「構造愛」がないと仕事をやっていけない
――これまでで楽しかった仕事は?
森下さん きついことも多いですが、どの仕事も楽しかったです。自分が手掛けた仕事がお客様に実際に使用され役立つことがなによりの喜びですかね。とくに安全に関することですね。今は亡き偉大な先輩の口癖が「名高速の構造物を愛せ!」で、それを若いころたたきこまれました。新設、補修問わず設計する際には、強く言われていました。そのことがいつの間にか体に染みつきそれを心がけてやってきました。
――「愛」ですか。
森下さん そうです。「愛」です。他の都市高速の人も同じだと思いますけど。とくに、名高速は首都高速、阪神高速より設立の最初のスタートが10年ほど遅く、第一期供用はそれ以上に遅くなったこともあり、先輩達は、「技術力だけは東京、大阪に負けない」という気概で取り組んでこられました。
実際、鋼構造にはこだわりが強く、鋼桁や鋼製橋脚の疲労損傷は、交通量の差もあるかもしれませんが、首都高速、阪神高速に比べてかなり少ないです。逆に、「愛」がないと、仕事をやっていけないと思います。技術屋として、いい加減にやっちゃうと面白くなくなると思います。都市高速以外、仕事がないわけですから。他の構造物をやりたくてもやれないわけで。
先輩が「愛せ」と言ったのは、その後続くのですが、「例えば自分の大切な家族が住む家を自ら設計施工しようとした時に、安全や耐久には絶対に手を抜かないはずだ」と、高速道路の設計施工も同じ気持ちで取り組めと、ようは技術屋として恥ずかしくないように取り組めということだったと思います。
――考えてみると、都市高速ってけっこうレアな事業ですよね。
森下さん そうですね。都市高速の事業者は全国でも5事業者しかいません。人口50万人以上の政令指定都市でなければ、法的に建設することができないわけです。一般的な都市間の高速道路とよく一緒にされるのですが、都市内に特化した事業としては別モノです。全路線中の構造物比率も圧倒的に異なります。
そう言う意味で、都市高速に携わる技術者はレアかもしれません。建設から管理運営までやる、そこまで特化した職場はそうはありません。地域によって都市高速の規模が異なりますが、やることは基本的に同じです。建設・管理延長に応じて、組織に大小はありますが、小さな組織だからといって、技術や安全面に劣って良いということは絶対にないので。
そう考えると、名高速もそうですが、同様の福岡北九州高速や広島高速さんも相当苦労されています。首都高速や阪神高速さんが何人かで対応していることを、極々少人数で対応する必要があるので。でも、色んなことをやらされる分、技術者にとってしっかり取り組めば色んな面で力も着くと考えれば、規模的にも5社の中で中間ですし、名高速は「ちょうど良い都市高速」だとも言えます。
――公社の仕事の魅力は?
森下さん 首都高速道路や阪神高速道路と比べると、公社にはそれほど多くの技術者がいるわけではありません。組織としては小さいです。その分、1人の技術者として、いろいろな仕事を経験することができます。担当者の裁量も大きく、自分の意見やアイデアが大きな組織よりは通りやすいと思うので、やりがいを感じやすいのも魅力です。
ただ、今回の都心アクセス関連事業は、裁量の範囲が大きすぎて、とくに技術面では。色んな制約条件から相当大胆な対応が必要となります。これまでの先輩達がこだわってきた技術的な面にそぐうかどうか、先の先輩が存命だったら、怒られそうで心配ですが…(笑)。難しいことに対して、責任もありますが担当者の裁量次第という点が魅力でしょうか。
土木に進みたくても反対されて断念してしまった者です。
素晴らしいお話をありがとうございました。