装飾施工会社は”海を失った漁師”
――装飾施工会社に与える影響は?
石森 会社がもつかどうか、というような状況です。たとえば、展示会業界では装飾・施工の関連企業は首都圏だけでも1,500社ほどあると言われ、多くの企業は大手ではなく中小、場合によっては零細の方もいらっしゃいます。東京五輪が延期になり、展示会も中止・延期になったことで、会社の存続という問題がダイレクトに突きつけられている。今回、東京都に嘆願書を提出したのも危機感からの表れからです。
今は、展示会場という”海”を失った漁師の状況です。災害が起きて、明日から漁師が海に出られなくなったとしても、畑を耕す仕事には従事しないと思います。装飾施工会社も同じで、商売替えして明日から魚を売るわけにはいきません。新たな海を見つけて、さらにそこから開発し、投資をし、ビジネスをカタチにしていかなければならない。
今、当社を含め中小の装飾・施工会社は大変厳しい状況です。その影響を一言で言えば「破壊的」に尽きますが、決して大げさな表現ではありません。
――新たなビジネスモデルへの移行は難しい?
石森 こういう運動をしていると、色々なご意見・ご提案をいただくことがあります。たとえば、「今はちょうどホテルの建設ラッシュなのだから、一時期、仮設の仕事をやめて、ホテル建設の内装の仕事をやったらどうだろうか」などですね。
しかし、仮設と本設は似て非なるものです。同じ大工でも使う道具や材料、合わせ方も違います。10~30年に渡り、仮設で切磋琢磨してきた大工が急に道具を変えて、本設の仕事をすることなどできません。同じモータースポーツでも、F1のようにサーキットを走るレースと過酷な砂漠走るレースとでは、車種も環境も異なりますよね。ですから、「本設で食いつなぐべき」というご意見は、現実的ではないんです。
東京ビッグサイトにこだわるワケ
――地方会場での開設の動きもあるが。
石森 展示会場での最大の武器は、出展社と来場者数の多さにあります。展示会場が広ければ、より様々な展示物を見ることができ、バイヤーにとっても新たな発見が生まれます。そして相乗効果で、提案しているメーカーにも新たな商機も生まれます。しかし、会場が小さいとその効果を生むことができません。
また、現在は海外からもバイヤーが多く訪問します。交通の面でも、羽田や成田からも近い東京ビッグサイトが使えないことは深刻な問題なんです。世界的に見ても、展示会場は概ねその国の首都圏に置かれています。
昨年春にドイツの展示会に行きまして、スウェーデンのブースのお手伝いをしましたが、ドイツやスウェーデンの首相が来訪し、懇談する姿を見る機会がありました。日本の展示会はそのレベルには達していませんが、ヨーロッパでは国のトップが訪問するほど展示会を重要視しています。つまり、展示会は国力を上げることにも直結しており、だからこそ東京で開催する意義は大きいんです。