線が分岐しているのですが、八重洲線を都心環状線にしてしまって、常盤橋再開発の隣接地区辺りの地下で新たに八重洲線と都心環状線を分岐させることにしました。新たな都心環状線はちょうど日本橋の真下を通ることになります。日本橋をくぐった後、徐々に上がっていって、地上に出て、6号向島線に接続するというカタチになります。
新たなルートは、一部区間は半蔵門線と並走するカタチになっており、ラップするところもあります。日本橋地下化の事業区間は約1.8km。トンネル区間は約1.2kmです。
地下化事業全体の概算事業費は約3200億円です。10年前に「日本橋川に空を取り戻す会」が行った試算では5000億円でしたが、ルートの変更や工法の見直しなどで圧縮されました。
大規模更新費、出資金の償還期間の見直しでそれぞれ約1000億円調達します。残りの約1200億円は、東京都と中央区の負担金が約400億円、民間負担が約400億円、首都高の負担が約400億円という内訳になります。出資金の償還時期の見直しというのは、無利子の出資金を最後に償還することで、利息がその分軽減されるわけです。