施工の神様 powered by 施工管理求人ナビ
  • 施工の神様とは?
  • 記事掲載・取材をご希望の方へ
  • キャリアを考える
  • インタビュー
  • 失敗を生かす
  • 技術を知る
  • エトセトラ
  • 資格を取る
  • 建設用語
【 連載:【"3.11"から10年】復旧・復興の最前線で奮闘した建設業界 連載一覧へ›

「地元の人間の意地。ただ、それだけ」 家族を失ってもなお、愛する石巻の復興に命を懸けた現場監督

  • インタビュー
公開日:2021.03.24
  • シェア
  • Tweet
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • 4 コメント
  • メールで共有

埋立て工事現場での生死を分けた判断

2011年3月11日。その日、金戸さんは現場代理人として石巻漁港の埋立て工事現場にいた。地震発生直後、「ドーン」という大きな音とともに、岸壁部分と道路部分に地割れが起き、海水が割れ目から噴出した。その光景を目の当たりにした金戸さんは、「この世の終わり」だと感じた。

この時点では、状況を飲み込めず、津波が発生するかどうかも把握できなかった。だが、「ここに居たら危ない」という思いが先行した。即座に全作業員を連れ、避難場所である日和山への避難を指示。県外から働きにきていた土地勘のない作業員も多く、さらに当日は雪も降る中での避難となったが、全員が避難経路を間違うことなく、いち早く日和山に到着。10数人全員の命が助かった。

震災当日、誰よりも真っ先に津波の被害を受ける場所にいた。もし、判断が少しでも遅れていたら、津波に巻き込まれていただろう。自身だけでなく、大勢の作業員たちの命を救った英断だった。

北上川河口を遡上する津波(H23.3.11 PM3:40頃。日和山より撮影) / 提供:丸本組

北上川河口を遡上する津波(H23.3.11 PM3:40頃。日和山より撮影) / 提供:丸本組

だが、金戸さんは当時を振り返ると、今でも「ゾッとする」という。

震災発生2日前の3月9日、最大震度5弱の地震が発生。津波注意報が発令された。注意報の発令に伴い、あらかじめ有事の際に避難場所として決められていた日和山に避難を行ったが、県外から来ていた作業員が道に迷い、はぐれてしまったのだ。

全員が避難場所に到着したときには、避難開始から1時間以上が経過していた。危機感を抱いた金戸さんは、すぐに避難経路を全体に再共有した。これが功を奏した。

石巻港の被災状況(H23.3.20) / 提供:丸本組

石巻港の被災状況(H23.3.20) / 提供:丸本組

「もし前震が発生していなければ、地元の作業員以外は津波の被害に遭っていたと今でも思う」と話す。

建設業界は作業員が定期的に入れ替わるため、全員に有事の際の避難経路を周知徹底させることは難しい。だが、それでも常日頃から粘り強く避難の重要性を伝えることが、現場の管理を担い、作業員たちの命を任される建設技術者にとっていかに重要であるかを学んだ。今も、携わる現場では定期的に避難場所へ働く皆を連れて、経路の確認を行っている。

若手の採用にお困りの企業様へ[PR]

とめどなく運ばれる震災廃棄物の受入れに奔走

無事に避難は完了したが、通信網が混線し、本社と連絡は取れなかった。「落ち着いたら、事務所に戻ろう」と考えていた直後、津波が町を襲った。冠水し、すぐに山を下ることはできなかったが、発災から2日後、事務所に戻り、宮城県や石巻市からの要請に応じて、応急復旧を開始した。

石巻市中央町被災状況(H23.3.15) / 提供:丸本組

石巻市中央町被災状況(H23.3.15) / 提供:丸本組

まず担当したのは、自衛隊・警察の捜索時に出る災害廃棄物の受入れだった。奇しくも、発災当時に金戸さんが担当していた埋立て工事現場が、災害廃棄物の置き場となった。

1日に300台もの受入れがあり、車両系建設機械5台以上使用し、施工を行った。事務所に寝泊まりしながら、自衛隊をはじめ他業種の人とも打ち合わせを行い、受入れの調整を続けた。

災害廃棄物処理の様子(石巻市長浜付近) / 提供:丸本組

災害廃棄物処理の様子(石巻市長浜付近) / 提供:丸本組

自社も大きな被害を受けた中で、先陣を切って復旧に当たった丸本組だが、すぐに復旧作業に当たることができたのには理由があった。

東日本大震災以降、その重要性が広く認識されだしたBCP(事業継続計画)だが、丸本組では「人命第一」を基本理念に、早期の事業再開と公共インフラ復旧対策に迅速な対応ができるよう、震災以前からBCPを策定。自家発電設備や衛星電話・無線、備蓄食料等を整備していた。

当時、あらゆるインフラが破断した暗闇の中で、石巻市民に希望の光を照らす拠り所にもなった。

丸本組 災害対策本部内のホワイトボード(3月15日)。「今居る人でできる最大限の仕事」のもと、役割分担を行った / 提供:丸本組

丸本組 災害対策本部内のホワイトボード(3月15日)。「今居る人でできる最大限の仕事」のもと、役割分担を行った / 提供:丸本組

次のページ建設技術者は、地域に何を残せるか
«123»
「地域建設業者は半公財」 今こそ”公共事業=悪”という認識の払拭を
「特措法にあまりにも甘えすぎた」ゼネコン幹部が語る、福島の震災復興が生んだ建設業界の”功と罪”
  • この記事をシェアする148
  • この記事をツイートする4
この記事のコメントを見る4

この連載について

【
【"3.11"から10年】復旧・復興の最前線で奮闘した建設業界

東日本大震災から10年を機に、復旧・復興に当たって建設業界や建設行政が担ってきた役割や努力に改めてスポットを当てる。

記事一覧を見る
こちらも合わせてどうぞ!
「命を守るために、会社を辞めた」 “土木の伝道師” 松永昭吾が技術者たちに伝えたいこと
「命を守るために、会社を辞めた」 “土木の伝道師” 松永昭吾が技術者たちに伝えたいこと
「デミーとマツ」のマツさんこと"松永昭吾"の素顔 マツさんこと、松永昭吾さんについては以前、「噂の土木応援チーム デミーとマツ」の記事で取り上げたことがある。 https://sekokan-navi.jp/magazi...
「ライフライン地震工学」とは何か?研究成果を社会に還元させるのが、研究者のやりがい
「ライフライン地震工学」とは何か?研究成果を社会に還元させるのが、研究者のやりがい
研究成果を社会に還元させるのが、研究者のやりがい 社会インフラと言えば、ダムや橋などの構造物を連想しがちですが、電気や水道、ガス、通信なども日常生活に欠かせない社会インフラです。 これらのインフラは「ライフライン」と呼ば...
「風化したDX」の再建。1日1〜2時間分も業務削減した安全書類DXの舞台裏とは
「風化したDX」の再建。1日1〜2時間分も業務削減した安全書類DXの舞台裏とは
『安全書類』にまつわる現場のストレスは極めて大きい [caption id="attachment_81706" align="alignleft" width="1200"] 中村建設の書庫。安全書類は、1現場だけでキ...

この記事を書いた人

『施工の神様』編集部
この著者の他の記事を見る
施工の神様とは、株式会社ウィルオブ・コンストラクションが運営する、「現場目線」の情報を伝える新時代の建設メディアです。

建設業では、しばらくの間、現場の「生の声」が置き去りにされてきました。
長らく3Kと呼ばれてきた建設業は今、国土交通省主導による働き方改革やi-Construction、若手人材の確保育成、資格制度の見直し、地域防災の観点などから、大きな変革期を迎えています。
施工の神様は、施工に関する技術やノウハウ、体験の共有・伝承・蓄積という側面に加え、実際に建設現場で働く建設技術者・技能者の生の声を、建設業界および世間一般に伝えるという役割も積極的に担ってまいります。

個人・企業を問わず、取材してほしい方・執筆協力いただける方・PRしたいことがある方を募集しています。 お問い合わせはこちらへ。
「地元の人間の意地。ただ、それだけ」 家族を失ってもなお、愛する石巻の復興に命を懸けた現場監督 「地元の人間の意地。ただ、それだけ」 家族を失ってもなお、愛する石巻の復興に命を懸けた現場監督

施工の神様をフォローして
最新情報をチェック!

  • フォローする5388

現場で使える最新情報をお届けします。

  • 施工の神様
  • インタビュー
  • 「地元の人間の意地。ただ、それだけ」 家族を失ってもなお、愛する石巻の復興に命を懸けた現場監督

コメント(4)

コメントフォームへ
  • - 2021/12/02 20:39

    東方大震災で家族を亡くしたのほ彼だけではないし、東北の業者は官民一緒に同じ思いでこの10年を生きて来ました!
    1つの会社だけを取り上げるのは提灯記事ですか?

    返信する 通報する
    • 2021/12/03 11:19

      普通に考えて全部の企業を取材される方が難しいでしょう?当日の事を話したくない企業や人だっているでしょうし。なぜそんな考えしかできないのか不思議でならない

      通報する
  • - 2023/07/03 20:56

    意地で復興するのは良いけどさ、昔からの土地の伝承で何度も津波に襲われてる土地じゃなかったですか?
    愛するのは構わないけど防潮堤どうこうじゃなくてさ、津波にさらわれない安全な場所に居住区を作るべきじゃないの?

    返信する 通報する
  • - 2024/09/20 23:01

    それ言うなら日本で安全な場所なんてないから中国の真ん中にでも住んだらいいよ

    返信する 通報する

コメントする コメントをキャンセル


コメントガイドラインをお読みになった上で投稿してください。

email confirm*

post date*

あなたも施工の神様に記事を投稿してみませんか?
おすすめ記事
  • 【髙松建設】「古来の技術と新たな発想を融合する」世界最古の企業”金剛組”再生でベスト・プロデュース賞を受賞

    【髙松建設】「古来の技術と新たな発想を融合する」世界最古の企業”金剛組”再生でベスト・プロデュース賞を受賞

  • 点数稼ぎに走るのは「なんか違う」

    点数稼ぎに走るのは「なんか違う」

  • 「暗闇の先の光見て」コロナ禍の”希望のトンネル貫通写真”が心に響く

    「暗闇の先の光見て」コロナ禍の”希望のトンネル貫通写真”が心に響く

  • 「地元の人間の意地。ただ、それだけ」 家族を失ってもなお、愛する石巻の復興に命を懸けた現場監督

    「地元の人間の意地。ただ、それだけ」 家族を失ってもなお、愛する石巻の復興に命を懸けた現場監督

  • 建設業界をイヤになった主任技術者は”造園”へ急げ!

    建設業界をイヤになった主任技術者は”造園”へ急げ!

  • 人と機械はどう補完? これからの橋梁点検

    人と機械はどう補完? これからの橋梁点検

注目のコメント
  • 権力を振りかざす世間知らずの勘違い野郎どもは本当に消えていただきたいです。

    「○んでくれ」「くせーんだよ」 発注者からの脅迫・暴言集【実録】
  • 公務員なんて、甘ったれのわがまま人間の巣窟。特に、バブル世代にパワハラとかするのが多い気がする。

    「○んでくれ」「くせーんだよ」 発注者からの脅迫・暴言集【実録】
  • 34℃で湿度がどれくらいか判断出来ないが今日びの38℃超え猛暑に比べればまだまし。 皆が言う体調管理なんかで対応出来る範囲を超えている。 朝一番から警戒レベルMAXが普...

    最高気温36℃の”猛暑日”。舗装工事は中止すべきか?【熱中症対策】
  • 勝手に喫煙休憩するな→即飛び蹴り シュールなコントみたいだな

    「暴力も必要かも」大手ゼネコンの若手現場監督に、飛び蹴りした鳶職人
  • 辞めていいんじゃねーか? 下請けの奴隷ならともかく、大手ゼネコンの現場監督ならやりたい奴いくらでもいるだろw

    「暴力も必要かも」大手ゼネコンの若手現場監督に、飛び蹴りした鳶職人
  • 若くても無能なら要らない

    「暴力も必要かも」大手ゼネコンの若手現場監督に、飛び蹴りした鳶職人
  • そんな無能はやめた方が現場のためだよ

    「暴力も必要かも」大手ゼネコンの若手現場監督に、飛び蹴りした鳶職人
  • 飛び蹴りは普通に罪にならないか?

    「暴力も必要かも」大手ゼネコンの若手現場監督に、飛び蹴りした鳶職人
  • 休憩するなら水分取るだけで充分なのにねwタバコまで吸いに行き注意されると即飛び蹴りとはヤニ中毒は危険だな

    「暴力も必要かも」大手ゼネコンの若手現場監督に、飛び蹴りした鳶職人
  • 結局本人の申告によるものでしかないので、無理がありますよ。 すべての作業員さんにカメラつけて録画でもするならば別ですが。 公共工事にしろ民間工事にしろ、昔からすれ...

    「チェックシートで熱中症を防ごう!」 それができたら誰も苦労しない
  • 熱中症チェックシートは本当に不毛。 挙句の果てに、それを書いていても熱中症が発生したら「管理が甘かったからだ!」といってチェック項目を増やしたり、記入内容の真偽を...

    「チェックシートで熱中症を防ごう!」 それができたら誰も苦労しない
  • 建設業界のパワハラと言うよりは特定の会社の特定の上司のパワハラ。

    元自衛官が建設業界に転職したら、”パワハラの巣窟”でした
  • 返信した人の日本語もわかりません。 やり直し

    元自衛官が建設業界に転職したら、”パワハラの巣窟”でした
  • 建設業界って 何処に業界のパワハラをかいてるの? やり直し

    元自衛官が建設業界に転職したら、”パワハラの巣窟”でした
  • 所長が部下の人間性を否定するような現場がうまく回るはずがない。 現場は信頼関係で成り立っている。 現場の雰囲気は主に所長がつくりあげあてしまう。そのような管理職が...

    65歳以上と外国人は、全員”安全弱者”のヘルメットバンドをつけろ!? 納得できない話
  • この著者は神様とは思えないです まず、職人は工程を縮めたいんじゃなく無駄が嫌いなんです。それは管理者もだと思いますよ。 無駄=損害ですからね。

    「不仲説」 現場監督と職人
  • スーパーゼネコンの監督とは仲良くなれないな。

    「不仲説」 現場監督と職人
  • まったく現場の事を理解していない! もっと色んな事を経験して、勉強して下さい。

    「不仲説」 現場監督と職人
  • 不仲は横柄で生意気ななゼネコンのセコカンが原因だと思いますけどね。 舐められない様な教育受けているので仕方ない所もありますが。 職人さんも見栄えよりも工数へらして...

    「不仲説」 現場監督と職人
  •  不仲なら発注しない、請負わない。 お互い仕事できなくなればいい。

    「不仲説」 現場監督と職人
  • キャリアを考える
  • インタビュー
  • 失敗を生かす
  • 技術を知る
  • エトセトラ
  • 資格を取る
  • 建設
    用語
【PR】施工管理技士の転職に特化した求人サイト
施工の神様ロゴ
  • 施工の神様とは?
  • 原稿募集
  • 取材ライター募集
  • 運営会社
  • PR・プレスリリース
  • プライバシーポリシー
  • 広告掲載について
  • お問い合わせ
Copyright © 2025 WILLOF CONSTRUCTION, Inc. All Rights Reserved  リンクフリー
施工の神様