ドローンビジネスは「データビジネス」
――エアロダインが手掛けるドローンサービスとはどのようなものですか?
伊藤 エアロダインジャパンは、エアロダインの世界17カ国目の現地法人として、2018年7月に立ち上がりました。エアロダインは以前から、ドローンを使って、送電線や通信鉄塔などの点検事業をマレーシアで行っていました。エアロダインは2014年に設立されたスタートアップですが、創業から2〜3年で、ソリューションビジネスとしては、すでにできあがっていました。
世界的に見ても、電力会社や通信会社が抱えている課題は共通しています。つまり、広い面積に膨大なアセットが展開されているので、その点検をいかに省人化していくかという課題です。エアロダインの点検サービスは、世界各国のインフラ会社から引き合いを受けていました。
世界のドローンの市場は14兆円で、そのうち日本の市場は2000億円です。日本のGDPを考えれば、14兆円分の2000億円はものすごく低いですが、それだけ日本のドローン市場が遅れている証なんです。14兆円のうち、アナリティックやプラットフォーム分野が53%を占めています。
要するに、ドローンビジネスは、実はデータビジネスで、ドローンで得られたデータをAIを用いながらどう活用するかが重要なんです。これがいわゆる「Drone as a Service(DaaS、ダーズ)」、「Software as a Service(SaaS、サーズ)」と呼ばれるサービスなんです。
エアロダインのサービスには、インフラの点検のほか、工事現場のモニタリングもあります。「工事現場は世界一生産性が悪い」と言われるほど、工事現場は予定より遅れるものなんです。大きな現場になれば、1日の遅れが億単位の損失につながります。それをドローンを使ってモニタリングし、現場の状況をセミリアルタイムで把握するサービスです。経営層が直接現場状況を判断できるので、工事の遅れを防ぐことができます。
土木測量や都市の3Dマップ化のサービスもあります。ドローンや3Dマッピングは、日本でも普及しつつありますが、実は、インフラ点検や現場モニタリングに比べ、規制の影響などが少なく、社会実装が一番簡単な領域なんです。
――伊藤社長とエアロダインの関係は?
伊藤 私はもともと、アメリカで映像の勉強をして、ロサンゼルスの映像制作会社で現地コーディネータとして働いていました。その後、就労ビザがとれなかったので、日本の映像制作会社に出向しました。そこでは情報バラエティ番組などをつくっていました。2017年の年末ごろに、妻の転勤に伴い、その会社を辞め、シンガポールに移住しました。現地では自分で会社をつくって、今でもメディア事業をやっています。
その仕事のつながりで、エアロダインを知りました。もともと映像事業でドローンは使用しておりましたが、エアロダインの社長から「ドローンを使った点検サービスというビジネスがあるんだよ」と教えてもらって、すぐに「これは面白い!」と思いました。それで、シンガポールにある現地法人のお手伝いなどをすることになったんです。ですので、土木の観点で言えば完全に土木素人ではあります。
自前のインフラを持つ日本企業と組むべき
――エアロダインはなぜ、日本法人を立ち上げたのですか?
伊藤 そもそものきっかけは、NTTの関連会社から、エアロダインに対し「連携できないか」とアプローチがあったことです。ただ、エアロダインでは「日本の商習慣がよくわからない」ということで、日本企業との連携には消極的でした。
「じゃあ私に任せてごらん」ということで、私が両者の間に入って、いろいろ調整したんです。すると、物事がどんどん前に進んでいきました。「日本はハイニーズだし、伊藤は信頼できる」ということになり、日本法人を設立しようという話になったんです。エアロダインから「日本法人の社長をやってほしい」とオファーが来ました。
私は社長を引き受けるに際し、エアロダインのHQに対して、3つの条件を出しました。1つ目が「日本法人設立後、2年間はドローンを飛ばせると思わないでほしい」。日本のインフラ点検のマーケットはすごくコンサバティブだし、マレーシアのスタートアップ企業には馴染みがない。とどめに飛行規制もガチガチ。日本ではとても1、2年では動かない。そう考えたからです。
2つ目は、エアロダインジャパンは、日本国内のアセットを点検する会社ではなく、エアロダインが進めるグローバル展開における日本の顧客窓口という位置づけでいこうということです。日本にはグローバル企業多いので、「ドローンを使って、海外でなにかをやろう」というときに、エアロダインが必要なサービスを提供するということです。私はHQに対し、「ここは間違いなくブルーオーシャンだ」と説明しました。
3つ目は、日本国内でサービス展開するには、エアロダイン単独ではムリ、パートナーが必要だということです。パートナーは、建設会社などではなく、自前のインフラを持っている会社で、社内にニーズがある会社と手を組むべきだと言いました。そういう条件で、エアロダインジャパンの社長に就いたわけです。
エアロダインジャパンを立ち上げる際、HQから「日本の営業マンを20名ぐらい雇うか」と打診があったのですが、「一人もいらない」と断りました。エアロダインのサービスが日本で浸透するには、最低でも1、2年かかるので、最初から20名いても機能しないし、NTT西日本と組むと決めていたので、かえって邪魔になると考えたからです。なので、エアロダインにいるのは、私と私のアシスタントの2名だけです。